二人の想いの再確認
10月6日【無の日】
今日は休みか……。
さぁどうするかな。
「おはようございます!」
元気に客間に入ってきたのはメイドのサラだった。
俺が寝ていた寝台を整えていく。
「客室で寝るだなんて。奥様とケンカでもしたんですか? 早く謝ったほうが良いですよ。一般的に女性からは謝りませんからね。まぁケンカは夫婦仲のスパイスですから良いですけどね」
別にケンカしたわけではないけどな。でも女性からは謝らないものなのか。それは認識不足だったな。
「サラもザインには自分が悪くても謝らないの?」
「基本はそうですね。でも本当にマズい時は謝ります。そんな事はあまりないですけどね」
今の俺とスミレはどうなんだろう?
ロード王国の公爵になるかどうかで意見が違っている。スミレは自分の心を押し殺してロード王国の民の為に、パトリシアと結婚して俺にロード王国の公爵になって欲しいと思っている。
俺はスミレが悲しむ想いをするのなら、パトリシアと結婚してロード王国の公爵になる気はない。
どこかに解決策は無いかな?
うーん。分からん。
だいたい俺が考えても良い事などないはず。
こういう時のベルク宰相だ!
そうじゃん、ベルク宰相はスミレと良く話し合えって言ってたよな。話し合って結果が出なくても良いよな。
よし! それなら行動だ!
俺はスミレの部屋に向かった。
スミレは部屋で瞑想していた。
魔力ソナーを鍛えているんだな。
俺が部屋に入ると、ゆっくりと目を開けた。
「おはよう! スミレ! 今日は帝都でデートしよう! 早く朝食を食べて出かけるぞ!」
何となくバツの悪い顔をしているスミレの背中を押して食堂に急ぐ。
そのまま俺はスミレを急かして外出の用意をさせた。
まずはエクス城に向かった。
エクス城には一般に開放しているエリアがある。城塔に登る事ができるのだ。一番上まで上がれば帝都を眼下に見る事ができる。
でも入場料が高いんだよね。1人1万バルトも取るんだよ。その為、空いているから良いけど。
今日も城塔に入場しているのは俺たちだけだ。
城塔の天辺まで来た。
外を見ると街並みが広がっている。多くの人達が動き回っているのが見えた。
俺は背後からスミレを抱きしめた。
「スミレが守りたいのはこういう生活を送っている人達だろ。その想いはエクス帝国の民だけで無く、ロード王国の民にも幸せになって欲しいと思っている。それはとても尊い考えだと思う。俺も共感できるよ」
スミレが俺の方を振り向いた。
「なら、ロード王国の公爵になる決意をしたの?」
「ちょっと待ってくれ。そんなに結論を急がないで欲しい。まだ付き合って欲しいところがあるんだから」
スミレは特に何も言わずに俺に付いてきてくれた。
今日は休みの【無の日】だったため、帝都には屋台が結構出ていた。
昼食はそこで肉の串焼きを食べる。少し硬めだが、味付けは良かった。
俺は花屋に寄る。
不思議な顔をするスミレ。
俺は菫の花を買った。
菫は春に咲く花だが、秋に咲く種類もある。
俺はスミレの手を握り歩き始める。向かう先は帝国中央公園だ。
スミレを告白した時と同じ噴水前に連れてきた。
俺は買った菫をスミレに渡した。
「俺はここでスミレに告白した。その誓いは俺の魂に刻まれている。【何があろうと幸せにしてみせます】この言葉に嘘はない。スミレにはここに立ち戻って再確認して欲しい」
スミレは嬉しそうな困ったような顔をする。
俺は言葉を続ける。
「【何があろうと】って言ったろ。パトリシアと結婚しなくても、スミレの願いのロード王国の民も守ってやる。それがスミレの幸せになるのならな」
「でもどうやって?」
「俺に聞いても分からないよ。それを考えるのはベルク宰相さ」
俺とスミレは目を合わせて笑い合った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食は久しぶりに二人でいつもの飲食店に行った。
結婚前は良く来ていたな。
ワインで乾杯をして食事を楽しむ。
「ジョージの食べ方はとても綺麗になったわね。やっぱりマナー講師をつけたのが良かったかも」
「今日はサボっちゃったけどね。ルードさんに悪いことしちゃったな。でも今日の事は俺たち夫婦には必要な事だったと思うから」
少し暗い顔をするスミレ。
「私の我が儘でロード王国の人達が苦しむのは嫌なの」
「我が儘なんかじゃないさ。自分以外の奥さんができるのに平静でいるほうがおかしいよ。普通の感情だよ。その感情を抑える必要なんてないね。あとはお父さんがなんとかしてくれるさ」
「お父さん?」
「ベルク宰相の事だよ。俺の中では既にベルク宰相はお父さん認定がされているからね」
「フフフ、こんな子供だとベルク宰相も困りそうね」
「お父さんには我慢してもらうよ。一生、俺の為に頭を使ってもらうんだ」
その後、楽しい晩餐は続いた。
ちょっとプライベートが忙しくなってきたため、更新は1日1話になります。
また落ち着いたら1日2話の更新を続けたいと思います。
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