すれ違う想い
ベルク宰相の執務室を出ると夕方になっていた。さすがに疲れていたため、自分の屋敷に帰宅した。
「お帰りなさいませ。旦那様! 奥様!」
あぁ! 帰ってきたよ……。
やっぱりホッとするな。
マリウスを筆頭に使用人総出で出迎えてくれた。
湯浴みを先にして、その後バキの夕食を堪能した。
幸せってこういう事だよね。
寝室に入る前にスミレとしっかり話し合おう。
俺はスミレを私室に招き入れた。
先日メイド見習いからメイドに昇格したサラがお茶を淹れてくれる。
二人掛けのソファにスミレと座り会話を始める。
「まず、俺の気持ちを聞いて欲しい。ロード王国の公爵になる為にパトリシアと結婚するのは何か違うような気がするんだ」
「私の夢、目標って覚えている? 民を守りたい。皆んなに幸せになって欲しい。民を守る力が欲しい。それが私の心の根本にあるの」
俺は黙ってスミレの話を聞く事にした。
「初めはノースコート侯爵家が治めるハイドンの街に住んでいて思ったの。この街の人達が幸せになって欲しいって。その為に力を付けようと思ったわ。帝都に出てきて今度はエクス帝国民の人達も幸せになって欲しいと考えが大きくなった。それでエクス帝国騎士団に入団したのよ」
スミレはハイドンから帝都に出てきて、見える範囲が大きくなったんだな。
「私はジョージの付き添いで外交団と捜査団でロード王国に二回行ったわ。そして考えるようになったの。エクス帝国民だけじゃなくロード王国の人達にも幸せになって欲しいって」
スミレはロード王国の人達との触れ合いでそう感じたか。
「ロード王国のナルド王は言ってたわ。ロード王国の西側には辺境の地でよく反乱が起こる。エクス帝国への貢ぎ物でロード王国が弱体化していけば、国民に多大な影響が出てしまう。ジョージにロード王国民の守護者になって欲しいって。私もジョージにはロード王国の守護者になって欲しいの」
「それは俺にロード王国の公爵になって欲しいって事?」
「そうよ、そしたらロード王国の民を守ることができるわ」
「俺がロード王国の公爵になるって事は、パトリシアと結婚する事になるんだけど……」
「それはしょうがない事だわ。貴族なら奥さんを数人持つのは普通だもの」
「それならスミレはなんでそんなに悲しそうな顔をしているんだ?」
ハッとするスミレ。
今は貴族の仮面を被っているスミレだが、これだけ一緒にいればわかる。
今のスミレは悲しんでいる。
「スミレには悪いけど、スミレの申し出を受けるわけにはいかなくなったよ」
「どうして? パトリシア王女なら魅力的な女性でしょ!」
「パトリシアが魅力的かどうかは関係ないんだ。俺はスミレを何があろうと幸せにすると帝国中央公園の噴水前で誓ったんだ。そんな顔をするスミレは幸せではない」
「これは一時的なものよ。今に慣れていくわ。それよりロード王国の民の事を考えて欲しいの」
スミレは俺を睨みつけた。
俺はその視線を受け止める。
「スミレの考えはわかった。今日はここまでにしよう。話がまとまるとは思えないから。少し時間をおこう。今晩は、俺は客室で寝るよ。おやすみ」
俺は私室から出た。
扉を閉める瞬間、後ろから「なによ!」とスミレの声が聞こえた。
ちょっとプライベートが忙しくなってきたため、更新は1日1話になります。
また落ち着いたら1日2話の更新を続けたいと思います。
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