パトリシア・ロード
9月26日【緑の日】
起床すると既に宿の前にロード王国の馬車が止まっている。
相当立派な馬車だ。よく見るとロード王国の紋章が見える。特使には結構身分の高い人が選ばれたのかな?
俺達も出発の用意をしてロード王国の特使に挨拶する。
ロード王国の特使は騎士の格好をした年配の男性と、俺と同じくらいの若い女性の二人だった。
若い女性は上質の服を着ていて、綺麗な金髪が風に靡いている。大きな目がくりくりしていて愛嬌がある。ぷっくりした唇が愛らしい。
俺を見てニッコリ笑った。
ハッキリいって外見はどストライクだ。
スミレが美人タイプだが、この女性は可愛い系だ。そしてこの女性の魔力ソナーで分かる魔力の質は純粋だ。
大人でこんな純粋な魔力を持っている人がいるなんて……。
まるで産まれたばかりの赤ん坊のようだ。
汚れていない。ある意味恐ろしい。
その女性は俺に頭を下げて挨拶をする。
「ジョージ・グラコート伯爵様ですね。私はパトリシア・ロードと申します。エクス帝国への特使に任命されました。こちらは護衛のブラサムです。道中、よろしくお願いします」
ロードって!? 王家の娘か! それで護衛が一人?? 危なくないのか?
「あ、よろしくお願いします。パトリシアさんはロード王家の方ですか? それならば護衛が少なくないですか?」
無邪気な笑みを浮かべて返答するパトリシア。
「どうぞパトリシアと呼んでください。はい、私はロード王家の第二王女です。護衛はジョージ様がいらっしゃるから大丈夫です」
エクス帝国までは良いけど、帰りはどうする気だ? まぁそれは俺が考える事じゃないな。ロード王国やお父さん(ベルク宰相)が考えてくれるだろう。
「それではパトリシア様、出発しましょうか」
「ですからパトリシアと呼んでください」
「いや、流石に他国の王族に不敬ですから……」
「ドラゴン討伐者のジョージ様が今更何を言ってらっしゃるの? ロード王国の王家はジョージ様に権威をボロボロにされてしまいましたから」
うっ! 謁見の間を壊した事か。それはベルク宰相が悪いんだもん。
「それではパトリシアさん、行きましょうか」
「パトリシアです! さんはいりません!」
にこやかに笑いながら一歩も引かないパトリシア。
諦めよう。完全降伏だ。
「それではパトリシア、出発しましょうか?」
「はい!」
元気に返された……。喜ぶべきか、否か。
俺は人生の重大な選択の場にいるような気がする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
出発する前にどの馬車に乗るかで揉めに揉めた。
パトリシアが俺と同乗したいと言い張ったためだ。
今の人員はエクス帝国から俺とスミレとマールとダンの4人。連行していくのがハイドン伯爵とアイヴィーの2人。ロード王国の特使としてパトリシアとブラサムの2人。
俺とスミレでハイドン伯爵とアイヴィーと同乗するつもりだった。それで一台の馬車がいっぱいになる。
あとはマールとダン、パトリシアとブラサムのつもりだった。
ところがパトリシアが引かない。どうしても俺と同乗したいと言い張る。結局は根負けして馬車の乗員は次の様に決まる。
①俺、パトリシア、ブラサム
②スミレ、ハイドン伯爵
③ダン、マール、アイヴィー
俺はロード王国が用意した立派な馬車に乗る事になった。
何かパトリシアは押しが強い。
やはり王女様は我儘なのかな?
取り敢えずロード王国を出発できた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
馬車に揺られていると眠くなる。
ウトウトしていると、俺の向かい側に座っていたパトリシアが俺の隣りに移動する。
いい香りがするな。
夢うつつの俺。
「どうぞ、私の膝を枕に使ってください」
俺は逆らう気力も無く、言われるがままにパトリシアの太ももに頭を乗せる。
柔らかいなぁ。
パトリシアの汚れの無い魔力を感じていると思考が停止してしまう。赤ちゃんってこんな感じなのかな?
パトリシアが俺の頭を優しく撫でてくれる。
俺はそのまま熟睡してしまった。
馬車が停まった。
お昼ご飯を食べる街についたのかな? 馬車で寝ていると停まると起きちゃうよね。
そこそこ綺麗な飲食店でお昼にする。
馬車を降りたところでマールがブチ切れた。
「何なのよ! あのアイヴィーって男は! ずっと私を口説いてばかりいるのよ! ダンも最初は注意していたんだけど、呆れて途中でほっとくし! ジョージ! 馬車の席を変わってちょうだい!」
アイヴィーは何を考えているんだ。どうせ死罪になるから自暴自棄になっているのかな?
アイヴィーと女性を一緒にできないな。俺とマールが変わるのが良いか。ただパトリシアが納得するかだな。
あ、良い事思いついた。
「パトリシア、馬車の席を俺とマールで取り替えたいんだ。マールはロード王国への侵略戦争推進派だからさ。できればロード王国の良いところをマールに教えてあげて欲しい。そうすればマールも安易にロード王国を焼け野原にしようと思わないと思うんだ。どうかな?」
「ジョージ様と一緒じゃないのは嫌ですね。でもエクス帝国の人にロード王国の良いところを知ってもらうのは良い事ですね。わかりました。馬車の席を変えるのを了承いたします」
取り敢えず良かった。
あ、スミレはバルバン伯爵と二人で大丈夫だったかな?
俺がスミレに確認すると、話しかけてきたバルバン伯爵に無言で【雪花】を突き付けたそうだ。青い顔になったバルバン伯爵はその後無言だったそうだ。
スミレは魔力ソナーをずっと使っていたそうだ。スミレが俺に耳打ちする。
「ジョージさんとパトリシアの魔力が随分と近かったんですけど……」
あ、膝枕がバレてる……。
動揺するな俺!
頑張れ俺!
「途中で寝てしまったから良く覚えていないんだ。気が付いたらパトリシアの肩を借りてしまっていたみたいだね。注意しないと」
ジト目で俺を見るスミレ。
疑われているな。でもここは堂々とするべきだ。
「それより昼食を食べよう。連行している二人には何か弁当でも作ってもらうか。見張りは交代だね」
俺は颯爽と飲食店に入っていった。
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