公爵への打診
ナルド国王の動きは早かった。
数刻後にはバルバン伯爵家の家族と使用人を全て拘束し終えていた。
バルバン伯爵と次男のアイヴィーはエクス帝国に護送する事に決まる。他の家族や使用人の処遇は、ロード王国に任せる事となった。
これで終わりか。何かあっさりだったな。もう少し複雑な事情があるかと思っていたが、創作小説の読み過ぎなのかもしれない。実際はこんなもんか。
これで明日にはエクス帝国に帰る事ができそうだ。
落ち着いたところで王城の会議室に戻り、今後の事について意見を交わす事になった。
エクス帝国側は俺とダンとスミレとマールとライバーさん。ロード王国側はナルド国王とパウエル将軍と重鎮らしき三人の男性。
ナルド国王が発言の口火を切った。
「この度は我がロード王国からザラス皇帝陛下の暗殺に関与した貴族が出てしまい申し訳ない。謝って済む事ではないが、それでも謝罪はさせていただきたい」
うーん。この謝罪は誰が受け取るものなんだ? 普通はザラス皇帝陛下の息子であるカイト皇太子が受け取るものだが、暗殺の関与の疑いがあるしな。俺が受け取って良いものなのだろうか?
俺が悩んでいるとダンが発言してくれた。
「今はまだザラス皇帝陛下の暗殺についてしっかりとした裏付けが取れていません。今後、バルバン伯爵と次男のアイヴィー、それと我が国のカイト皇太子から事情を聞いて詳細が把握できてくるでしょう。その時に改めて謝罪をお願いいたします。それと詳細が把握できるまでバルバン伯爵家の家族と使用人を殺さないようにしておいてください。何かしらの情報を持っているかもしれませんから。取り調べはお願いします」
「了解した。エクス帝国の指示通りにロード王国は動くとする。ロード王国はエクス帝国と、今後は良き関係を結んでいきたいと思っている。連絡を密に取っていきたい。エクス帝国に帰還する時にロード王国から特使を派遣する。一緒に連れて行ってくれないか?」
これはどうなんだ?俺に判断はできん。ダンに丸投げだな。
俺はダンに発言を促すように視線を送る。ダンは俺の丸投げを当たり前のように受け止めた。
「了解致しました。我々は明朝にロード王国を出発する予定です。それでも良ければ特使と同行しますよ」
おぉ! 明日出発予定なんだ。知らなかったよ。明日ロード王国を出発しても、ザラス皇帝陛下の葬儀には間に合わないな。まぁ、もうロード王国にいてもしょうがないしね。でも観光くらいしたいよな。
「分かった。今日中に人員の選別をしておく。明朝に馬車を一台そちらの宿に行かせる。よろしく頼む。それとこちらの提案なんだが、ジョージ・グラコート伯爵に、我がロード王国の公爵になってもらえないかな?」
なぬ!? 公爵とな! 何故に!
俺の思考が回らない内にダンが返答をする。
「なるほど、我がエクス帝国の守り神であるジョージ・グラコートにロード王国の守り神にもなってもらいたいと……。流石にすぐにできる返事ではないです。ベルク宰相の考えを聞かないといけない内容になります。ただ、その話があった事は伝えておきます」
なるほど、良く分からん時はお父さん(ベルク宰相)に任せるべきだね。
俺は力仕事担当。お父さんは頭脳労働担当。適材適所だ。
別に考えるのが面倒くさいわけじゃない……。
ナルド国王が俺の席まで向かってくる。
何じゃらホイ?
そして徐に俺の手を握りしめる。それは力強い握手だった。
「是非、是非にお願いしたい。ロード王国の西側には辺境の地があって、よく反乱が起こるのだ。このままロード王国が弱体化していけば、国民に多大な影響が出てしまう。どうかロード王国民の守護者になって欲しい。私がジョージ伯爵に与えられるのは地位と領地くらいだ。前向きに考えてくれ」
ナルド国王の目が真剣だ。
あ、熱い……。
いや暑苦しい…。
俺にそんな重責は担えないよな。
「了解致しました。エクス帝国に戻ってからベルク宰相と良く相談して返事をさせていただきます。現在、エクス帝国はザラス皇帝陛下崩御で落ち着いていないため、少し時間がかかると思いますが……」
「おぉ! 検討してくれるだけで光栄だ。本当にお願いするぞ」
俺の手を握りしめるナルド国王の力が上がった! 周りを見ると、ロード王国側の人達も頭を下げる。
こりゃ簡単に断りにくい雰囲気だな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿泊施設に戻るとライバーさんが出立の準備をしている。
あれ? 早いな。
俺が疑問に思っているとダンが説明してくれる。
「ライバーさんには馬を乗り継いでもらってエクス帝国に先に帰還してもらいます。バルバン伯爵とアイヴィー、カイト皇太子の事を早く知らせる必要がありますからね」
そう言われればそうだね。普通に馬車で戻ったら10日はかかるもんな。
あ、バルバン伯爵とアイヴィーは、魔導団特製手錠で拘束している。これで安心だね。
そしてライバーさんは最低限の荷物を持ってエクス帝国に向かっていった。
頑張ってねぇ。
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