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論文モテモテ大作戦! 発動前に終了

特別任務14〜17日目。

 毎日同じスケジュールをこなしていた。

 朝から魔力循環をしながら魔力ソナーの併用を訓練する。だいぶ慣れてきた。

 今は併用しながら魔力ソナーの範囲は50mくらいになっている。日に日に伸びているので楽しい特訓だ。


 東の新ダンジョンは地下3階を調査している。

 俺の索敵でオーガを探して先制攻撃。今のところは全てオーガの眼球に命中させている。一度3体のオーガと遭遇したが、問題なかった。

 マッピングもだいぶ進んだ。スミレさんも俺と同じように大きなリュックを背負う事になった。オーガの魔石を拾うためだ。一つが結構でかいんだよね。

 索敵、瞬殺、魔石拾い、マッピングの繰り返し。

 スミレさんが戦わないため、お尻の凝視ができなくなった。誠に残念だ。


 夕方に冒険者ギルドで魔石を納品して修練場で剣術訓練。俺の剣術もだいぶ様になってきた。

 スミレさんが言っていたが、来週からは攻撃だけじゃなく守りも訓練するそうだ。

 あとは寝る前に1時間の魔力循環と魔力ソナーの併用の練習。メキメキと魔力ソナーの範囲が広がっていく。

 今後が楽しみだ。時間を見つけて論文にする事に決めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務18日目。

 今日は休みの日だ。

 日課の魔力循環と魔力ソナーの併用を練習した後に論文を書き始めた。論文の題名は【体内魔法と体外魔法の同時使用について】

 実は俺みたいな最底辺の魔導成績で栄えあるエクス帝国魔導団に入団できた理由が学生時代にまとめた論文のおかげである。

 学生時代にまとめた論文の題名は【魔力ソナーの可能性について】。

 これがエクス帝国魔導団団長であるサイファ・ミラゾールの目に留まり入団が決まった。今回、まとめる予定の論文でも何かあると嬉しいな。

 【体内魔法と体外魔法の同時使用について】の論文の骨子は魔力ソナーを伸ばす事によって魔力制御を限界まで上げる。

 同時使用にはたぶん精密な魔力制御が必要だ。被験者が俺1人というのが少し寂しいが1つでも実例があるのは大きいだろう。

 論文というより俺の実体験をまとめたものになりそうだ。

 まずは魔力循環と魔力ソナーの併用で、魔力ソナーの範囲を300mくらいまで伸ばす。その後、体外魔法を魔力ソナーではなく攻撃魔法で練習する。

 最終系は体内魔法の身体能力向上をしながら体外魔法の攻撃魔法を撃つ事だ。

 今日1日の練習で併用での魔力ソナーは150mを超えた。体内魔法と体外魔法の同時使用に慣れてきた。週明けからは体外魔法を攻撃魔法に変えてみようかと思う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務19日目。

 オーガに威圧感を感じなくなってきた。発見、即瞬殺を繰り返しているからだな。

 わざわざピンチを演出する必要はないもんね。命は大事!

 地下3階のマッピングはだいぶ進んできている。今週にでも終わるかもしれない。

 ギルドカードを見てみるとレベル28の記載が見える。急激なレベルアップだ。身体能力と魔力が相当伸びているはず。

オーガ様様かな。

 スミレさんとの夕方の特訓は予定通りスミレさんが攻撃してくるようになった。剣で受けたり、なんとか避けたりして頑張っている。スミレさんとは剣術の腕が違い過ぎるから習う事がいっぱいだ。


 スミレさんとの特訓が終わり、俺は1人で魔法射撃場に赴いた。体内魔法を使いながらファイアアローを使う練習をしようと思ったからだ。

 攻撃魔法にファイアアローを選んだ理由は使い慣れたから。ファイアアローなら魔力制御にも慣れている。

 一つ深呼吸をして魔力循環を開始する。今は身体能力向上状態だ。そのままファイアアローの詠唱を開始する。


【火の変化、千変万化たる身を矢にして穿(うが)て、ファイアアロー!】


 右手から10本の火の矢が現れる。そのまま的の中心に向かって発射された。魔力循環は保たれている。ファイアアローは全て的の中心に当たった。

 よし! 成功だ!


 次は身体能力向上状態で動きながら、攻撃魔法を放つ。以前、スミレさんが現実的でないと言った内容だ。

 俺は身体能力向上状態で走りながら呪文の詠唱を行う。

 10本のファイアアローは全て狙った的に当たった。

 身体能力向上をしながら攻撃魔法を使用する。夢物語と言われていた事だが、完全にものにした。

 俺は魔法射撃場で1人吠えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務20日目。

 今日はスミレさんにお願いをしてみた。


「地下1階のコボルトのモンスターハウスで討伐をやらせてもらえないですか?」


「ジョージ君なら問題無いと思うから良いぞ。身体能力向上を発動させておけば怪我は殆ど無いだろうしな」


「ありがとうございます。少し遠回りになりますが付き合ってください。面白いものを見せますよ」


 ダンジョンの地下1階の南側に来た。50m四方のモンスターハウスだ。

 魔力ソナーで扉の先の魔力反応を確認する。6体のコボルトリーダーと23体のコボルトだ。


「それでは行ってきます。スミレさんの手助けはいりません。見学していてください」


 俺はモンスターハウスの扉を開け、コボルトの集団に剣を持って飛びかかっていった。

 2〜3体斬り倒したところで呪文の詠唱を始める。その間もコボルトを斬りまくる。


【火の変化、千変万化たる身を矢にして穿(うが)て、ファイアアロー!】


 ファイアアローは6体いたコボルトリーダーの眼球に突き刺さる。

 俺はそのままコボルトを斬りまくる。

 もう一度呪文を詠唱する。残っていたコボルト9体の眼球に火の矢が命中した。

 成功だ。


「どうでした? スミレさん」


 スミレさんは信じられないものを見たような顔をしている。


「今のは身体能力向上と攻撃魔法の併用か。剣の振りを見たところ切り替えではないな。間違いなく併用していた……。」


 俺の肩を掴み揺さぶるスミレさん。


「いったいいつから出来るようになったんだ! 隠れて練習していたのか! これは凄い事なんだぞ! 理解しているのか!」


「理解はしてますよ。落ち着いたら論文にまとめて発表する予定なんですから」


「馬鹿な事を言うな! 論文で発表したら他の国にも情報が流れるだろう。魔導団と騎士団の団長に相談して指示を仰ぐ必要がある事だぞ!」


 え、論文でモテモテ大作戦は……。

 そ、そんな馬鹿な……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 重大な問題が生じたという事で今日のダンジョン調査を止めて魔導団と騎士団の団長に面会の都合をつけてもらった。

 スミレさんが両団長に説明してくれたがゾロン騎士団団長は完全に嘘つき呼ばわりをし、サイファ魔導団団長も半信半疑だ。

 実際に見てもらうしかないため、修練場で素振りをしながらファイアアローを撃つ事に決まる。もし本当なら情報統制の必要性があると言うことで人払いを行ってやるようだ。


 魔法射撃場に藁人形を10体並べ、それを身体能力向上状態で剣で斬りながら30m離れた的に向かってファイアアローを撃つことになった。

 俺は魔力循環を開始して身体能力向上状態にする。一つ深呼吸をして開始の合図をする。


「ではやります!」


 藁人形に向かって走り出す。1体斬ったところで呪文の詠唱を始める。

 呪文の詠唱が終わったころには、7体の藁人形を斬っていた。

 火の矢は10本。今のところはこのくらいが安心して魔力制御ができる範囲だ。

 火の矢は30m先の的の中心に当たる。ちょうど俺は10体の藁人形を斬ったところだった。


 実際に目にしたからには信じなければならない。両団長からは、この事は内密にしておく事と言われる。皇帝と宰相と今後どうするか検討する事になると言われた。


 そうなのか、やっぱり論文でモテモテ大作戦は終わりかぁ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 大事な話があるとサイファ魔導団団長に言われて現在俺は魔導団団長室にいる。

 スミレさんもゾロン騎士団団長に連れて行かれていた。

 魔導団団長室のソファに座るとサイファ団長は微笑を浮かべる。やっぱりエルフって美しいなぁ


「まずはジョージ君、貴方に理解してもらいたい事があるのよ。君の戦闘能力についてです。オーガを瞬殺する魔導師などはいないわ。オーガはね、体内魔法を使うのよ。魔力循環で身体能力向上しているわ。それで耐久力が並外れているの。そのオーガにピンポイントで眼球にファイアアローを撃ち込む貴方の魔力制御は神技。貴方は眼球があるタイプの魔物ならばファイアアローで瞬殺が可能かもしれないわね。そうね。ドラゴンですら瞬殺できるかもしれないわ」


 おぉ!! 俺はドラゴンですら倒せる可能性があるのか! ドラゴンスレイヤージョージとしてモテモテになるかもしれないな。

 妄想していたらニヤニヤしていたみたいだ。少し眉を顰めたサイファ団長が呆れ顔になった。


「ジョージ君。まだ自分の戦闘力について理解が薄いみたいね。貴方は現在ファイアアローを25本も精微なコントロールができるのよ。対人戦でも無類の強さを誇るのよ。多人数にも対応できるわ。眼球を狙われると敵は対処のしようがないから。眼球を保護しようとしたら何も見えなくなっちゃうでしょう」


 そうなのか? でもファイアアローは中級魔法の下位ランクだから魔導団所属なら誰でも撃てると思うけど。


「腑に落ちない顔をしているわね。貴方のファイアアローは特別なのよ。ファイアアローが飛ぶスピードが一般の人と段違い。あの速度だと避ける事ができないわ。これも類い稀な魔力制御のおかげね。私も魔力制御には自信があるけど貴方よりは劣っているわ。あんな速いファイアアローは撃てないわね」


 子供に言い聞かせるようにゆっくりと話をしてくれるサイファ団長。


「貴方の魔法の長所はスピードとコントロールなの。その上今は、ダンジョン調査でのレベルアップによって魔力の強さが上がっているわ。スピード、コントロール、パワーと三拍子揃った稀有な魔導師になっているのよ」


 ここまで称賛されるとは! 俺って気が付かないうちに凄くなってる!?


「魔導師の弱点は肉体的な弱さね。体外魔法には秀でているけど、身体能力向上の体内魔法はあまり使えないわ。体外魔法と体内魔法の切り替えには時間がかかるし、併用できるなんて夢物語と思われていたのだから。魔導師の弱点は接近戦に弱いって事なの。体内魔法と体外魔法を併用できる貴方は魔導師の弱点を克服しているのよ」


 もしかして俺は弱点克服のパーフェクト魔導師ジョージとしてモテモテになるのか! 俺の時代が来ている!?


「もしどこかと戦争になれば貴方は大活躍でしょう。斥候としてもトップレベル。敵の殲滅力も凄いでしょうね。貴方の戦闘能力は国として抱え込まないといけないの。これは理解しておいてね。もう一つ知ってほしい事があるのだけど……」


 何か言いにくそう。

 サイファ団長は重い口を開く。


「エルフが長生きなのは知ってるわね。では何で長生きなのかわかる?」


 エルフが長寿である理由? 全く分からん。

 俺は首を横に振る。


「エルフは人と比べて魔法に優れているの。言い換えれば魔力制御に秀でているのよ。魔力制御においては人間とエルフには越えられない壁があるのよ。貴方はその壁を越えてエルフより凄くなってるけどね。エルフの中にも魔力制御の上手い下手はあるわ。おしなべて魔力制御の上手いエルフの方が長生きね。簡単に言うと魔力制御に優れていると不老に近づいていくのよ」


 それってもしかして……。


「貴方は人間には考えられない魔力制御を獲得しているわ。私の魔力制御より凄いんだから。人間には前例が無いから確定はできないけれど、貴方は何百年も生きる可能性が高いわ。たぶん25歳くらいまで肉体的に成長して、その後はそれが維持されていく事になる」


 魔力制御の熟達が不老に近づく!? 俺って不老になっているの!?


「いきなり言われたからまだ頭が理解していないみたいね。不老には不老の悩みがあるのよ。追々教えてあげるわ。貴方の処遇をどうするか国が決めるまでは今まで通りダンジョン調査を続けて。その中でレベル上げと、体内魔法と体外魔法の併用と、近接戦の熟達のために剣術にも力を入れて取り組んでね。剣術についてはスミレさんにお願いしてあるから」


 確かに俺は軽いパニック状態に陥っている。サイファ団長が疑問を1つ俺に投げかけてきた。


「それにしても人間でそこまで魔力制御に秀でているのは考えられない。魔力制御の訓練はキツいし、集中力がもたないからそんなに継続できないわ。どうやって訓練したのか知りたいところね」


 まさか憧れのスミレさんの魔力を感じたいから魔力ソナーを学生時代からガンガンやっていたとは言えない。

 俺は曖昧に笑って誤魔化した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 魔導団団長室を出て少し遅い昼食を宿舎の食堂で食べる。

 先程のサイファ団長の言葉が頭から離れない。本当に俺は不老になっているのか?

 まぁ悩んでもしょうがないか。まずは目の前の日替わり定食を食べるのが大事だな。

 昼食を食べ終わるとスミレさんからの呼び出しを受けた。

 よく宿舎にいる事がわかったな。

 呼び出された修練場に向かうと真剣な表情のスミレさんが待っていた。


「来たか、ジョージ君。実は今までは内密にサイファ魔導団団長から君の戦闘力を伸ばすようにお願いされていた。先程、正式にゾロン騎士団団長から君を指導するように命令された。近接戦闘が行えるようにとの事だ。これから騎士団第一隊で実施している訓練を君に受けてもらう。1日おきにダンジョン調査と騎士団の訓練にする。キツいかもしれないが頑張っていこう。早速今日から始めるぞ」


 夕方までの騎士団の訓練だったが、今までの剣術訓練が軽いものだったと感じた。騎士団第一隊の訓練は、どこまで自分を追い込めるかが目的になっている。さすが戦争を目的にした訓練だ。

 ヘトヘトになり宿舎に戻る。

 それでも寝る前には魔力循環と魔力ソナーの併用の練習をしてしまう自分がいる。もう習慣になっていて、やらないと落ち着かなくなっているからだ。

 これから身体が持つかなぁ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 訓練すれば不老に近づけるなら、辛くても過去にめちゃくちゃ訓練する人いそう。なのに今まで事例がないならジョージの場合は訓練のおかげじゃなくて先天的なのが大きそう。
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