バルバン伯爵の告白
俺達は今、ナルド国王の私室につながる寝室に潜んでいる。扉を少し開けているおかげで話し声が聞こえてくる。
これはナルド国王とパウエル将軍への牽制にもなるか。
ダンはバルバン伯爵を呼ぶ前に、じっくりとナルド国王とパウエル将軍と打ち合わせをしていた。抜かりは無いのだろう。
ノックの音がして男性の声が聞こえてきた。
「失礼致します。国王様がお呼びと聞き、馳せ参じました」
どうやらバルバン伯爵のようだ。ナルド国王の声が聞こえてくる。
「バルバン伯爵に来てもらったのはわけがあってな。現在、エクス帝国から人が来ている。先日、エクス帝国のザラス皇帝陛下が暗殺されたのは知ってるな。それを画策したのがロード王国の者かもしれないと調べにきているんだ。バルバン伯爵には心当たりがあるかな?」
「滅相もございません。そんな大それた事を画策するわけがないです」
「そうなのか? サライドール家の集まりではザラス皇帝陛下の暗殺の工作が進んでいると言ってたみたいじゃないか?」
「戯れの発言です。お酒も入っていましたから」
「そうなのか? それでは褒美をやるわけにはいかないか。残念だ」
「褒美ですか?」
「ザラス皇帝陛下は手強い交渉相手だった。それがカイト皇太子になるのならロード王国に益があるだろう。褒美を取らせて当たり前だ」
声の質が変わるバルバン伯爵。得意気な話し方になった。
「大きな声では言えませんが、私はザラス皇帝陛下の暗殺に関わっております。それがロード王国の為に必要と思いましたから」
「おぉ、そうか! それは良くやった! これまでの経緯と、今の状況を詳しく知りたい。話してくれ」
「経緯ですか。私はエクス帝国にも商売を広げております。エクス帝国のラナス男爵と知り合いなんです。そこの三女のキャリンという娘がザラス皇帝陛下のお手付きになったと聞きまして。これは使えるかもしれないと思い、私の次男のアイヴィーを接触させました。次男のアイヴィーはなかなかの男前で、恥ずかしながら女性を手玉に取るのが趣味みたいな遊び人なんです。性行為には薬を使って身体ごと依存させてしまうのですよ。アイヴィーの毒牙にハマった女性は快楽を得る為にはなんでもしますから」
「なるほど。いつでもザラス皇帝陛下を暗殺できるように準備はしていたのだな」
「はい。それがロード王国のためになると思っていましたから」
「なぜ、この時期に実行させたのだ?」
「まずはザラス皇帝陛下とカイト皇太子を比べるとザラス皇帝陛下のほうが手強い交渉相手になります。カイト皇太子ならば、ロード王国への矛先を南のエルバド共和国に向ける事ができると思います。私はカイト皇太子とは秘密裏に連絡を取り合っています」
俺は衝撃を受けた! カイト皇太子がザラス皇帝陛下の暗殺に関与しているのか!?
パウエル将軍が口を挟む。
「カイト皇太子から暗殺の依頼が来たのか?」
「うーん。そこは難しい判断になりますね。もともとカイト皇太子は私の話を半分冗談に取られていましたから。私はザラス皇帝陛下を暗殺したくなったら言ってくださいと軽く話していたんです。最近はザラス皇帝陛下とカイト皇太子の仲が上手くいってないのは分かっていましたから」
冗談でも父親の暗殺の話をしているなんて……。業が深い話だ。
調子に乗ったバルバン伯爵が話を続ける。
「あの日、カイト皇太子に呼ばれまして、「お前が冗談で言っている暗殺についてだが、やれるものならやってみろ」って言われたんです。これを暗殺依頼と取るのか、冗談ととるのか微妙な雰囲気でしたね。私はここで暗殺すればカイト皇太子に優位な立場になれると思って実行する事にしました。次男のアイヴィーに連絡を取ってキャリンに暗殺の指示を出しました。暗殺に成功したキャリンはすぐに始末しております。私とアイヴィーは急いでエクス帝国を後にしました。通常の商売の移動ですので疑われる事はございません。また直接的な証拠もございません。エクス帝国に何を言われても知らないと言えば大丈夫でしょう」
俺は盗み聞きをしながら、悲しさと虚しさと怖さを感じていた。
こんな杜撰な計画でも国のトップが死ぬ場合があるのか? 今後、カイト皇太子をどうするべきなんだろう。俺が考えることではないか。
もう良いだろう。ダンが頷くのを見て、俺達は寝室を飛び出しバルバン伯爵を拘束した。
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