別腹論議
前と同じ大きな街で昼食を食べたがマールは無言だった。
午後からはマールを二台目の馬車に乗せて、代わりにダンが先頭の馬車に乗った。
話していると良く分かる。
ダンは本当に俺に憧れているみたいだ。こんなテンションでダンは大丈夫か?
それでもロード王国での調査の話はしないといけない。ダンが説明してくれる。
「まず、今回の我々エクス帝国捜査団が行く事はロード王国に秘密にされています。事前に伝えておくと証拠を隠されてしまう可能性がありますからね」
なるほど。そりゃそうか。行ったらすぐに分かるわけではないね。
「まずはロード王国の王城に行きます。私がベルク宰相から信書を預かっています。それをロード王国のナルド王に渡します。後はナルド王に動いてもらう予定です。ジョージさんはナルド王の後ろ盾になって、ロード王国の貴族を牽制してれば良いんです。簡単な仕事ですよ」
本当かな? 本当に簡単な仕事なんだろうか?
「あ、歯向かう人はジョージさんの魔法で再起不能にしてください。また右手だけ狙うのが効果的ですね。命を取らないのに、その怪我を負った人を見てロード王国の国民が恐怖を感じているみたいですから。フフフフ……」
あ、前にエルを取り返しにきたロード王国騎士団の連中にした事だ。
殺すより効果的だったのか……。そんなつもりではなかったのだが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日、泊まる館は前と同じ皇室の代官の館だ。
代官はザラス皇帝陛下の崩御に衝撃を受けているようだ。それでもさすが官僚である。仕事はキチッとしている。
部屋割りは前と同じように男女別である。
①俺とダンさんとライバーさん
②スミレとマール
③馭者二人
正に完璧である。官僚の仕事を甘くみてはいけない。
奴等は新婚の敵である。
さて、部屋でライバーさんが明後日に迫ったハイドンの夜に気合いが入っている。
俺はもう諦めているから良いんだけどね。
「どうした、ジョージさん! この間のハイドンでも女の子を選ばず、早く帰ったそうじゃないか。せっかくスミレさんも許してくれているのに遊ばないなんて勿体無いぞ」
俺はライバーさんに説明した。
魔力ソナーで魔力を感じてしまうと女性の嫌な雰囲気を感じてしまう事。
それで欲情できない事を。
呆れた顔でライバーさんは俺に言う。
「それなら魔力ソナーを切ってれば良いだろ。それなら嫌な雰囲気は感じないんじゃないか?」
目から鱗が落ちるとはこの事か!
最近はいつも無意識に魔力ソナーを使っていたから考えつかなかった。
なんでそんな簡単な事に気が付かなかった!
俺は馬鹿か!
これでハイドンで楽しく遊べるじゃないか!
ルンルン気分の俺にダンが冷や水を浴びせる。
「それは駄目ですよ。ジョージさんは有名人ですから妬みを持たれています。またロード王国からも恨まれているでしょう。例えエクス帝国内といえど、どこに敵がいるかわかりません。魔力ソナーを切るのは反対です」
えぇ!!
ライバーさんに上げられて、ダンに落とされた!!
諦めていた物が手に入りそうで、直前で逃げられた気分だ……。
「これこれ、ダンさんや。そんなに気を張らなくても大丈夫でしょ。1日くらいハメを外すと言うか、いやハメるんですけど……」
「許可できません。これはベルク宰相からも注意されております。ジョージさんは自分の価値を理解してください。それにあんな素敵な奥方がおられて女遊びをしたいなんて」
頑ななダンにライバーさんの援護を期待する。
「ライバーさん! ダンに言ってやってください! 奥さんと他の女性は別腹だと!」
ライバーさんが俺の後ろを見て顔が強張っている。
俺は熱くなり過ぎていた。
声がデカくなり過ぎていた。
魔力ソナーにビンビンに感じるスミレの魔力。
いつの間にこんな近くに……。
振り返ると微笑むスミレが立っていた。
「ジョージ、この間私に言った事は嘘だったの? そんなわけはないわよね。分かったわ。明後日は私と同じ部屋で寝ましょう。別腹なんて必要がない事を教えてあげるわ」
妖艶に微笑むスミレ。
背中にゾクっと寒気が走る。
でもこれはこれで良いかも。
俺は明後日の夜に向けて、期待で胸と下半身を膨らませた。
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ランキングが上がるとヤル気がアップする単純な作者ですwww