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黄金の海

9月15日【赤の日】

 明日はロード王国に向けて出発だ。

 今日は出発の準備のために屋敷にいる。ただし有能な使用人がいるため、俺もスミレもやる事がない。

 いやしかしヤル事はある。


 そうなのだ。

 明日からは任務になるためスミレが頑なに身体を許してくれない。その為、今日は満足行くまでスミレを堪能するのだ!


 執事長のマリウスがロード王国行きの準備をしている横で、俺とスミレは真っ昼間から寝室に篭った。使用人達の生温かい目を背中に感じながら……。

 新婚なんてこんなもんだよ。

 ハハハハハ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


9月16日【黒の日】

 エクス城前に馬車が二台停まっている。

 今回のエクス帝国捜査団は、団長の俺、副団長はダン、俺の護衛のスミレ、全体の護衛として騎士団からはライバー、魔導団からはマールが選ばれている。

 これに馭者の二人を含めた7人体制だ。


 副団長のダンはベルク宰相の懐刀と言われている23歳の男性だ。

 理知的な雰囲気がある。平民出のため、中々出世ができないらしい。長めの金髪を無造作に後ろに縛っている。

 整った顔が俺を恐怖させる。


 スミレに懸想(けそう)するなよ!

 ついカッコ良い男性を見ると威嚇してしまう俺がいる。

 そんな俺の気持ちを感じてないような様子でダンは右手を俺に差し出し、笑顔になる。


「どうぞよろしくお願いします。ダンと申します。ジョージ伯爵を助力できるように非才ながら頑張らせてもらいます」


 おぉ! 後光が見える。

 コイツ外見だけじゃなく内面もカッコ良いんだ!

 人間の印象の殆どは第一印象で決まる。ダンは紛れもなく好青年だ。

 俺はダンと握手を交わした。


「こちらこそよろしく頼みます。俺の方が歳下ですから伯爵は止めて欲しいです。俺も元々は平民ですから。せめてジョージさんでお願いします」


「わかりました。それではジョージさんと呼ばせていただきます。ジョージさんは平民の英雄ですから私も緊張してますよ」


 俺が平民の英雄!? 聞いた事ないぞ?


「何かの間違いじゃないですか? 俺のイメージから英雄は、かけ離れていると思うんだけど」


 急に目付きが変わるダン。


「何を言っているのですか! ジョージさんは平民出でありながらドラゴン討伐者(スレイヤー)になり、グラコート伯爵になったお方ですよ! それに侯爵家令嬢である美人な奥方を手に入れた方じゃないですか! 人生の成功者です!」


 す、凄い熱量だ。圧倒される……。


「私はそんなジョージさんを尊敬しているんです! 正にエクス帝国ドリームを体現した方と! 今回、ジョージさんのロード王国に随伴できると聞いて真っ先に立候補させていただきました。ライバルは多かったです。しかし裏の手で辞退させましたけどね」


 裏の手って何!? この人ヤバい人なの?

 いや、味方にすれば心強いはずだ。


 取り敢えず俺達は各々自己紹介を終える。

 ベルク宰相とサイファ団長に挨拶して俺達は西に向けてエクス城を出発した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 先頭の馬車に俺とスミレとマールが乗った。二台目にダンさんとライバーさんだ。

 今回のロード王国行きはザラス皇帝陛下の暗殺調査のため寄り道はできない。

 遊んではいられないよね。

 とは言っても馬を休める必要があるし、俺たちが泊まる場所も必要だ。ロード王国に入るまでは、前回と同じ旅程になっている。


 前と同じく、帝都から10kmほど離れると長閑な田園風景が続く。

 稲の生育が進んでいる。全ての稲が黄金色だ。

 ロード王国から帰国してまだ半月なのに、またこの道を通るとは……。

 でもこの田園風景は素晴らしいなぁ。

 そんな感慨に耽っているとマールが口を開いた。


「なんで私がこんな任務を受けないといけないのよ! これじゃレベルも上がらないじゃない! こんな懲罰任務は酷過ぎるわ!」


 あ、コイツ駄目な奴だった。


「お前はサイファ団長の心が全然わかっていないな。もう少し考えたらどうなんだ?」


「どういう事。これが懲罰任務じゃなければなんなのよ」


 このままの気持ちでマールが任務を行えば、サイファ団長のマールにかける期待が無駄になるな。面倒だけど、少しはサイファ団長に協力するか。


「サイファ団長は前に言っていたよ。戦争以外で功績を残すのは、こういう外交団への参加だって。これは功績を残す事ができる任務だよ」


「全くあなたは分かってないわね。私はこんな小さな功績なんか望んでいないの。華々しい戦功を挙げたいのよ。その為にはその準備をしないと駄目でしょう? だからレベルアップしたいの」


「分かってないのはマールの方だよ。戦争の悲惨さを理解している?」


「何よ。あなたは平和主義なの? どんな事を言っても争い事はなくならないわ。争い事が無くならないのなら戦争も無くならないの」


「そういう概念の話をしているんじゃないよ。戦争は結局破壊行為なんだよ。人を破壊し、家を破壊し、生活を破壊するんだ」


「そんな事は分かっているわよ。戦争なんだから人が死ぬのは当たり前でしょ」


「いや頭で理解しているのと、肌で感じる事は違うんだ。マールは頭では理解しているけど、肌で感じていないよ」


「どういう意味よ。あなたの話のほうが概念的じゃない」


「それなら想像してみてくれ。この黄金色に包まれている田園風景が荒地になる姿を。この土地で精一杯生きている人々の暮らしを。それを自分の戦功のために破壊するのかい?」


「な、なによ! 私は別にここのエクス帝国の土地を破壊しようとはしてないわ! 他国に侵略すれば良いでしょう!」


「良いわけないだろ。他国でも同じように幸せに生活している人々がいるんだ。その生活を破壊するって事だよ。今回のロード王国までの道中で、それを感じとるんだな」


 そして無言になったマールを乗せて、馬車は黄金の海の中を西に進む。

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結構、マジなんですwww

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずサクサク進むからホント読みやすい [気になる点] なんだかんだサイファ団長押し強いなあ。。嫌いじゃない。
[一言] マールはなぁ・・・分かってくれると良いなぁ・・・
[一言] 戦争賛成派に協力するふりして、自国の周り一帯砂漠地帯にすることもできそうだな。その状態で民を引き連れて国でも起こせば、即席で世界一の大国が生まれそうだ。レベルが200も離れていれば暗殺もでき…
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