エルの告白の内容と外堀が埋まる音
エルの話を聞いて、すぐにベルク宰相とサイファ団長のいるエクス城に向かった。
すぐに二人を呼んでもらいエルから聞いた話をする。
顰めっ面で口を開くベルク宰相。
「話を纏めるとザラス皇帝陛下の暗殺にはロード王国の主戦派が関係している可能性が高いって事か」
「そうなりますね」
俺がエルから聞いた内容は、8月16日にエクス帝国外交団がロード王国のナルド国王と会見した夜の話だった。
既にロード王国の王室は弱腰で、エクス帝国に貢ぎ物を送る言葉で話を進めていた。
それに反発していた主戦派がロード王国の将軍であるパウエル・サライドールの家に集まったそうだ。
何とか俺を取り込めないか?
そんな話し合いだ。
駄目な場合は英雄であるエル・サライドールを旗頭に今の王家を打倒しようと話し合いが進んでいく。
ロード王国がエクス帝国に貢ぎ物を献上するようになれば、ロード王国は緩やかな自殺に向かうと皆が思っていた。
そんな時、今のエクス帝国の皇帝陛下であるザラスを暗殺できるように工作が進んでいると一人の男性が発言した。
ザラス皇帝陛下の治世だと、ロード王国は緩やかな自殺だ。
ザラス皇帝が死ねば、それなりにエクス帝国を揺さぶる事ができる。
そしてカイト皇太子はザラス皇帝より交渉がしやすくなる。
カイト皇太子と密約を結んで、一緒に今のロード王家の打倒を目指す。
そんな心積もりだったようだ。
以上が俺がエルから聞いた内容だ。
ザラス皇帝陛下でなく、カイト皇太子なら何とかなると思ったなんて。
随分、虫の良い話だ。
ただし、エルは次の日から俺たちに拘束されたために、その後の主戦派の動きは分かっていない。
また暗殺の工作が進んでいると発言した男性も知らない顔だったらしく、うろ覚えだ。
問題は本当に暗殺したキャリンはロード王国の工作だったのか?
ロード王国の主戦派、今は王家打倒派がカイト皇太子に接触していたか?
この二点を確かめなければならない。
これは結構な外交問題になりそうだな。
今のロード王国王家にそれを調べる力が残っているのか?
エクス帝国から人を派遣した方が良いのか?
カイト皇太子と王家打倒派が接触したか確認する必要がある。
うん。
大変だ。
俺は知らん。
そんな俺の心を分かっているだろうサイファ団長がニッコリと笑う。
「ここはジョージ君に頑張ってもらうしかないわね」
え、そんなん無理や!
何を頑張れって。
ナニならいくらでも頑張るけど……。
「何の事でしょうか?」
俺はしらばっくれようと頑張る。
【危うき事に近づくは馬鹿である】、俺の座右の銘だ。
「今はザラス皇帝陛下崩御のため、ベルク宰相をロード王国に派遣するわけにはいかないわ。私もゾロンが謹慎しているから魔導団の他に騎士団も統括しないと駄目でしょ。ロード王国は今、王家への不満とエクス帝国への不満に満ちているのよ。そんなところに調査に行けるのはジョージ君とスミレさんしかいないでしょ」
あぁ……。
外堀が埋められていく音が聞こえる。
俺に繊細な調査なんて無理なような気がするけどな。
「あ、せっかくだからマールを連れていきなさい。彼女の考え方も変わるかもしれないから」
げっ!
マールを連れて行けって、血迷ったかこのエルフ。あんな戦闘民族をロード王国に連れて行けなんて。
「マールにはこれからの魔導団のためにも考え方を変えて欲しいのよ。攻めようとしていたロード王国にも穏やかに生活している民がいる事を見て欲しいの。どうかしら?」
どうせ口ではサイファ団長にもベルク宰相にも敵うはずがない。
もう白旗を上げよう。
それが俺の処世術だ。
「了解致しました。ロード王国での調査をしてきます。ただし一人頭の切れる人を付けてください。そうしないと俺は力で解決してしまいそうです」
「分かったわ。その人物の選定はベルク宰相と話し合って決めるわね。出発は早いほうが良いから明後日の朝にしましょう。ザラス皇帝陛下の葬儀に出席できないけど許してね。あと、ジョージとスミレが魔導団を辞める話はベルク宰相から聞いたわ。確かにそのほうが良いわね。ロード王国から帰ってきたら処理しましょう。それまでは魔導団の一員として頑張ってもらうわ」
こうして俺の二度目のロード王国行きが決まってしまった。
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