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三階の窓からの修練場の景色

 午後から魔導団本部に顔を出した。

 今日は午後のパワーレベリングは中止になった。

 ザラス皇帝陛下の崩御と、修練のダンジョンが俺の物になった事が影響している。


 魔導団本部にサイファ団長はいなかった。

 魔力ソナーで確認するとエクス城で発見した。

 ザラス皇帝陛下の暗殺事件の指揮を取っているからしょうがないか。


 魔導団本部の中も何か落ち着かない雰囲気があった。

 ここで働いて1年半か……。辞めるとなると何か感傷深くなるな。

 スミレと修練部の部屋の片付けを始めた。


 俺は何の気無しに魔導団第三隊の大部屋に向かった。

 俺の元の席には、なんとカタスが座っている。俺の妹のエルを擁護したため左遷されたカタスだ。

 カタスが俺に気付き片手を上げる。


「ジョージさん、いやジョージ部長じゃないですか。こんなところに来てどうしました?」


 こんなところって……。

 前は俺の場所、今はカタスさんの場所じゃないか。


「いや、今度魔導団を辞める事にしてね。何か懐かしくてここに来ちゃったよ。それよりジョージ部長はやめてね。恥ずかしいから」


「あ、ジョージさんは第三隊所属でしたね。どこの席だったんですか?」


「今、カタスさんが座っている席だよ。良かったら少し座らせてもらえるかな?」


「そうだったんですか。それならこの席は出世席ですね。どうぞ座ってください」


 席を立ってくれるカタスさん。

 俺はその席に座り、三階の窓から外の修練場を見下ろす。

 そこには変わらない光景があった。

 騎士団第一隊が模擬戦をしている。

 半年前は毎日ここからスミレを眺めていた。

 俺はその時から何も変わっていないんだろうな。

 魔力ソナーでスミレの魔力を感じていた日々を懐かしく、そして愛おしく思える。


 ただ周囲が激変した。

 俺はただその日暮らしの毎日だ。

 きっとこのままでは駄目なんだろう。

 俺も良い意味で変わらないといけないんだ。

 そうしないと周囲が不幸になるんだろうな。

 身に余る力を得ても、心が成長していないから流されてばかりいる。


 これじゃスミレを守れないじゃないか。

 この光景を最後の思い出にしてゆっくりで良いから成長していこう。

 周りがそれを許すかどうかは別にして……。


 気持ちに踏ん切りがついたところで席を立った。


「ありがとう、カタスさん。最後に良い思い出になったよ」


「こんなことならなんて事はないね。ジョージさんには世話になっているから」


 俺は第三隊の大部屋を出ようとしたところで急にカタスさんに呼び止められた。


「えっと、ここでは話しにくい事があるんだけど、相談に乗ってくれないかな?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺とスミレは現在魔導団本部の妹のエルが軟禁されている部屋にいる。

 魔導団特製手錠は鎖は外されているが、その両手首には手錠の輪っかが付いたままだ。これで魔法は使えないらしい。


 カタスさんは毎日、できる限りエルと一緒にいるそうだ。

 朝に顔を出してエルと朝食を一緒に食べる。昼休みにもここに来て一緒に昼食を食べる。仕事が終わるとここに来て夜遅くまで一緒にいる。

 なんだそれ!? 結婚生活みたいじゃん!

 さすが緩い魔導団だけあるな。


 それが今朝、カタスがザラス皇帝陛下の崩御の話をした時にエルの顔色が真っ青になったそうだ。

 その後、エルは何も話してくれない。昼には暗殺だったらしいと話すと、エルの顔が強張ってしまったそうだ。


 何かエルは知っていると思ったカタスさんはサイファ団長が帰ってくるのを待っていた。そこに俺が現れたわけだ。

 サイファ団長がエルに聞くと取り調べになってしまう。それより兄の俺が聞いたほうが、エルも話しやすいと思ったみたい。

 期待に沿う自信は無いけど……。


「それで、お前は何か知っているのか?」


 相変わらず俺を睨み付けるエル。

 なんでそんなに嫌われているのかな? あ、分からなければ聞けば良いか。


「俺はエルにそんなに嫌われるような事をした覚えがないんだが。どうしてそんなに嫌うんだ?」


 エルの目がキョトンとした。

 そのまま思案している。

 そしてゆっくりと口を開いた。


「そういえばそうかもね。たぶん私はお母さんの影響なのかも。あの家で私の味方はお母さんしかいなかったから……」


 なるほど。

 俺は母親に嫌われていた。

 暴力を振るう父親。

 それに耐えている母親。

 無関係になりたがっていた俺。

 一番小さい女の子であったエルは母親の味方になっていったって事か。


「お母さんはいつもあなたの事を気持ちが悪いって言ってた。あんなのが子供だからお父さんがイライラして暴力を振るうんだって。今、考えると無茶苦茶な理論ね。でも当時は本当にそう思っていたわ。しょうがないじゃない。本当に私の味方はお母さんだけだったんだから」


 内容は重いが、あっけらかんとした言い方だった。


「ロード王国のサライドール子爵家は卓越した魔導師の家なんだって。他の大陸から移住してきたみたいね。今は没落気味だけど。そこで私が魔法で英雄になりかけていたのに、あなたのせいで台無しになっちゃったのよね。逆恨みだけどそれも恨みだから……。今は考えると確かに恨む筋合いじゃないわね。ごめんなさい。今の私にはカタスだけいれば良いの」


 うーん。

 ここまで素直に謝られると許したくなるもんなんだな。

 そういえば……。


「サライドール家でいきなりファイアアローを俺に撃とうとした事もあったけどな」


「あれは弁解のしようがないです。すいませんでした。ただあなたのせいで父親の暴力があって不幸になったと思っていたし、せっかくサライドール家に行って幸せになったと思ったら、あんな事になってしまって……」


 まぁ良いか。

 エルの言い分も理解はできる。

 そうだな、過ぎた事だ。

 二度目はないけどな。


「取り敢えず、俺に対する確執は解消したという事ならもう良いよ。それよりザラス皇帝陛下の暗殺について知ってる事があったら教えてくれ」


 急に真顔になるエル。


「実は……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹さん、カタスセラピーの効果か大分精神的に落ち着いてきましたね。
[一言] ええい続きはまだかぁ! 気になるんじゃぁ!
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