ザラス皇帝陛下崩御
9月14日【緑の日】
ザラス皇帝陛下の崩御の報を受けて、すぐに身支度を済ませスミレと共にエクス城に向かう。
急いでいたため、馬車を使わずに身体能力向上で走った。
エクス城は大混乱だった。
エクス帝国騎士団第二隊と魔導団第二隊の隊員が慌ただしく動き回っている。
貴族が急報を受けて集まり始めてきた。
集まった貴族はエクス城のホールに集められる。俺とスミレもホールで待機だ。
魔導団の俺とスミレだが、第一隊のため国内の問題事は範囲外となる。
俺は取り敢えずグラコート伯爵の立場でここで情報収集だ。
情報が錯綜しているが時間とともにザラス皇帝陛下崩御の内容が明らかになってくる。
ザラス皇帝陛下は夜の9時に自室に入った。夜中の1時にザラス皇帝陛下の部屋からまだ光が漏れていたため侍女頭が部屋に入ったところ、胸にナイフを刺されて息絶えているザラス皇帝陛下を発見した。
どうみても他殺である。
夜の9時から、殺されているザラス皇帝陛下が発見された夜中の1時の間にザラス皇帝陛下の部屋に行ったのは侍女のキャリン一人だけ。
その侍女のキャリンを探したが行方をくらませていた。
そして先程エクス城から200m離れた路地裏でキャリンは死体で発見された。
死んだ侍女のキャリンは5年ほどエクス城に勤めているラナス男爵家の三女とのこと。
すぐにラナス男爵家に騎士団第二隊が行き、家族を拘束して取り調べ中だ。
他殺かぁ……。クーデター計画と関係はあるのか? 誰かが裏で糸を引いているのだろうな。
今後、エクス帝国はどうなっていくのだろう?
俺はどうする?
ザラス皇帝陛下の殺害を指示した奴は判明するのだろうか? 誰が考えられる。
カイト皇太子、ゾロン騎士団団長、タイル・バラス公爵などの侵略戦争推進派の人達。
あとはロード王国の関係者か。
実行犯である侍女は死んでいるから、わからないままになりそうだ。さすがに証拠は残していないよな。
エクス帝国魔導団に入った時に魔導爵になる。その時にエクス帝国に忠誠を誓う。俺は魔導団第三隊に入った時にエクス帝国に忠誠を誓っている。
しかしグラコート伯爵になる時にエクス帝国ではなくザラス皇帝陛下に忠誠を誓い直した。グラコート伯爵家はエクス帝国には忠誠を誓っていない。
スミレもグラコート伯爵夫人として俺と同じ立場になっている。グラコート伯爵を返上すると残る身分は魔導爵になる。
そうなるとエクス帝国魔導団としてエクス帝国の決定には否応無く従う事になるか。
カイト皇太子が皇帝陛下になれば侵略戦争に駆り出されそうだな。
これはスミレと話し合う必要があるな。
今、集められているのはエクス城のホールだ。
パーティ会場にもなるため、隣りには数ヶ所控え室がある。
俺は控え室の一つにスミレと二人だけで入る。
「スミレ、今後の事について大まかに話し合っておきたい。さすがにラナス男爵家の三女の侍女だけでこんな大それた事はしない。誰かしらの関与があるだろう。だけどその裏で指示した人物は特定されないと見たほうが良いと思う」
「そうね。実行犯である侍女が死んでいるから指示した人物にたどり着くのは難しいわね」
「このままだと次の皇帝陛下はカイト皇太子だろ。必ず侵略戦争を仕掛けるぞ。それに駆り出される可能性が出てきているよね」
「ジョージが首を縦に振らなければカイト皇太子は無理強いはしないと思うけど……」
「皇帝陛下は絶対的な権力者だよ。カイト皇太子が皇帝陛下になったらどう変化するかわからないよ。侵略戦争の参加だけじゃなく、修練のダンジョンの参加者も推進派ばかりにしようとするはず。カイト皇太子は大陸制覇の野望を持っているんだから」
「それじゃジョージはどうするつもりなの?」
「最悪、このエクス帝国を出ようと思っている。もちろんカイト皇太子と話し合いはするよ。でも無理そうならエクス帝国を出たほうがカイト皇太子にも俺にも良いような気がするんだ。今の貴族の立場を捨てる事になるけど、スミレは了承してくれるかな?」
「当たり前でしょ! 伯爵のジョージだから結婚したわけじゃないわ。結婚したジョージが、ただ伯爵だっただけよ。それに平民になってダンジョン探索をジョージとするのも楽しそうね」
あぁ……。何か嬉しいぞ。これで最悪な状況になっても怖くない。
安心したらお腹が空いてきてしまった。
さすがに皇帝陛下が崩御したこの時に言う事じゃない事は分かる。
それよりベルク宰相とサイファ団長と会って、相談したいな。
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