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分厚い扉はプレッシャー

 午後の3時までは宿舎の自室で時間を潰した。

 今、俺は魔導団団長室の分厚い扉の前にいる。分厚い扉のプレッシャーにノックするのを躊躇しているとスミレさんがやってきた。


「ジョージ君、先に来てたのか。何してる。中へ入ろう」


 スミレさんは分厚い扉のプレッシャーなど無いようだ。気楽にノックをして入室する。俺も後ろに続いて入室した。


 以前来た時と同じように、部屋の来客用ソファにはサイファ魔導団団長とゾロン騎士団団長の二人が並んで座っている。


 ビシッと敬礼するスミレさん。キビキビした声を張り上げる。


「騎士団第一隊所属スミレ・ノースコート、また魔導団第三隊所属ジョージ・モンゴリ、特別任務の途中報告と今後の任務についての相談に伺いました!」


 慌てて敬礼をする俺。

 ゾロン騎士団団長が俺を一瞥する。サイファ魔導団団長は柔和な笑みを浮かべて向い側のソファを勧めてくれた。


 席順は隣りがスミレさん、真正面がサイファ団長、その隣りがゾロン団長だ。

 相変わらずゾロン騎士団団長は威圧感が半端ない。オーガと言われても信じてしまう。そのオーガ団長(?)が厳しい口調で話し始める。


「どうした? 特別任務の東の新ダンジョン調査は始まってから2週間だぞ。何か問題があったのか?」


 ゾロン騎士団団長はスミレさんと俺をジロリと見つめる。悪い事をしてないのに謝ってしまいそうだ。


「まずは報告を聞いてからにしましょう」


 サイファ団長は優しく言葉をかけてくれる。惚れちゃいそうだ。

 スミレさんは背筋をピンと伸ばし報告を始める。

 地下1階はコボルトとコボルトリーダーのみ出没。地下2階は各種ゴブリン。ただし現在ゴブリンは武装はしていない。一度に2人しか入れないダンジョンとはいえ、ここまでは問題がない。

 報告はスラスラ流れるように進む。


 スミレさんが居住まいを正して今日の報告を始める。


「今朝から地下3階の調査に入りました。最初に遭遇した魔物はオーガです」


 驚愕する団長2人。


「そんな浅い階層にオーガがいるわけがないだろ! 何かの見間違えだろ!」


 怒声を上げるゾロン騎士団団長。

 不満気な顔のサイファ魔導団団長が口を開く。


「せっかくの報告だけど本当なの? 私も地下3階の低層域でオーガは出没しないと思うんだけど」


 2人の団長に怪しまれたが、スミレさんは意に介さず報告を続ける。


「この後で詳細を報告致しますが、今日はオーガを5体倒しました。魔石を納品して1つ当たり10,000バルトに換金されました。この事からもオーガだと証明されると思います」


 怒鳴り声が部屋に響いた。ゾロン騎士団団長だ。


「お前は何をやってんだ! 確かにその魔石の換金額なら魔物はオーガの可能性が高い。しかし無謀な判断だ! 戦力に数えられない索敵要員との2人パーティだぞ! スミレが1人でオーガを5体倒してくるなんて自殺行為だ!」


「誠に申し訳ございませんが、できれば報告を静かに聞いてから発言して欲しいのですが……。」


 スミレさんの発言にサイファ魔導団団長が助け舟を出す。


「まずは報告を全部聞きましょう。それから判断していきましょう。このままでは話が進みませんから」


 ゾロン騎士団団長は口を真一文字に結び、不満気な顔で腕を組む。どうやら報告に口を挟まないようにするようだ。


「それでは報告を続けます。地下3階に出没したのは間違いなくオーガです。私はオーガと戦った事がありますから見間違える事はないです。冒険者ギルドの魔石換金額からもそれは証明できたと思います。オーガを倒したのは、不意打ちで私が1体、あとはジョージ・モンゴリの魔法で4体倒しました」


 目を見開くゾロン騎士団団長。口を出しそうになってるが我慢している。

 なかなか面白い光景だ。

 スミレさんの報告は淡々と進む。


「ジョージ・モンゴリはファイアアローでオーガを倒しました。オーガの眼にファイアアローを突き刺す事により、オーガの脳破壊を成功させています。ジョージ・モンゴリが人並み外れた魔力制御の持ち主だからできる芸当だと思われます。今日の午前中にジョージ・モンゴリが放つファイアアローの性能を検査致しました。一度に25本までのファイアアローを完璧に制御下におけます。総数で300本を発動するくらいまでは的に百発百中でした。300本を超えたところで集中力が切れてきたみたいで、その後は10本に減らして性能検査を続けました。総数で800本になった時に中断しましたが、ファイアアロー10本では完全に魔法を制御しておりました。なお、800本のファイアアローを撃った後でも魔力にはまだまだ余力がありました」


 スミレさんは、ここまで話して目線を一度下にする。

 少しの間があっただろうか。顔を上げたスミレさんは真剣な目になって口を開く。


「ジョージ・モンゴリの類い稀な索敵能力。そこに飛び抜けた魔法制御によるファイアアロー。はっきり言って東の新ダンジョンの調査について地下3階まではジョージ・モンゴリ1人だけで充分と思います。地下3階の調査に私はいらないのではないでしょうか?」


「あらあら、スミレさんは寄生虫にはなりたく無いってことかしら? でもダメよ。貴女の任務は調査だけじゃないでしょ。忘れてもらっては困るのよ」


 サイファ魔導団団長がスミレさんを諭すように言った。

 スミレさんは調査以外の任務もあるのか。大変だ。期待の新人になると無茶振りされるからなぁ。


「それに未知のダンジョンを甘く見てはいけないわ。何か不測の事態が生じるかもしれない。その時はスミレさんの力が必要だからね。私の考えとしては、このまま2人で調査を継続して欲しいわ。ゾロン騎士団団長はどう思います?」


 サイファ魔導団団長はゾロン騎士団団長に話を振る。


「ジョージ・モンゴリがそんな簡単にオーガを大量に倒せるなら騎士団としては願ったり叶ったりだ。一緒に行動するだけで魔物討伐での身体能力向上と魔力向上の恩恵を受けることができる。深層の魔物のオーガなんて倒すの大変だからな。交代制にして騎士団の人員を組ませたいな。騎士団の戦力の底上げになるぞ」


「まぁその辺は皇帝の意向を聞かないとダメですわね。こちらで皇帝の意向を確認してみるわ。それまで今まで通り2人でダンジョン調査を進めていてね」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 話が終わり、俺とスミレさんは魔導団団長室をあとにした。

 スミレさんが少し気落ちをしている印象を受ける。

 やっぱりダンジョン調査での寄生虫紛いの方法は納得できないのかな? ずっと寄生虫だった俺は何とも思わなかったけど…。

 適材適所で良いと思うけど、俺がスミレさんに何かを言うのは違う気がするし。

 他人のプライドが傷ついているのに、その傷に塩を塗り込む行為だ。こういう時は沈黙が金だな。

 俯いて歩いていたスミレさんがいきなり俺の方を振り返った。


 スミレさんの目はもう後ろ向きな考えを排除した感じを受ける。


「今日はまだ時間があるから修練場でジョージ君の剣術訓練をしよう。せっかくだから目標をたてる。今週は私と模擬戦もしよう。来週からは東の新ダンジョンの地下1階と地下2階で実戦をしよう。目標はジョージ君1人で剣術での地下2階までの踏破だな」


 前向きなのは良い事だ。だからスミレさんの魔力は静謐(せいひつ)で清らかなんだ。

 でも俺に剣術でコボルトやゴブリンの群れに突っ込めというのか!

 まさかと思うがスミレさんは脳筋なんじゃないか。まぁそれでも俺は彼女に憧れているんだけどね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 剣術の型の素振りの後にスミレさんと模擬戦を実施した。身体能力向上を使っての訓練だ。

 コボルトやゴブリンを相手にするためには攻撃の比率を高めるのが良いみたい。まずは守備を捨ててスミレさんに剣を振り下ろす。俺の剣は簡単に受け止められる。

 どんなに攻撃してもスミレさんに当たらない。スミレさんから檄が飛ぶ。


「剣の振り終わりと振り始めの連携のところで型が崩れているぞ! 型が崩れると腰の入った一撃にならない! 意識してみろ!」


 なるほど。型から型への連携か。よし! 簡単なものから試してみよう。

 まずは上段からの振り下ろし、そのまま斜め上に斬りあげる。


「お、いいぞ! 基本中の基本だが、今の振りならゴブリンなんかは敵ではない。いろいろ試してみろ」


 言われた通り思い浮かぶ連携技を試してみた。結構、身体を動かすのも楽しいな。


「ジョージ君は案外スジが良いな。魔導団を辞めて騎士団に入るか?」


 俺は全力で首を横に振った。

 何が楽しくて男だらけの集団に入らないといけないんだ。騎士団の女性率は5%くらいだ。魔導団は半数を占める。スミレさんが在籍していようと騎士団に移るメリットは無いな。おまけにスミレさんは騎士団第一隊だ。エリートなので俺が入れるわけがない。


「そこまで拒否されると悲しくなるな。まぁジョージ君は魔導団のほうが向いてるとは思うけどな」


 こんな会話をしながら今日の剣術訓練は終わった。

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