早馬の知らせ
臨時貴族会議の後にベルク宰相とサイファ団長に別室に誘われた。
「お疲れ様でした。ジョージさん。気疲れしたのではないですか?」
こんな若造にも丁寧な話し方をしてくれるベルク宰相。
「やっぱり気疲れはしますね。何故かタイル・バラス公爵が怖く感じて。穏やかそうな人なんですけど……」
「なるほど。ジョージさんはタイル公爵の本質を理解しているかもしれないです。彼は戦争を金儲けだと思っていますからね。戦争で物資を売り買いして儲ける事ばかり考えています。先代とは大違いで困ってしまいます」
戦争を金儲けの機会と捉えているのか。それはとてもドライな考え方だな。
「侵略戦争推進派はカイト皇太子やゾロン騎士団団長のような武闘派。それに戦功を挙げたい没落気味の貴族。そして金儲けを考えているタイル公爵です」
そっか。そうなんだな。そんな人もいるんだ。戦争を金儲けと考えるなんてゾッとする。
そして俺は良く分かっていなかったようだ。
サイファ団長が先程の貴族会議について説明をしてくれる。
「侵略戦争推進派はロード王国に侵略したい。だけどザラス陛下の考えを変えるのは難しいわ。それで2つの動きがあったのよ。一つが東と北の国々の平定ね。戦争が起これば食糧や武器などで儲かる。それに平定後は戦後復興でまた金儲けができる。これを考えて提案したのがタイル公爵ね。もう一つが大きな声では言えないけどカイト皇太子のクーデターね」
ク、クーデター!?
ヤバい話じゃん? 俺、この話を聞いていて大丈夫か!
そんな俺の思いを無視してサイファ団長は続ける。
「クーデターを起こすとなるとゾロン騎士団団長がカイト皇太子に付くわ。帝都で邪魔になるのはジョージ君と魔導団ね。たぶんクーデターの話はタイル公爵も一枚噛んでいるわ。だからジョージ君を東と北の国々の平定に行かせようとしたのよ。ジョージ君が拒否したために次策として帝国軍を行かせようとしたのよ」
うん? 本当なのか?
確かにロード王国への侵略戦争の話だったのに、いつの間にか東と北の国々の平定に変わっていたな。
クーデター後にロード王国を攻めるつもりなんだ。でもそれだと辻褄が合わないような……。
「騎士団まで帝都を離れたらクーデターは失敗しませんか?」
「そこは途中で騎士団だけ帝都に引き返すのよ。ゾロン騎士団団長なら理由を付けて帝都に引き返す事ができるわ。帝都からジョージ君と魔導団を引き離して、騎士団でエクス城を強襲すればクーデターは成功するかもね。だからベルク宰相は国軍である魔導団と騎士団を帝都から離れないようにするために、東と北の平定に参加させないようにしたのよ」
そうなんだ。
だからベルク宰相は志願制なんて言い出したんだ。何か変だと思ったけど、理由があったか。ベルク宰相は東と北の国々の平定は二の次なんだ。一番はクーデター阻止か。
ベルク宰相が静かに話し出す。
「ジョージさん。この話はここだけにしておいてください。あ、スミレさんには話して良いから。これからジョージさんには色々な人から接触があるかもしれない。充分注意をしてほしい」
ベルク宰相は優しいな。こんな人が中央の権力を握っていて良かったよ。
「分かりました。何かありましたらサイファ団長を通して相談させてください。よろしくお願いします」
あぁ、貴族って面倒臭いって、本当に思った経験だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜に寝室でベッドに寝ながらスミレに臨時貴族会議の話をする。
「志願制の戦争だって。騎士団と魔導団はどのくらいの人が志願するのかな?」
「どうかしら。そんなにいないと思うけど。勝った時の報酬にもよるんじゃないかしら?」
「スミレは辞退だよね?」
「ジョージが参加するなら行くけどね。自ら人を殺したいと思わないわ」
「クーデターの動きにはどう思う?」
「クーデターねぇ……。カイト皇太子がそんなに焦る必要があるのかしら。そんな事しなくても皇帝になれるのにね」
そうだよな。いくら何でもメリットが薄く感じるよな。軽い兆候があっただけかもね。
俺は軽くスミレにキスをして眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の未明にエクス城から早馬がやってきた。
ザラス皇帝陛下の崩御の報を持って……。
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