始まった臨時貴族会議
9月12日【無の日】
午前中はスミレと魔力ソナーの鍛錬と、ルードさんの奥様のリードさんが講師のダンス講習。
昼食をルードさん夫妻と食べる。
二人共洗練された優雅な動きだな。見ているだけで講習になるよ。
午後からは明日のエクス城で行われる貴族会議について、スミレとお勉強。代表的な侵略戦争推進派と反対派を覚えていく。
そういえばノースコート侯爵家はロード王国の西の領袖として侵略戦争推進派だったが、ロード王国からの貢ぎ物として、低賃金での人員派遣や奴隷派遣があったため、鉱山採掘の人員不足が補えるそうだ。
ノースコート侯爵家としては既にロード王国に侵略戦争をしなくても良いのだが、今までの経緯があり、簡単に反対派に鞍替えをする事ができないようだ。
ザラス皇帝陛下、ベルク宰相、サイファ魔導団団長は侵略戦争反対派の中心人物だ。
基本的に反対派の貴族は帝都中央で要職についている者が多い。今のままで満足な人達とも言える。
カイト皇太子、ゾロン騎士団団長、バラス公爵家、ノースコート侯爵家が侵略戦争推進派の中心となる。
こちらは反対派と違って、帝都中央で要職についていない貴族が多い。今のままでは不満で、侵略戦争して戦功が欲しい人達ともいえる。
侵略戦争推進派のバラス公爵家って聞いた事があるような……。
スミレが教えてくれた。グラコート伯爵家の使用人の前職がバラス公爵家に仕えていたんだった。
ウチの執事長のマリウスの息子のザインに嫌がらせした奴が当主じゃん!
ザインは今やグラコート伯爵家には無くてはならない存在だ。
執事見習いと雑用をしっかりやってくれている。メイド見習いのサラとも仲良くやっているようだ。
機会があったらバラス公爵家の当主に嫌がらせしてやろうっと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
9月13日【青の日】
エクス城で行われる臨時貴族会議に出席する。
スミレは当主でない為、参加はできない。
ちょっとだけ寂しい。
エクス城には身体能力向上を使って走っていったほうが早いが、伯爵家当主としてそんな事をしてしまうと問題らしい。
いつの間にかグラコート伯爵家の屋敷には四人乗りの立派な馬車が用意されていた。執事長のマリウスが購入しておいてくれたそうだ。
有能な人は何の指示をしなくても、やっておいてくれるから楽だな。本当に良い人を得たよ。
馭者はマリウスの息子の執事長見習いで雑用係のザインだ。ザインも有能な人材に育っていっている。
馬車に乗り、ぼんやり外を眺める。
帝都は活気があった。
いつもは帝都の東側からあまり出ないからなぁ。魔導団本部も屋敷も帝都の東側にあるからね。帝都の中央までに行くのはエクス城に行く時くらいだ。
案外、自分の行動範囲が狭い事に気が付いた。でもそんなもんだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
貴族会議はエクス城の会議室で行われる。
会議室に入った時には8割くらいの席が埋まっていた。
「ジョージ! こっちだ!」
サイファ団長が手を挙げて俺を呼んでいる。
どうやら席が決まっているようだ。俺の席はサイファ団長の隣である。
心強く感じるなぁ。
周囲の貴族は雑談に興じている。
俺も貴族の友達でも作らないと駄目かな? 夜会とかの誘いは断ってばかりだ。今度、一回参加してみるか。
席に座ったらサイファ団長が小声で話しかけてくる。
「こちら側に座っているのが侵略戦争反対派の連中ね。向かい側が推進派よ」
なるほど。サイファ団長の反対隣りの席はベルク宰相だ。向かい側の席にはゾロン騎士団団長とスミレの父親のギラン・ノースコートが見える。
「一応、説明しておくわね。推進派で発言力を持っているのはカイト皇太子とゾロン騎士団団長とタイル・バラス公爵よ」
ゾロン騎士団団長と雑談しているのがタイル・バラス公爵のようだ。
侵略戦争推進派というから勝手に武闘派のイメージがあったが、穏やかそうな壮年の男性だ。俺と同じ黒髪をオールバックにしている。
ザラス皇帝陛下が入室してきた。
貴族達の雑談が止まり、会議室が静寂に包まれる。
ザラス皇帝が推進派と反対派の間に座って会議が始まった。
宰相のベルク宰相が発言する。
「それでは臨時貴族会議を始めたいと思います。今日はエクス帝国随一の戦力であるジョージ・グラコート伯爵にも参加してもらっております。ロード王国に侵略戦争をする、しないに関わらず、その動向は重要な事は皆さん理解していると思います。それではジョージ・グラコート伯爵、ご自身の考えを話してください」
い、いきなりっスか!?
俺は焦る内面を見せないように優雅に立ち上がる。ルードさんのマナー講義が役に立っていると思う。あとは一人称を俺じゃなく私でいこう。
「ジョージ・グラコートです。ロード王国に侵略戦争を仕掛けるかどうかで揉めていると聞いたため、今日はこの会議に参加させていただきました。私と家内のスミレは、もしロード王国に侵略戦争を仕掛ける事が決まったとしても参加は致しません」
ゾロン騎士団団長が俺を怒鳴りつける。
「貴様! それでもエクス帝国の軍人か! エクス帝国で決まった事を一軍人のお前が任務を拒否するつもりか!」
「私は祖国であるエクス帝国を守るためなら命をかけて参戦しましょう。だけどわざわざする必要のない戦争を仕掛けて、人を殺しにはいきたくないですね。エクス帝国の上層部がそんな選択をするのなら、エクス帝国には未来がありませんので身の振り方を考えたいと思います」
カイト皇太子が腕を組みながら発言する。
「確かジョージは父であるザラス陛下に忠誠を誓っているな。俺にも忠誠を誓ってくれないのか?」
「前にも言いましたが、私は無駄な血を流したくないですし、流させたくありません。ザラス陛下の治世ではその心配が薄いと感じました。カイト殿下の治世では血を積極的に流しにいくと感じております。考え方が違い過ぎて上手くいかないと思いますが?」
カイト皇太子は鼻で笑ってから言葉を発する。
「それは今のお前の考え方だ。未来にはどうなっているかわからないだろう。ジョージ、それだけの力を持っていてどうして大陸制覇を考えないんだ。力ある物には成し遂げなければならない責務があると思うが?」
「私はただ幸せな家庭を作り上げたい一魔導師です。そんな大それた夢など持ち得ません」
カイト皇太子がニヤリと笑う。
「お前だって、世界中の美味い食事を食べ、大勢の美人の女を侍らせたいだろう。今と比較にならないくらいの贅沢な生活を送れるぞ。その力がお前にはあるじゃないか」
スミレと結婚する前だったら、一考の価値があったかもしれないけどな。今の俺はスミレにしか欲情できない身体なのだよ。ご飯は料理人のバキが素晴らしいものを作ってくれるしね。
「私は今の自分の生活にとても満足しております。それに私はロード王国との外交団に参加しました。ロード王国が貢ぎ物を毎年献上する事になった件を纏めた一人でもあります。その約束をこちらから侵略戦争なんかして反故にするわけにはいきません。外交団の努力が水の泡じゃないですか」
心底理解できないという顔を見せるカイト皇太子。
そこに先程ゾロン騎士団団長と雑談していた壮年の男性が静かに立ち上がる。
「ジョージ・グラコート伯爵、初めまして、私はタイルと申します。バラス公爵家の当主をさせていただいてます」
タイル・バラス公爵は、優雅な立ち振る舞いと穏やかな声で一瞬のうちに会議の中心に躍り出た。
「せっかくエクス帝国が誇るドラゴン討伐者が会議に出席してくれているのです。今日、エクス帝国のしっかりとした方向性を決めるべきでしょう」
何か、この人ヤバい。逆らえない雰囲気が出ている。相当なやり手だ。
俺の心は騒めきだした。
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タイトルに頭を悩ませている作者でした。
タイトル人気投票開催しておりました。
一週間ほどの期間を考えておりましたが、このままが断トツで票を得ております。
逆転する可能性が薄いため、タイトルはこのままでいこうと思います。
投票していただいた読者の方、ありがとうございました。