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マナー講師

休暇の一週間を一日ごとに区切りたかったため短めです。

ご了承のほどよろしくお願いします

9月2日【緑の日】

 執事長のマリウスが朝から帝都のサラバン伯爵邸に出向いて行った。

 俺が不老になっているならばマナーはどこかで学んでおかないとね。これで俺も紳士になれるはず。優雅な身のこなしで女性を虜にする魔性の男デビューだ!


 こちらからルードさんを訪ねるつもりでいた為気を抜いていた。何とマリウスはルードさんを連れて帰ってきた。

 慌てて身支度の用意をして応接室にスミレと向かった。

 ルードさんはメイド長のナタリーが用意した紅茶を優雅に飲んでいる。白髪をオールバックにしている細身の男性だ。一つ一つの動きが洗練されていて、これはもう芸術だ。


「初めまして。私はジョージ・グラコートと申します。わざわざ私の屋敷にまで足を運んでいただいて申し訳ございません。こちらから伺うのが(すじ)でしたのに」


 ルードさんはこれまた滑らかに立ち上がり挨拶を返す。


「いや、こちらが無理を言って押し掛けてきたのですよ。恥ずかしながら、帝都のサラバン邸は人を呼ぶほど綺麗じゃなくてね。使用人も二人しかいないんだ」


 申し訳無さそうに言うが、そこに卑屈さは感じられない。何かとても素敵な人かもしれない。失礼ながら魔力ソナーでルードさんの魔力の質を覗いてみる。


 その魔力は質実(しつじつ)にして剛健(ごうけん)。まるで巌のような魔力だ。

 一瞬で惚れてしまった。

 この人しかいないじゃん!

 千載(せんざい)一遇(いちぐう)の好機だ!


 俺はマナー等忘れてルードさん、いやルード様の手を握っていた。


「是非、私のマナー講師をお願いしたい! いや人生の師になっていただいても結構です!」


 さすがのルード様も俺の行動に虚を()かれた顔を少しした。


「嬉しい申し出ですが、さすがに人生の師は辞退しますよ。まだジョージ伯爵と出会ったばかりじゃないですか」


 魔力は嘘をつかないからな。取り敢えず、こんな理想の男性とお知り合いになれるだけで良いか。


「それでは手始めにルード様にはマナー講師をお願いしたいと思います。週2回ほどと考えているのですが、ご都合のほうはどうでしょうか?」


「それでは週の真ん中の【赤の日】に夕食を共にしましょう。また【無の日】の午前中に食事以外のマナーを教えましょう。あと伯爵の方からルード様と呼ばれるのはまずいです。自分で言うのも何ですが、ルードさんでお願いします」


 ちぇっ! しょうがないなぁ。でもルードさんのマナー講師は決まったぞ!

 横のスミレも魔力ソナーでルードさんの魔力の質を感じたのだろう。とても良い笑顔をしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そのままルードさんと午前のお茶会に移行した。

 ルードさんは俺のお茶の飲み方を見て修正してくれる。


「ジョージさんはそんなに失礼なマナーはしてないですよ。ただ、姿勢が少し悪いですね。背筋を真っ直ぐにするだけで、だいぶ印象が変わります」


 一応、エクス帝国魔導団に入団した時に最低限のマナーは教わっている。魔導団に入ると準貴族の魔導爵になるからね。入団後の必須項目となっている。それでもやはり生まれた時からの貴族と身のこなし方に雲泥の差がある。意識して直していかないとな。


 少し沈黙があり、ルードさんが重い口を開いた。


「マナー講師を受けた後で失礼だとは思うのですが、是非確認させてください。ジョージさんは侵略戦争推進派ですか? それとも反対派ですか?」


「私は基本的に侵略戦争反対派ですね。無駄な血は流すべきじゃ無いと思っていますので。ただエクス帝国が攻められたら帝国民を守る為に戦いますけど」


 ルードさんがニッコリと笑った。


「ロード王国の外交団副団長でしたから反対派だと推測しておりましたが、その通りで良かったです。私も無駄な戦争はしたくない性格ですから」


「それは良かったです。私も家内のスミレも反対派です。屋敷の使用人も皆反対派ですから安心して(くつろ)いでください」


 エクス帝国内では家族間でも推進派と反対派でいがみ合っているからなぁ。何とかならないもんか。

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