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カタスの嘆願と外交団の任務終了

8月29日【白の日】

 そう、明日は無の日。普通の人は休日だ。

 しかし外交団は明日の朝早くに出発してエクス城に帰還報告をする予定だ。急げば昼の3時には到着するだろう。

 俺は明日の夜に自分の屋敷でスミレにあんな事やこんな事をしようと妄想していた。


 外交団、最後の宿泊は、行く時にも利用した皇室の代官の館である。

 ここでちょっとだけ騒ぎが起きた。

 カタスがベルク宰相にエルの処罰を軽いものにしてくれるように熱心に嘆願を始めた事だ。


 ベルク宰相は静かにカタスの話を聞いていた。


「彼女はまだ18歳です。優秀な魔導師でもあり、まだまだ未来があります。それにドットバン伯爵の領軍との(いさか)いもロード王国の騎士団の命令に従っただけです。彼女一人の責任を被せるのはおかしいです。寛大な処分をお願い致します」


 カタスさんの言い分を聞いていたベルク宰相が穏やかに話し始めた。


「確かにカタスさんがいう事には一理あると思う。しかし物事には直接的な責任を取らないといけない人が必要になる時もあるんだよ。今回はそれがエル・サライドールになっただけだ」


「それはおかしいですよ。もともとエクス帝国の侵略戦争推進派が問題を起こした事じゃないですか。被害を受けたのは自業自得です」


「まぁそう言うのもわかるが、我々はエクス帝国の帝国民だ。ロード王国の肩を持つわけにはいかないだろう」


「納得ができません。何とかなりませんか?」


 喰い下がるカタスさん。呆れた顔でベルク宰相が言葉を返す。


「陛下の判断を仰ぐ事になるだろう。一応、私からエル・サライドールには有効利用できる可能性があるとは言っておく」


「有効利用ですか?」


「エル・サライドールはロード王国内の騎士団や王国民から英雄視されている。今後、ロード王国を緩やかに支配していくための切り札になるかもしれない」


 妹のエルが切り札!? なるほど、ロード王国を緩やかに支配ねぇ。外交の真髄は戦わずして勝つ事かぁ。戦争が無い事は良い事だね。


 渋い顔のカタスさんだったが、エルが死罪を免れる可能性がある事に少しは納得したようだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 スミレと別室にて二人で話し合った。


「カタスさんは完全に俺の妹のエルに惚れているよね。これじゃウチのサラには紹介できないよ」


「そうね。止めておいたほうが無難だと思うわ。エルさんを見るカタスさんの眼は完全に恋する人の物だったわ」


 あちゃー! スミレから見てもやっぱりかぁ。こりゃだめだ。またサラに紹介する人を探さないとな。


 どうせなら未婚女性を数名集めて魔導団の独身者とパーティでも開くか。魔導団はエリートだから女性も集まるだろう。

 よし! やろう!

 帰ったら計画を練らないとな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


8月30日【無の日】

 外交団は帝都に向けて早朝に出発する。

 そのままエクス城の謁見室に入れるように礼服で移動だ。これなら今日中にエクス城で帰還の報告ができそう。

 昼を過ぎると景色が田園風景が少しずつ変わってくる。

 帝都が近くなっている。


 帝都を出発してから約1ヶ月か。不思議とホッとする自分がいる。帝都を出たのは生まれて初めてだった。やはりロード王国へ行くのに緊張はしてたか。感慨に(ふけ)りながら馬車は帝都の城壁をくぐった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帝都に入った馬車はまず騎士団第二隊の詰所に向かった。

 騎士団第二隊は国内の治安維持が仕事であり、国内の警察権を持っている。事情を話して妹のエル・サライドールを預ける事にした。ベルク宰相は、今後のエルの処罰はザラス皇帝陛下の案件になる可能性が高い事を伝え、手荒な扱いをしないように指示する。念の為、魔導団第二隊の応援を呼んでおくようにと伝える。


 その後、馬車はエクス城の前に停まる。

 俺は馬車を降りてエクス城の前に降り立つ。

 あぁ、帰ってきたなぁ。

 そんな思いをゆっくりとしている状況ではないようだ。すぐにエクス城の文官が出てきて謁見室の前室に連れて行かれる。軽く身支度してザラス皇帝陛下の待つ謁見室に入室する。


 ベルク宰相を先頭に外交団がザラス皇帝陛下の前に(ひざまず)く。


「皆の者、此度は大儀であった! 面をあげよ!」


 ベルク宰相に合わせて頭を上げる。


「有難きお言葉。恐縮にございます」


 外交団団長であるベルク宰相が全部やってくれるから楽だよね。【一番おいしい思いをするのは二番手】が俺の座右の銘だ。


 威厳がありながらも、どことなくにこやかなザラス陛下。


「細かい話は後で良い。まずはゆっくりと休んでくれ。取り敢えずは予定通りだったんだろ?」


「はい。概ね予定通りです。ただジョージ・グラコート伯爵の魔法の威力が凄すぎて、驚いたくらいです」


「ハハハハハ! さすがドラゴン討伐者(スレイヤー)だな! ベルクが驚くなんてよっぽどだな」


「左様です。こんなに驚いたのは生まれて初めてでしたから」


 そう言ったベルク宰相は俺のほうをチラリと見た。

 いゃ〜ん。静かにしていたのに……。


 ザラス陛下は俺を見て口を開く。


「ジョージよ。これからもエクス帝国をよろしく頼むな。期待しているぞ。新婚早々ロード王国への遠征悪かったな。一週間ほどゆっくり休め。サイファ団長には通達しておくから」


 ラッキー!!

 陛下から直接休みもらっちゃった!

 半分くらいは酒池(しゅち)肉林(にくりん)の生活を送りたい!

 いや送るのだ!


「外交団の皆んなには、城のホールで軽く外交団の帰還パーティを開くから、夕方にまた城に来てくれ。これにて君達の任務は終了だ」


 こうして1ヶ月に渡るロード王国派遣外交団の正式な解散が行われた。

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