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童貞喪失

 ロード王国に入って数刻経つと街が見えてきた。

 それなりの城壁がある街だ。やっぱり国境の街なんだな。


 城壁の前に見るからに身分の高そうな人が頭を下げて、俺たちを出迎える。

 馬車を止め俺が降りると近づいてきた。


「エクス帝国外交団の方々でしょうか? 私はこのザウスの街を治めているラナカートと申します」


「確かに我々はエクス帝国の外交団です」


「それなら是非ゆっくりと休息を取ってください。歓待いたします」


 ラナカートと話しているとベルク宰相が近寄ってきた。


「エクス帝国外交団団長のベルクだ。ラナカートとやら、そこにいるのはドラゴン討伐者(スレイヤー)のジョージ・グラコートだ。どうだ、話のネタにドラゴン討伐者(スレイヤー)の力を見たいと思わないか?」


「いえ、滅相もございません。先程、早馬から報告が来ました。国境の検問所を瓦礫の山にしたと。もう充分であります」


 あ、ベルク宰相の顔が悪辣(あくらつ)だ。これはまた何かするのか?


「まあ、そういうな。結局、力を見せるのだから。すぐに街の住民に通達せよ。20分以内に街の城壁に近寄らないようにな。外から攻撃すると中に被害が出るから城壁内に入るぞ」


 そう言ってベルク宰相は自分の馬車に帰って行った。

 やはりそうなるのね。これが事前にベルク宰相が言っていた威嚇なんだ。

 顔を青くしたラナカートは俺に質問する。


「何をするつもりですか! もしかして城壁を壊すつもりなのですか!」


「たぶん、そうだろうね。もうどうにもならないから、住民の避難を早くしたほうが良いと思うよ」


 俺の言葉に慌てて街に走り出すラナカート。

 俺たちは悠然と城壁の中に入っていった。


 この街は中央が公園になっていた。

 その公園にて馬車を降りる。公園には多くの街の住民が集まってきている。俺たちの馬車に掲げているエクス帝国の旗を見て、小声で何か言っている。

 まぁ戦争はしてないけど敵国だからな。良い印象は持たれていないだろう。


 ベルク宰相は懐中時計で時間を確かめている。そこに先程のラナカートがやってきた。


「ベルク様何とか思い直していただけませんか! この街の住民は別に何もしておりません!」


「確かにこの街の住民は何もしておらん。しかしロード王国の国民だ。国境の検問所ではロード王国の兵士が我々エクス帝国外交団を馬鹿にしてな。エクス帝国の威信を傷つけてしまったのだよ。同じロード王国の国民として責任は取ってもらう」


「城壁が壊されては、この街は丸裸同然です! 何卒(なにとぞ)お考えを変えていただきたい!」


「なるほどのぉ。ラナカートとやら、其方の考えは良く分かった。城壁が無いとエクス帝国の馬鹿者が攻め入ったりするかもしれないな。それでは標的を変えてやろう。お前の屋敷はどこだ? この公園の隣にある一際(ひときわ)立派な建物か? それをドラゴン討伐者(スレイヤー)の力で破壊しよう。資産を持ち出すのは認めない。人だけ避難させよ。時間はほとんど与えんぞ。ジョージ、あの屋敷に人がいなくなったらアイシクルアローを放て」


「了解致しました」


 俺の返事を聞いて、すぐにラナカートは屋敷に走り出す。

 魔力ソナーで確認すると屋敷には15名ほどの人がいる。ラナカートの避難を呼びかける声に慌てて逃げ出す人々。最後の人が屋敷を出た瞬間に俺は呪文の詠唱を始めた。


静謐(せいひつ)なる氷、悠久(ゆうきゅう)の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 今回も1,000本を超える氷の矢が屋敷に向かって撃ち込まれる。轟音と共に瓦礫に変わる屋敷。


 その光景を呆然と見ている住民。

 ベルク宰相は住民に向かって大きな声をあげた。


「これがエクス帝国が誇るドラゴン討伐者(スレイヤー)の力だ! ロード王国がエクス帝国に歯向かう場合は、この力全てがロード王国の国民に向かうと思え! 馬鹿な考えをしている戦争容認者の王家の一部や貴族をお前らが説得するんだな!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日はこの国境の街の最高級の宿泊施設に泊まる事になった。

 今日はスミレと一緒の部屋だ。だけど仕事なのだ。決してイチャイチャできない。だって敵国内だから夜も魔力ソナーで不審者を警戒しないとね。

 俺とスミレで交代で警戒に当たる事になった。

 スミレの魔力ソナーも有効距離が100mは超えているからね。でも明確な有効距離は教えてくれないんだよね。

 これも乙女の秘密なのか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


8月7日〜8月15日

 俺たちは行く先々でそこの領主、又は代官の屋敷を瓦礫にして進んだ。

 一度城門を閉めて抵抗した街があったが、アイシクルアローで城門を壊して通過した。

 歯向かう者は少数だ。


 一度、魔力ソナーに30名ほどの集団が引っかかった。

 その集団は馬車を待ち伏せしていた。ベルク宰相の指示通り俺がアイシクルアローで全て排除した。

 あぁ殺人の童貞を捨ててしまった。

 気持ちの準備をしていたのでそれ程の衝撃はなかった。しかしその日はベルク宰相からスミレと同衾(どうきん)を許された。

 ベルク宰相曰く、こう言う時は女性の肌に癒されるのが良いとの事。

 警護は騎士団のライバーと魔導団のカタスがやってくれる。

 やはり殺人は心に負担があったようだ。スミレは優しく俺を受け入れてくれる。

 確かに俺の心はスミレの肌に癒された。


 俺たちの移動速度は決して早くない。ロード王国の王都に俺の力の情報を敢えて教えているようだ。これがベルク宰相の策なんだろう。


 そしてロード王国の王都にエクス帝国外交団は到着した。

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― 新着の感想 ―
[一言] これで戦争を回避できるんだったら被害もモノだけだし最良なんだろうけど、なかなか大胆にやるものだ
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