国境越え
8月6日【無の日】
午前中にエクス帝国とロード王国の国境を越える予定だ。
エクス帝国側の検問はすぐに通り抜ける事ができたが、その300m先にあるロード王国の検問では難癖をつけられる。
エクス帝国の外交団を送ると事前にロード王国に伝えているはずなのに、検問の兵士はそんな知らせは受けていないの一点張り。
穏やかな風貌のベルク宰相ですら苛ついているのが分かる。
検問の兵士はそんなベルク宰相を見てヘラヘラ笑っている。
何か嫌な予感がするよね。
ベルク宰相の顔が悪辣になる。
あ、あ、検問の兵士さん早く謝って!
俺の心の中の願いは脆くも崩れ去った。まだヘラヘラ笑っている。
ベルク宰相は高らかに言い放った。
「お前らの言い分は良くわかった。我々エクス帝国外交団がこの検問を通れないのは、全てロード王国の仕事の不備、怠慢である。そんな検問所は必要あるまい。10分だけ猶予を与える。私はそれまでに退避する事を勧める。以上だ」
検問所の兵士は呆然としている。
ベルク宰相は検問所から外に出た。
懐から懐中時計を出して時間を見ている。
「ジョージさん、10分後にこの検問所を破壊する。君の全力でアイシクルアローを検問所に撃ち込め」
「本気ですか! 戦争になるかもしれないですよ!」
「エクス帝国がロード王国に舐められるわけにはいかない。こちらは今回礼を尽くして外交団を出しているんだ。それをこの様な無礼を働いたのだぞ。その報いは受けてもらう。これは命令だ。ジョージ副団長分かったか」
静かに圧力を加えてくるベルク宰相。俺の返事は一つしかない。
「了解致しました! 10分後にこの検問所を破壊致します!」
俺の大きな返事を聞いたロード王国の検問所の兵士が騒めいている。でも逃げ出す人はいない。
俺は検問所に行き、一応警告をする事にする。
「10分後に、この検問所は瓦礫の山になります。避難したほうが身の為です。死にたい人だけが残ってください」
半信半疑の検問所の兵士。これ以上は面倒が見きれない。
「警告はしましたからね。あとは知りませんよ」
俺は検問所の外に出た。
検問所は両脇を山に挟まれた場所に作られている。高さが10m、幅が50mほどだ。石造りでなかなか堅固な印象を受ける。
でもドラゴンより硬くないからなぁ。
魔力ソナーで検問所の兵士の場所を確認する。
22名の兵士がいた。
どうするかな。ベルク宰相の言う通りにやったら瓦礫に埋もれて死んじゃうな。
よし! まずは不殺を目指してみよう。あ、馬もいるな。馬も守るか。
ベルク宰相が懐中時計から顔を上げる。
「時間だ。頼んだぞ」
俺は頷いて呪文の詠唱を始める。
【水の慈愛、清らかな水流で害意を防げ、ウォーターカーテン!】
「何!?」
驚くベルク宰相。水の魔力が検問の兵士と馬に向かっていく。
そのまま続けて詠唱をする。
【静謐なる氷、悠久の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】
1,000本を超える氷の矢が検問所に向かって撃ち込まれる。
俺の氷の矢にかかれば岩造りの建造物なんて豆腐みたいなもんだ。直接検問所の兵士と馬に当たらないように氷の矢を制御する。
【ドドドドドド!】
崩れ落ちていく検問所。
30秒ほどで瓦礫の山と化した。
事前に使ったウォーターカーテンに守られて検問所の兵士に怪我人は出ていない。
ウォーターカーテンも結構使えるかな。でも1分程度しか効かないんだよね。瓦礫に埋もれた人が数人いるから助けてあげないとな。
「ベルク宰相! 瓦礫に埋もれた兵士が数人います。救助してきます!」
そう言って俺とスミレは瓦礫の山から兵士を助けるために動きだした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
取り敢えずは死傷者ゼロで検問所破壊は終わった。
呆けている検問所の兵士。
俺を見てベルク宰相は高らかに笑った。
「ハハハハハ! ジョージさんは凄いな。こんな破壊をやっても誰一人殺さないんだから。これでより一層外交がしやすくなったよ」
どうやら褒められたようだ。取り敢えず良かった。
ベルク宰相は検問所の兵士に言い放った。
「お前らはすぐにロード王国の王都に報告に行け! 我々外交団を侮る奴は容赦なく対応すると伝えろ。また敵対する場合には死ぬつもりで来いとな。分かったか。それなら早く行け!」
慌てて馬に乗ってロード王国の王都に向かう兵士達。馬に乗れなかった兵士は走り出していく。
俺は瓦礫の山と化した検問所をロックウォールの魔法の応用で更地にした。
これで馬車が通れるね。
俺たち外交団は悠々と国境を越えた。
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