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漢の浪漫

8月3日【赤の日】

 今日も馬車の中は暇である。

 魔力ソナーで1kmを確認しても怪しい団体様はいない。強い魔力反応でもないため一般人だろう。

 まぁまだエクス帝国内だからね。

 今日もスミレは魔力ソナーの実践訓練をしている。ストイックやなぁ。


 俺は暇つぶしに持ってきた魔法体系概論と魔法史と呪文解析概論の教科書を読んで時間つぶしをする事にする。時間ができた時にスミレのお兄さんのドーランさんに、魔法について教わるのも良いかもしれない。沼にハマってしまうのかな?


 今日、泊まるところは伯爵家が治めている街である。

 街道沿いであるため、案外栄えているなぁ。

 実は俺は帝都を出るのが初めてだ。見る物全てが珍しかったりする。普通の平民が旅行なんてするわけない。家族仲も最悪だったしね。


 この日も部屋割りは変わらず。

 もうスミレと同じ部屋は諦めたよ。ロード王国から帰ってきてからだね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


8月4日【黒の日】

 エクス帝国の西の中心地であるハイドンの街に入った。

 もう帝都から120kmは離れている。

 ハイドンは鉱山の街であり、鍛冶も盛んである。交通の要衝にもなっており、商業も盛んだ。そう、ノースコート侯爵家が治めている街である。

 この外交団は俺たちの結婚式の後、すぐにロード王国に向けて出発したため、領主のギランさんはまだハイドンに帰ってきていない。


 さすがに主人が不在の屋敷に滞在するのは気が引けるため、街の高級宿に泊まる事になった。

 スミレにしては里帰りみたいな感じがある。外交団の団長から旧交を深めて来たらと提案されていた。

 スミレが行きたがっていたようなので、俺も許可を出す。どうやら女性友達数人と会う事になったようだ。

 外交団の面々も夕食は各々、食べる事になった。

 部屋に荷物を置いたところで騎士団のライバーさんがにこやかに言い放つ。


「よし! それでは夕食を食べてからお楽しみだな」


 お楽しみ? なんじゃらホイ?

 俺の不思議な顔に不敵な笑みを返すライバーさん。


「ここはどこだと思っているんだ。西の都ハイドンだぞ。歓楽街が物凄いぞ!」


 歓楽街!? それは(おとこ)の浪漫じゃないか!

 よし! 楽しむぞ!って、俺、新婚じゃん……。


 一時の快楽が一生の苦痛に変わる可能性がある。

 【毒沼は避けて歩く】が俺の新しい座右の銘だ。

 倦怠期の夫婦なら、まだ良いけど、ラブラブの新婚さんが出没する場所じゃないな。


「すいません、ライバーさん。俺は止めておきます。まだ新婚なので……」


「歓楽街に新婚も未婚も既婚も関係あるか! 馬鹿な事をいうんじゃない! (おとこ)の浪漫を何と心得る! 伯爵といえど反省せよ!」


 一瞬、グラっときた。

 だけどやっぱり止めておこう。

 隣のカタスは行くような気配を出している。

 あ、カタスさん、折角サラを紹介しようとしているのに……。

 その夜、俺を置いて騎士団と魔導団の有望株二人は歓楽街に消えていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


8月5日【白の日】

 イェーイ! 今日は白の日だ! 明日は無の日だぜ!

 でも休日ではないのだ……。

 明日が休日じゃない白の日なんかになんの価値があるっていうんだ。


 馬車の中でスミレに夜の歓楽街について聞いてみた。


「あら、男の付き合いがあるから、そんなに目くじらは立てないわ。でも羽目を外しすぎないでね。また頻繁に行って帰ってこないのは嫌よ」


 なんと! スミレさんは(おとこ)の浪漫を理解してくれる奥さんだったか!

 昨晩我慢したのは痛恨の極み!

 帰りは必ず行ってきます!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ロード王国との国境から一番近い街に着いた。

 傭兵らしき人が多数いるな。何か物々しい。

 ここはドットバン伯爵が治めている街である。この街ではロード王国との開戦は秒読みに感じる雰囲気だ。

 我々外交団が来る事を聞きつけてドットバン伯爵がわざわざベルク宰相に会いにきた。


 ドットバン伯爵はでっぷりとした身体の男性だった。

 ドットバン伯爵は我々外交団に初めから喧嘩腰で噛みついてくる。


「何で外交団なんか送っているんです! 話し合いなんてしている段階じゃないんだ! 帝国軍を出して攻めるべきでしょう! あなたも宰相ならば、エクス城に帰って皇帝陛下にそのように進言するべきだ!」


 食ってかかるドットバン伯爵にベルク宰相は柳に風と受け流す。


「はて? なんで帝国軍を出す必要があるのですか? とんと心当たりがありませんな」


「我が領軍がロード王国の騎士団に70名も殺されているのですよ! それなのに帝国軍は知らぬ顔ですか!」


「勝手に国境を越えるような輩には帝国としては責任が持てませんな。向こうが国境を越えて来たのであれば話は別ですが」


「どちらが国境を越えたかは既に関係無いだろう! 大事なのは我が領軍の人員が70名殺された事です! 死んだ者には家族がいるのですよ!」


「あなたは軽挙(けいきょ)妄動(もうどう)の誹りは逃れられないでしょうな。亡くなった方への家族の補償は手厚くするべきです。あなたの領地の予算から捻出してください。中央は関与しませんから」


 顔を赤くするドットバン伯爵。踵を返して立ち去る。


「あんなに煽って大丈夫ですか? 勝手にロード王国に攻め入ったりしないですかね?」


 俺は心配になってベルク宰相に確認した。


「さすがにコテンパンにやられた後の領軍だ。現場じゃ怖くてそんな事はできないですね。傭兵も情報収集はしっかりしているから、ロード王国には攻め入ったりしないさ」


 そんなもんなのか。エル・サライドールはドットバン伯爵家の領軍と盗賊を合わせて100人近くの人を(あや)めているんだよな。

 俺は殺人童貞だ。

 実際に人を殺したら、どんな感情が出るんだろう……。

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