ロード王国へ出発!
8月1日【青の日】
未明にスミレと愛を確かめ合ったが、今日は忙しい。
明日がロード王国に出発する日だからだ。
旅装の用意をするため、今日から魔導団の業務は出張扱いとなっている。
少し遅めの朝食を屋敷の食堂でスミレと食べる。
あぁ……。本当に家族になったんだな。こんな事でも幸せを感じる。
人生で大事なのは【何をするか】じゃなくて【誰とするか】と実感した。
メイド長のナタリーとメイド見習いのサラが給仕をしてくれる。二人共、なんか生き生きしている。今までグラコートの屋敷には女主人がいなかったため、微妙に収まりが悪かった。スミレが住む事によってそれも解消されていくのだろう。
旅装の準備は執事長のマリウスが指揮を取り、使用人総出でやっている。
俺とスミレは暇になり、俺の私室でお茶を飲むことになった。
スミレのお茶を飲む姿も優雅で見惚れてしまう。
やっぱりスミレは侯爵家のお嬢様なんだ。俺なんて平民上がりだからな。マナー講師でも呼んで勉強しようか。
「何? そんなに見つめて。私の顔に変なものでもついてるかしら?」
「いやスミレのお茶の飲み方が洗練されているからさ。俺も伯爵として最低限のマナーを覚えようかなって」
「私はそんなに気にならないけど、ジョージが気になるならそれもありかな?」
「ロード王国から帰ってきてから考えるよ。良い講師がいたら紹介して」
「あら、結構本気なんだ。私は必要無いと思うけどなぁ」
俺の恥はグラコート伯爵家の恥。スミレの恥にもなる。やっぱりマナー講師をつけよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
8月2日【緑の日】
今日は朝からエクス城でロード王国を訪問する外交団の出発式だ。
謁見室のザラス皇帝陛下の前に、外交団団長のベルク宰相と副団長の俺がいる。
「ベルク、しっかりと頼んだぞ。ロード王国に戦争をする気を無くさせてこい。ジョージはベルクの指示を守ってくれれば良い。皆、体調には気をつけてな」
陛下の言葉にベルク宰相が返答する。
「お任せください陛下。必ずや期待に応えてまいります」
俺はベルク宰相と一緒に無言で頭を下げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エクス城前に移動した。
馬車が三台止まっている。
先頭の馬車が俺とスミレが、次がエクス城の文官4人、最後尾がベルク宰相と騎士団第一隊のライバーと魔導団第一隊のカタスが乗ることになった。
俺が魔力ソナーをしっかり使って安全に移動する考えみたい。まずはロード王国の国境まで馬車で4日間かけて移動する。泊まる場所は領地を支配している貴族の世話になるみたい。
見送りにサイファ団長が来てくれた。
「ジョージ! ちゃんとエクス帝国に帰ってくるのよ! ロード王国に鞍替えしちゃ駄目だからね!」
半分本気で半分冗談なのかな?
「安心して下さい。俺の家族はスミレ以外にグラコート伯爵家の使用人の皆と、エクス帝国魔導団です。俺は家族は捨てないですよ」
「それを聞いて安心したわ。体に気をつけていってらっしゃい」
馬車はロード王国に向けて、西にゆっくりと進み出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
馬車に乗っているとやる事がないなぁ。
スミレは眼を瞑って魔力ソナーを発動している。実地訓練中だ。
スミレの太ももを触ろうとしたら怒られてしまった。
スミレって基本的には真面目だよね。俺は基本、不真面目だからなぁ。
帝都から10kmほど離れると長閑な田園風景が続く。
景色も変わらず眠くなってきた。
流石に寝るわけにはいかない。警戒態勢中だからな。今回の任務は睡魔との戦いのようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お昼過ぎに少し大きめの街に到着した。
昼食にするようだ。どうやら今回のロード王国行きの予定はしっかりと立てられているみたい。
清掃が行き届いてる小綺麗な飲食店に入る。
4人のテーブル席に俺とスミレとベルク宰相とカタスさんが座った。カタスさんが一緒なのは、俺が誘ったのだ。
「カタスさんは恋人はいるんですか?」
カタスさんは直球の俺の質問に軽く呆れたように返事をしてくれる。
「新婚さんにそういう事を聞かれると嫉妬しか湧かないな。残念ながらいないんだよね」
お、これは案外ラッキーか。
「それなら誰か好きな人はいますか?」
「グイグイ聞いてくるね。一体なんだい? 今は仕事が忙しくて中々出会う機会がなくてね」
おぉ! 優良物件のカタスさんはフリーなのか! これは恋のキューピッドになれるかも!
「未婚の気立ての良い女性がいるのですが、興味はありませんか?」
「僕も男だからね。素敵な女性とは知り合いたいよ。ジョージさんが紹介してくれるんですか?」
「ウチのメイド見習いでサラって名前の女性なんですが、働き者で可愛いタイプですね。もし良かったら、ロード王国から帰ってきたら、ウチの屋敷に遊びに来ませんか? 気軽な気持ちで問題無いですから」
「ジョージさんが勧めてくる女性には興味があるね。何たって奥さんがスミレさんだからね。是非、伺わせてもらうよ」
良し! これでサラに1人は紹介できるな。サラとの約束は守らないとね。
俺とカタスさんの会話を聞いていたベルク宰相が会話に入ってきた。
「私の兄の息子の甥もまだ結婚していないんだよ。そんなに良い女性なら私の甥にも会わせてあげてほしいな」
ベルク宰相はエバンビーク公爵家の人間だったよな。また国政の中心人物でもある。そんな人の甥なんて、サラが困惑する顔が浮かんでくる。
「ベルク宰相は公爵家の方なので、男爵の娘のサラが家格が合わなくて困ってしまいますよ」
「なんと、ジョージさんからそんな言葉が出るとは思わなかったぞ。平民出身なのに侯爵家の娘と結婚しているじゃないか。愛があれば身分等、些末な事だろ?」
そうはいっても、俺は今、伯爵だしな。魔導爵の時は初めからスミレを諦めていた。
「些末かどうかは難しいですね。結婚しても周りから雑音が聞こえてくると思いますから」
「そうなんだよな。私の兄は公爵だから、その息子の甥になかなか釣り合う相手がいなくてね。選択肢が初めから少ないんだよ。ジョージさんがスミレさんと結婚してしまうから、選択肢が狭まってしまったよ」
確かにスミレは侯爵家の娘だから公爵家の人とも結婚できるな。
うん? フレイヤはどうなんだろう? さすがに無いか。
結局、ベルク宰相の甥の話は有耶無耶になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日、泊まる館は皇室の代官の館だ。この領地は皇室の直轄領だ。代官は数年で変わる官僚である。その為、仕事もキチッとしていて部屋割りは男性部屋と女性部屋に別れた。
随行員の文官は男性二人に女性が二人。
部屋割りは
①スミレと文官の女性二人
②ベルク宰相と男性の文官二人
③馭者の三人
④俺とカタスさんとライバーさん
になった。
なんてこったい。新婚なのに部屋が別とは!? こんな鬼畜のような部屋割りを許して良いのか! いや天が許しても俺が許さん!
しかし根が小市民の俺。
皇室の代官の仕事にケチをつける処世術は存在しない。
俺はすごすごと割り当てられた部屋に入った。
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