マールの存在意義と突き付けた最後通牒
7月27日【赤の日】
スミレとの結婚式は3日後だ。
フレイヤとのゴタゴタは今日にでも決着をつけないとな。
朝の8時に修練のダンジョンに行くと、いつも通りにスミレが待っていた。
今日は寝不足の感じがしないな、
「おはよう! スミレ。今日は寝不足じゃないの?」
「おはよう! ジョージ。昨晩はジョージが言っていた提案を家族に伝えて、すぐに寝たわ。フレイヤに振り回されてたら馬鹿らしく感じちゃって。私はスミレ・グラコートになるからノースコート侯爵家の事には口を出さないようにしてるの」
スミレ・グラコート!!
なんて良い響きだ!!
結婚って堪らないな。
そうだね。フレイヤに構っていたら馬鹿らしくなるよな。俺も今日で今回の事はけりをつけよう。
「よし! それじゃドラゴン討伐にいきますか!」
「了解! 今日は私も暴れたいから2人で討伐ね」
俺とスミレは意気揚々と修練のダンジョンに入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後からはスミレが魔導団第一隊の人を修練のダンジョンに連れていく。
俺は魔法の勉強という名のサボり。最近、午後はまったりしているなぁ。だいたい働き過ぎなんだよ。1日にドラゴン4体倒すんだから、もう充分だよね。
俺は呪文解析概論の教科書を睡眠薬代わりにしてウトウトする。
至福の時間だよなぁ。
俺の至福の時間を壊したのはノックの音だった。
誰だ? 予定なんかないぞ。
俺が返事をするとマールが入室してきた。
マールがノック!? 何があった!? なんか悪い物でも拾い食いしたんじゃないか!
マールは姿勢を正して敬礼をする。
「エクス帝国魔導団第一隊所属マール・ボアラムです! 本日は魔導団第一隊修練部第一部長であるジョージ・グラコート様にお願いがあってきました!」
「おぉ……。マール、大丈夫か? 頭でも打ったんじゃないのか? 医務室に行ったほうが良いんじゃないか?」
マールの顔に怒りの色が現れた。
「何よ! あなたが言葉遣いを直せって言ったんじゃない! 役職が上の人に対する礼儀も考えたのに、そんな事言うなんて酷いわ!」
あ、そんな事言ったな。それで先程の敬礼と挨拶か。マールなりに頑張ってくれたんだな。
「それは失礼な事を言ったな。悪かった。でも普通で良いよ。ただ冷静に話してくれれば問題はないから」
「それなら甘えさせてもらうわ。軍人的な話し方には弱いのよね。それでジョージさんにお願いがあるの。修練部で私を修練のダンジョンに連れて行って欲しいのよ」
確か、マールの修練のダンジョンに連れて行くのを再開するのにはサイファ団長に一任していたな。
「その件はサイファ団長に任せたと思ったけど。サイファ団長の許可をもらってきてくれ」
「サイファ団長が私を後回しにするからジョージに頼んでいるのよ。ジョージからサイファ団長を説得してよ」
ジョージ様、ジョージさん、ジョージと、どんどんマールが馴れ馴れしくなってくるな。
「サイファ団長に考えがあるんだろ。それはしょうがないんじゃないか?」
「時間が無いのよ! ロード王国との戦争が始まりそうじゃない! それまでに最低レベルを30にはしておきたいわ」
「そんなに戦争に参加したいのか? それも侵略戦争だろ?」
「それがボアラム子爵家から私にかけられている期待。私の存在意義なの」
存在意義か……。マールは必死なんだな。侵略戦争で戦功を挙げるのが存在意義なんて、なんか悲しい。人それぞれ色々あるけれどしょうがないんだろうな。
「分かったよ。俺からもサイファ団長に頼んでみるよ。でもその考えだと許可が出るとは思えないけどな」
「サイファ団長とジョージは、どうしてそんなにロード王国に攻め入るのを反対するの? 帝国民ならばエクス帝国の繁栄を望むのが普通だと思うけど」
「戦争は所詮、破壊行動だ。奪って、奪われて結局、人が死ぬ。喜ぶのは一部の商人だけだ。懸命に生きている民は疲弊するんだよ。そんな分かりきった馬鹿な事を、避けようとするのが人として当たり前だろうが。俺とマールでは視点が違うんだよ。たぶん分かり合えないな」
マールは俺に頭を一つ下げて部屋を出て行った。
俺の言葉はマールに変化をもたらすだろうか? きっと変わらないんだろうな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
業務時間が終わり、昨日と同じように夕食を食べてからノースコート侯爵家を訪ねた。昨日と同じ応接室に通され、お茶をいただいた。
結局、どうしたのかな?
少し経つと昨日と同じ顔ぶれが揃った。
ギランさんが口火を切る。
「フレイヤの対応を考えた。まずは聞いて欲しい。あと8ヶ月ほどでフレイヤは高等学校を卒業だ。それまではドーランの知り合いをフレイヤの監視役にする。卒業後は侵略戦争反対派の家に嫁ぐか、ノースコート侯爵家の領地に引き込ませる。どうだろうか?」
なるほど、やはり末の子供のフレイヤには甘い両親なんだな。フレイヤは不服そうな顔をしているけど。何となく嫌な予感がするな。
「その条件で受け入れたいのですが、昨日と今日のフレイヤさんの顔を見ると本人が納得していないみたいですね。最低限、反省してもらわないと、又同じ事をやりそうな予感がするのですが……」
「フレイヤはもう充分反省しているわ!」
大きな声を出す母親のソフィアさん。
俺はソフィアさんを無視してフレイヤに話しかける。
「フレイヤさんは今回の事に反省をして、この対応に納得しているのかな?」
フレイヤは俺を親の仇を見るような目で睨み付けてくる。
たぶん相当言い聞かされているのだろう。
言葉は発しない。
「そんな目をする人が本当に反省しているとは信じられないですね。もう話し合いは終わりにしましょう」
「なっ!」
絶句するギランさん。
でもしょうがないね。娘をしっかりとコントロールできない当主じゃね。
「スミレと結婚して親戚になるノースコート侯爵家には悪いですが、ベルク宰相に全てを話す事にします。そのほうが後腐れがないですから」
俺はいきなり最後通牒を突き付けた。ギランさんとドーランが慌ててそれを止めようと話し出す。しかし俺の耳は仕事をサボっているようだ。
聞こえないなぁ。
話が途切れた時に俺が口を開く。
「ギランさん、ドーラン。フレイヤさんはこのままだとノースコート侯爵家を破滅させます。今切り捨てないと後々禍根を残す事になると思います。流石に死罪にはならないと思いたいですが。幽閉か修道院あたりですかね。あとは宰相と陛下に任せる事にします。この件でノースコート侯爵家が私を恨むのはお門違いですよ。こんな娘に育てた責任を今取る時だと思います。それでは失礼致します」
泣き崩れるソフィアさん。
呆然とするギランさんとドーラン。
焦った表情のフレイヤ。
無表情のスミレ。
なかなかの修羅場やなぁ。
俺はソファから立ち上がり応接室をあとにした。
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