勅令
4月14日〜4月30日
エクス帝国剣術大会でスミレを打倒する。この目的の過程で最強の看板を掲げて事になるだろう。
茜師匠の熱い指導に応える毎日だ。
魔力ソナーの鍛錬である瞑想は順調に進んでいる。日々、魔力ソナーの有効距離が伸びていくのがわかる。
ただやはり200m付近に壁は存在していた。
ドラゴンの魔石は1日当たり300個を軽く超える量を獲得していた。
このペースでいけば5月中には楽に8,000個を超える。
そして親衛隊の第一分隊と第二分隊と第三分隊が個別にドラゴンを討伐できるようになっていた。急速なレベルアップに伴い、強力な弓矢を駆使してドラゴンを狩っている。
三人一組で危なげなく狩る事ができるようになった。
飛躍的にドラゴンの魔石の獲得量が増えていく。
エヴィーは学校生活が楽しいようだ。今度同級生をグラコート侯爵邸に連れてきたいと言っていた。
家に同級生を誘えるなんて、エヴィーは俺よりも社交性が高いのかもしれない。
気がつくと中庭の桜はすっかりと葉桜になり、4月が終わった。
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5月1日【緑の日】
スミレの魔力ソナーの有効距離が300mを超えた。この距離は俺が修練のダンジョンに入る前の記録だ。
もしかして剣術だけでなく、魔法もスミレに負ける日が来てしまうのか?
そんな事になれば俺の劣等感はとんでもない事になりそうだ。
ダンから7月の頭にエルバト共和国から千台を超える運搬用の馬車がエクス帝国帝都にくるそうだ。
今回の運送費用はグラコート侯爵家持ちだ。ただ千台の馬車はエルバト共和国が手配した。こちらに来る時に1,000億バルト相当の金を運んでくる。帰りはドラゴンの魔石を積み込む予定となっていた。
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カイト・ハイドース侯爵を総大将にした東と北の国々の平定の一報が届いた。
圧倒的な勢いでまずは北の二つの国の平定が終了したそうだ。
もともとザラス皇帝陛下が命じた戦争である。その命令では総大将がゾロン元騎士団長のはずだった。
しかしゾロンは現在ハイドース侯爵領軍の軍団長だ。その為、行軍を始めてすぐにゾロンは体調不良を訴えてカイト・ハイドース侯爵が総大将に変更になっている。
すぐに体調が戻ったゾロンだが、混乱を招かないためにと言って、そのままカイト・ハイドース侯爵が総大将になっていた。
そのような事後承諾をアリス陛下は飲まざる得ない力関係と噂されている。
また二つの国の平定では3人の活躍が報告された。3人共エクス帝国魔導団第一隊の隊員でありながら志願して従軍していた。
その3人はマール・ボアラムとカタス・ドラムバードとエル・ドラムバードである。
帝都は盛り上がっていた。戦争とは国と国のぶつかり合いだ。どうしても根源的な闘争本能を刺激してしまう。
その熱狂に侵略戦争推進派はうまく乗っている。現在、帝都で侵略戦争反対派は空気の読めない奴と見られてしまう。
そのような状況でエクス帝国政府は、いやバラフィー・エバンビークは最悪の選択をしてしまった。
公式にジョージ・グラコート侯爵に対してエクス帝国皇室にエンヴァラを献上する命令をアリス皇帝陛下の名前を使って出してしまった。
表向きは神気を発するエンヴァラを神の巫女にし、エクス帝国軍の戦勝を祈願させるというものだ。
しかしどう考えても後から理由を付けてバラス公爵家にエンヴァラを下賜するのが目に見えている。
それほどまでにアリス陛下とバラフィー・エバンビークは追い詰められていたようだ。
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「さてどうしようか?」
俺はアリス陛下の勅令の文書を広げてダンに問うた。
「ほっとけば良いですよ」
ダンがほっとけば良いって言ってるから大丈夫なんだろうな……。ってわけにはいかんだろ!
「さすがに勅令でエンヴァラを献上しろって言っているんだよ。ほっとくのはどうなの?」
「それではエヴィーを皇室に献上なされますか?」
「そりゃ無理だよ。エヴィーが暴れるに決まっているだろ」
「そうです。無理なんですよ。ですからほっとくのです。何もしないのが一番労力が少なくて楽ですから」
「それで皇室や政府との関係は悪くならない」
「間違いなくなりますよ。今の帝都の民衆の雰囲気でしたら、非国民の誹りを受ける可能性もあります。まぁそれはなんとか言論誘導しますけど」
ダンはさらりと怖い事を言うよな。
俺を諭すようにダンが説明してくれる。
「現在、エクス帝国政府に宰相はいません。ベルク宰相の後任を決めていないのです。そしてその役割を王配になるバラフィー・エバンビークが務めています。この宰相に誰がなるのかがまずは重要なんです。宰相は政治の中心ですからね。バラフィーとしてはバラス公爵家からこの宰相を出したいのでしょう。しかしバラス公爵家が渋っている。それでバラフィーは焦っているんです」
なるほどねぇ。そんなもんなのか。
「今回の軍事行動によって、軍事はカイト派が強くなるでしょう。これで宰相もカイト派に抑えられたらアリス陛下は詰みです。しかし宰相にはカイト派を納得させるだけの重鎮じゃ無いと政府が持ちません」
「それって誰がいる?」
「間違いなくタイル・バラス前公爵ですね」
「あのおっさんが宰相!? 柄じゃないでしょ?」
「そのような絵を間違いなくタイルは描いていますね。そしてその下準備として今回の勅令ですよ」
「どういうこと?」
「今回、間違いなくジョージ様はこの勅令を受けません。そうなると皇室の権威は傷がつきます。そしてグラコート侯爵家としても皇室との距離が開きます」
「ま、そうだよね」
「そして次にエクス帝国皇室はタイル・バラス前公爵の復権を認めるようにジョージ様に言ってきますね」
「そんな流れなの?」
「そうですよ。勅令を断った後に、また断るのは心情的にやりにくいですからね。短い間に2回も陛下の願いを叶えないなんて不忠以外の何物でもありません。すぐにエクス帝国から使者が来ますよ」
「えっと、それを断るとどうなる?」
「完全にエクス帝国皇室と政府とは敵対関係になります。しかしタイル前公爵の復権を認めるのは今年の1月にバラス公爵家とグラコート侯爵家が結んだ協定書を無視する事です。これはグラコート侯爵家の家訓を考えれば許せない行為になりますね」
「それって断るとエクス帝国と政府と敵対関係、許可するとグラコート侯爵家が舐められた事になるってこと?」
「その通りです。その為ほっとけば良いって言っているんですよ。どちらも選択できないのなら選択しなければ良いのです」
どうやらやっぱりほっとくのが良いらしい……。
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