皇室への献上依頼
4月12日【無の日】
完全に全裸のエルフに慣れてしまった。
慣れとは恐ろしい……。
そして今日から俺も休みの【無の日】は全裸で過ごす事にしてみた。
ジョージ郷ではスミレですら全裸で過ごしている。服を着ているのが俺だけの為、何か違和感というか疎外感というか、何とも言えない感覚を覚えていた。
これが同調圧力なのだろうか?
長い物には巻かれるのが一番ストレスがかからない。
そして全裸で生活するとわかる。
人は裸で産まれてきたのだと。
全裸でいるのが自然なんだろうなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
4月13日【緑の日】
昼過ぎにダンを伴ってエクス城に登城した。
案内された場所はバラフィー・エバンビークの私室だ。
俺が入室するなり、穏やかな笑顔を見せてくれるバラフィーさん。
握手をし、軽い挨拶を済ませ、来客用ソファに座る。
俺の正面に座ったバラフィーさんはすぐに本題の話を始めた。
「本日はご足労いただきありがとうございます。ジョージ侯爵にお願いがありまして。是非、エンヴァラをエクス帝国皇室に献上してください」
は? エヴィーを皇室に献上?
「えっと、聞き間違いじゃないですよね? そんな事をすればエクス帝国だけじゃなく、この世の破滅を招きかねないですよ」
「エンヴァラの危険性は重々承知の上での頼みです。詳しくは知りませんがジョージ侯爵は魔法によってエンヴァラを御しているのですよね。その状態のまま献上をお願いしたい」
相当無茶苦茶なお願いだよな……。
エヴィーが納得するわけないじゃないか。
「誠に申し訳ございませんが、そのお願いはお受けできませんね。エンヴァラ本人が受け入れないでしょう。間違いなく不足の事態になりかねません」
「そこを何とかできませんか? このままではアリス陛下がお困りになります」
さすがに理解したよ。側室の件で似たような話があったよな。
「無理な物は無理です。あくまで私がエンヴァラを縛っている魔法は、私が不快に思う事をすれば苦痛を与えるだけです。私が不快じゃ無いと特に何の制約もありません。エンヴァラを皇室に献上した場合、エンヴァラの行動でバラス公爵家に何か不都合が生じたとしても私は別に不快に思いませんから」
「そうですか……。何かエンヴァラを安全に皇室に献上できる方法はありませんか?」
俺のやんわりとした言葉を気付かないふりをして無視しやがった。穏やかな風貌に騙されるよ。バラフィーさんは一癖も二癖もある人なんだな。
「無いですね。それにあったとしても献上はしませんよ。バラス公爵家に下賜するつもりでなんでしょう?」
「それはわかりません。これはアリス陛下が望んでいる事ですから」
あくまでシラを切りたいか……。
本当に面倒だな。
「やめませんか? ジャイル公爵がエンヴァラを望んで、コールド・バラスが動いた結果ですよね。そしてそれを貴方が叶えようとしている。アリス陛下がエンヴァラの献上を望む必然性は無いです」
「政権基盤を固める為にはこの程度の仲介や斡旋は当たり前です。当然、陛下も納得されております」
「もし本当にアリス陛下がこの件を了承しておられるのなら、今後のグラコート侯爵家は立ち位置を変える必要があるかもしれませんね」
「……わかりました。これ以上は双方に取ってよろしく無い未来しか見えそうに無いですね」
「勘違いなされているようですので訂正させていただきますね。既によろしく無い未来になっていますよ」
少し感情的になっていたのか口が止まらなくなってしまった。
「それはどのような意味ですか?」
眉を少しだけ顰めるバラフィーさん。
まぁ既に発した言葉は引っ込められんわな。
「貴族的な歪曲表現が苦手なもので明確に言っておきます。我らグラコート侯爵家を舐める者には万死を与えよ。これが家訓なんですよ。そして家訓を当主自ら破るわけにはいきませんね」
「それは陛下に対して不敬ではないですか?」
「敬意があるからこその言葉です。私は臣下の1人としてこのままだとアリス陛下に敬意が払えなくなる臣下が増えていくと危惧しております。臣下の家の家訓を尊重できない皇帝では、敬意を払われなくなりますからね」
俺の言葉に部屋の空気が張り詰めた。
「本当にこの件をアリス陛下は了承しておられますか?」
張り詰めた空気を破ったのはダンだった。
「どういう事?」
俺の疑問にすぐに答えるダン。
「いや、アリス陛下はポーラの身の上話を聞いて憤慨なされた方です。深い慈愛の心をお持ちなのですよ。それがエンヴァラが望みそうに無いバラス公爵家の下賜をお許しになるのか? アリス陛下なら間違いなくエンヴァラの気持ちは確認はするでしょうね」
「別に終わった話だから良いではないですか」
バラフィーさんが口を挟んできた。
「そういうわけにはいきませんね。このままですとジョージ様のアリス陛下への忠誠が揺らぎかねません。誰が画策し、誰が行動したのか? 明確にする必要がございます。それともバラフィー殿下はそれをしない方が良いと?」
「わかった。今日の事は忘れてくれ。いや忘れて欲しい。どうしてもバラス公爵家の後ろ盾が欲しい私の勇み足だった」
「後ろ盾がエバンビーク公爵家だけでは厳しいですか?」
ダンの言葉に頷くバラフィーさん。
「エバンビーク公爵家だけでアリス陛下をお支えするには敵が強大過ぎる……。叔父が宰相を降りてからのカイト・ハイドース侯爵派の切り崩し工作が活発化しています。東と北の国々の平定が成功裡に終われば、より一層カイト派は活気がつきます。中立派のバラス公爵家をアリス陛下に抱き込まなければ抑えきれません」
暗い顔をするバラフィーさんに俺はどうしても確認したい事があった。
「そんな状態になるとわかっていて、なんでベルク宰相をやめさせたんですか?」
「父は帝都の情報に疎いんですよ。そして今でも平和な情勢で物事を判断しております。父はエバンビーク公爵家から王配になるのだからバランスを取るのが必要と考えたのでしょう。安定した国の情勢では正しいですが、今のような不安定な情勢では完全に悪手です」
やっぱり権力闘争は面倒だよな。
俺が憐れみの表情をしていたのか、バラフィーさんが俺に笑顔を浮かべる。
「私たちはジョージ侯爵のような英雄ではありません。情けない事ですが、このようなやりたくない事でも必要とあらばする必要があるのです。できるならば、英雄による国の統一を願っておりますよ」
この発言は間違いなくエクス帝国皇室への不敬にあたるんだろうなぁ。
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