エヴィーの入学式
4月6日【無の日】
今日は全てが休みの日。
鍛錬はしたい人だけがする。
修練のダンジョンにもいかない。
頭を空っぽにする日も必要だ。
グラコート侯爵邸宅にあるスミレと愛を確認する為だけの専用の部屋。
皆から【愛の巣】と呼ばれている。愛の巣には屋外で愛の確認ができるように中庭があった。
その中庭にある桜の木が満開を迎えている。
スミレに膝枕をしてもらうと俺の顔にスミレの銀髪がかかる。春の陽光で輝く銀髪。それを通して見る桜の木がとても綺麗に感じた。
俺はスミレの髪がいじりながら気がつくと転寝をしていた。
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4月7日【青の日】
グラコート侯爵邸の玄関ホールには女神が降臨していた。
整い過ぎているその顔は相変わらずゾッとさせる。
神が創りたもうた造形……。
無表情の顔からは神々しさを感じさせた。
その神々しさは俺を見るなり雲散霧消する。
「どうじゃ? 似合うか? 襲っても良いのじゃぞ」
クルリと一回転するエヴィーの制服のスカートが広がる。
勝手に目が透き通る太ももに引き付けられてしまう。
「エクス帝国高等学校の制服がとても似合ってるいるよ。凄く綺麗だ」
俺の素直な言葉に顔を赤くするエヴィー。
「なんじゃ、どうしたのじゃ? 遂にジョージ様も我の魅力に陥落したのか? それとも何かの罠なのか?」
「陥落もしてないし、ましてや罠でもないよ。ただの感想だな」
疑いの目をしているエヴィーを連れてエクス帝国高等学校に向かう。
今日はエヴィーの入学式になる。エヴィーはポーラに懐いているため、ポーラも一緒だ。
エクス帝国高等学校は多種多様な学科が設けられている。スミレは騎士科、俺は魔導科を卒業していた。それ以外にも領地経営科や結婚相手を探す目的の総合学科などがある。
エヴィーを魔導科に通わせれば間違いなく激震が走るだろう。教師ですら知らない魔法を使えば当たり前だ。
エヴィーには生命属性魔法については外で話さないように厳命している。それが知れ渡ればグラコート侯爵家はとんでも無い事になってしまうだろう。
特に子供ができなくて困っている夫婦や、若返りたい金持ちがグラコート邸に殺到するだろう。
総合学科は結婚相手を探す目的のため、あまり風紀がよろしくない。
エヴィーは上級貴族の血縁だけが選べる貴族学科に在籍する。
エクス帝国高等学校在籍中に悪い虫が付かないように隔離する意味合いが強い。
間違っても平民や下級貴族と恋仲にならないようにする為だ。
エヴィーは上級貴族の血縁では無いが、古代のエルフ王国の王として、特例が認められた。
入学式の会場に入ると騒めきが広がっていく。このような騒めきにも慣れてしまった。
俺はエヴィーを貴族科の指定されている席に案内し、ポーラと2人で保護者席に座った。
入学式で指定された席に座り大人しく待っているエヴィー。俺はそれを保護者席から見守っていた。
そして目撃してしまう。
人が恋に落ちる瞬間を……。
数人の従者を引き連れて貴族科の席に向かう10歳公爵ことジャイル・バラス公爵。
席に座るエヴィーを見た瞬間完全に膠着した。
周囲がジャイル公爵の異変に気が付き騒めき始めたが、ジャイル公爵は微動だにしない。そして真っ直ぐエヴィーを見つめていた。
その目は誰が見ても完全に恋に落ちた少年の目だった。
エクス帝国高等学校は通常15歳で入学をする事になるが、上級貴族の子供の場合は家の都合などで10歳からの入学が認められている。
どうやらジャイル公爵は今年から入学するみたいだな。
残念な事に面倒事になる予感しかしなかった。
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入学式が終わると新入生は各々の教室に移動をしていく。
エヴィーは貴族科の教室に歩いていった。
この後、担任が教室に行き、生徒全員の自己紹介や学校活動の注意点を話して解散になる。
生徒と一緒に帰る保護者はこのまま講堂で待機だ。
「なぁポーラ、あれは恋に落ちてたよね?」
「そうでしょうね。正気に戻られた時に顔を赤くして挙動不審になっておられましたから。入学式の間もずっと隠れてエヴィーを見つめていましたよ」
「そうだよなぁ……。よくある少年が綺麗なお姉さんに憧れてしまう感じなのか? 風邪みたいなもんかなぁ」
「どうでしょうか。私は恋愛経験がほとんどありませんし、本気で好きになったのはジョージ様が初めてですから」
「俺も恋愛経験は乏しい人生だからなぁ。まぁなるようにしかならないか」
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1時間ほどで新入生達が戻ってきた。
エヴィーに皆関心があるようだが、遠くからエヴィーを盗み見ている感じだ。
「エヴィー、お疲れ様。貴族科の教室はどうだった?」
「なんか良くわからんの。ただ我が自己紹介した時は何か騒めいていたぞ」
「えっと、どんな自己紹介したのかな?」
「普通の自己紹介じゃ。『我は崇高で偉大なるジョージ・グラコート侯爵の筆頭下婢のエンヴァラじゃ。またジョージ様の専任侍女も仰せつかっておる。よろしく頼むぞ』、こんな感じじゃな」
「えっと……。俺の筆頭下婢で専任侍女って自己紹介したの?」
「そうじゃ、我の自慢じゃからの」
頭が痛くなってきた……。ダンは注意してなかったのか?
そりゃ騒めくに決まっている。
まぁ遅かれ早かれ知られる事だから良いか……。
それよりもジャイル公爵が俺をずっと睨んでいるよ。
こっちの方が頭の痛い案件になりそうだな。
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