捕食者と被捕食者
4月4日【黒の日】
寝不足の朝を迎えてしまった。
性的な欲望の箍が外れてしまったため、昨晩はたっぷりとスミレに解消してもらった。
これで安心と俺は思ったが、俺の下半身を甘く見ていた事を思い知らされる。
今朝は寝ぼけたまま茜師匠の指導を受けていたため、散々茜師匠に怒られた。
こんな日もあるよな。
問題は瞑想の時間に表面化した。
親衛隊の隊員がそわそわしている。瞑想の準備中にもチラチラと俺を盗み見る隊員が大勢いた。
明日に迫った俺の直接指導を心待ちにしているのがわかる。
それほどまでに俺の直接指導を受けたいのかと思い、ゾクゾクしてくる……。
一度意識すると止め度もなく溢れてくる性欲。自分の事ながら節操が無くて悲しくなるよ。
鎮めようとしても視界一面の全裸で瞑想する美女達……。
空腹時の時に目の前に極上の食事を置かれている感じか。
それとも二日徹夜した後のふかふかのベッドか?
俺はなんとか平静を装い瞑想の時間を乗り越えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さらっと大浴場で汗を流し、早々にジョージ郷の区画を抜け出す。
ジョージ郷では全ての女性が全裸だからだ。
それにしてもエルフの文化に寄り添うと言っても、ジョージ郷はやはりおかしくないだろうか?
このままではグラコート侯爵家の常識は全世界の非常識になるのでないか。
頭の中で【冷静になったら負けだ】って言葉が浮かんでは消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日から修練のダンジョンにポーラとオリビアも参加する事になった。
毎晩、スミレとオリビアがポーラを修練のダンジョンに連れ出していたからなぁ。
既に充分過ぎるほどポーラは強くなったみたいだ。あとは実戦経験とのこと。
俺に付き従うポーラの顔からは喜びが隠せていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜に俺の私室にエヴィーが訪ねてきた。
透き通るような白い肌のエヴィーだが、今のエヴィーは完全に血の気が引いている。
俺の私室はジョージ郷の区画の為、裸姿のエヴィーだ。今にも消えて無くなりそうな様子に心配になる。
「エヴィー! 大丈夫か!」
「大丈夫……とは言えんがこれはジョージ様の筆頭下婢としてやらねばならぬ……。ス、スミレ様に謝罪に来た……。半殺しは良いが、殺さないでくれるようにスミレ様に頼んでくれるか?」
「いや、取り敢えず休め。謝罪は体調が良い時に日を改めよう」
「だ、駄目じゃ。日を改めても同じ……。スミレ様の前に行くと考えるだけで、こうなるに決まっとる。それに明日はジョージ様から寵愛を受けられる日じゃ。筆頭下婢の我としてはそれを逃す訳にはいかんのじゃ」
「いや、寵愛じゃなく、魔力ソナーの指導だけどね」
「わかっておる。しかし皆が言っておった。ポーラの胸をジョージ様が毎朝揉みしごいておると。我も揉みしごかれたいのじゃ」
確かに結果として揉みしごいている感じだけど、ポーラの魔力ソナーは確実に成長しているんだよな……。
「できれば早く済ませたいのじゃ。まるで死刑台の上で待たされている感じを受ける。はやく一思いに半殺しにして欲しいのじゃ」
「スミレをなんだと思っているんだよ。殺しもしないし半殺しにもしないよ」
「ま、まさか、あの破壊神は我を殺すだけでは飽き足らないのか……。拷問は許して欲しいのじゃ!」
俺は面倒くさくなり、取り乱し始めたエヴィーを抱えスミレの部屋に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで何か用かしら?」
スミレは冷酷な視線をエヴィーに向ける。
こ、怖ぇ……。
この怖さはオリビアの片腕を切り落とすと言った時のスミレだ。
「え、あ……、う……」
エヴィーは身体が固まり声を発する事ができない。
「あら? もしかして言葉が通じないのかしら? 貴女は高尚なエンシェントエルフでしたわね。できれば虫ケラの私にも理解できる言葉で喋っていただけるかしら?」
濃密なスミレの魔力が周囲に漏れ出した。傍に置いてあるスミレの愛刀である【雪花】がそれに呼応してリンリンと鳴り出す。
固まっていたエヴィーが震え出し、膝から崩れ落ちた。
身体を限界まで丸めるエヴィー。
これは完全な全裸土下座……。
完全に捕食者と被捕食者。覆らない摂理。隔絶した関係。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
あ、先日のエヴィーと同じだ……。
さすがにエヴィーに助け船を出すか。
「もうこれくらいで勘弁してあげてくれないか? 見ての通りエヴィーも反省しているようだからさ」
「あら? 私はあくまでもグラコート侯爵家の家訓に従っているだけよ。このエルフは当主であるジョージに縛鎖荊を仕掛けたんでしょ。それ相応の罰は必要ね」
確かにいきなりエヴィーは俺を下僕にするって縛鎖荊を仕掛けてきたけど……。
「まぁあれはエヴィーに取って俺への褒美だったみたいだしさ。常識がズレていたから生じた不幸な行き違いだよ」
俺はエルフの常套句である【不幸な行き違い】を使ってみた。
少し呆れた顔を見せるスミレ。
「ジョージは本当に甘いわね。でもそれがジョージの魅力だからしょうがないわ。そこのエルフの私に対する無礼な発言は不問にするわ」
震えが止まらないままのエヴィー。
そして声を一段下げてスミレがエヴィーに語りかける。
「でも、貴女がジョージに縛鎖荊を仕掛けたことだけはずっと忘れないわよ。これだけは絶対に許さない。覚えておきなさい」
スミレの声は俺ですら背中に寒気が走った。
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