まさかの犯罪者予備軍!?
「もう無茶苦茶だよ。毎回精神がゴリゴリと削られるんだ……」
俺は寝室のベッドに横たわりながらボヤいていた。
スミレは鏡台の前で髪を梳かしている。
「直ぐに慣れるわよ。それに慣れてもらわないと困るわ。安心して貴方の子を宿せないじゃない。私もジョージとの間に子供が欲しいわ」
「そっか……。これはスミレとの愛の結晶を授かる為には必要なものなのか……。それなら頑張れるような気がする」
スミレは髪を梳かし終わり、ベッドに入ってきた。
「頑張ってくれるのは嬉しいんだけど、自然体のジョージになって欲しいの。ジョージには素直に性欲を解放して欲しいわ。美女がいれば抱きたくなるのが普通でしょ?」
「何度も説明されているけど、どうしても心にブレーキがかかるんだよ……。今晩だってシーファに洗われている時にスミレの魔力を感じてね。俺はどうしてもスミレの笑顔を曇らせたく無いんだ」
「相当重症ね……。でも治さないといけないわ」
「おいおい、人を病人みたくいうなよ。ただスミレに操を立てているだけだろ?」
俺の腕の中のスミレの声が少し低くなる。
「ジョージはポーラがタイル前公爵に凌辱された事をどう思う?」
「そりゃポーラが可哀想だよ。それで妊娠して捨てられたんだから。ポーラは今まで相当苦労してきた。それは絶対にいらない苦労だ。この件についてはタイル前公爵を許せないな」
「そうね、私も同感だわ。でも考えてみて。あれはタイル前公爵の我慢が決壊した結果なのよ」
「もしかして俺が同じような事をするって思っている?」
「ジョージがそうなるかはわからない。でも男性の性的衝動は時にとんでもない事をしでかしてしまう。エクス帝国高等学校でも教員が生徒に手を出して問題になったりしてるわ。それまでの人生の努力を全て水の泡にしてしまう男性は多いの」
「確かに問題にはなっているけど、さすがにそんな事はしないよ」
「タイル前公爵だってポーラを傷付けようと思って凌辱したわけじゃ無いと思うわ。でも一時の衝動が抑えられなかった。そしてそれが悲しい被害者を作るの」
「それじゃ俺は性犯罪者予備軍って事? それはあまりにも酷いよ」
「犯罪者と普通の人の境目は無いのよ。ほんの些細な事で人は簡単に犯罪者になるわ」
スミレの言葉が冷たく寝室に響く。まるでそれが真実のように……。
「エルフの里から帰還したジョージを見て、我慢を重ねさせるのは危険って判断したの。万が一間違いが起こったらジョージは自分が許せなくて壊れてしまうって……」
涙声になるスミレ。そして俺の胸に顔を押し当てる。
「ジョージは私を幸せにしてくれるんでしょ? それならば我慢しないで……」
俺がスミレの笑顔を曇らせたくないと頑張っていたように、スミレは俺が壊れる可能性を排除しようとしていたのか……。
人生はままならない。そして夫婦関係もままならない。
「なぁスミレ、本当に俺が他の女性と性的関係を結んでも悲しまない?」
「なんで悲しむの? 上級貴族の専任侍女に仕事をさせるだけでしょ。食欲と睡眠欲と性欲は人の三大欲求って言われるけど、それと同じよ。ジョージが食事をしても、寝ても別に悲しくならないわ」
「えっと、以前ハイドンの夜に繰り出そうとしてスミレは怒ったよね?」
「あれは私との約束を破ろうとしたからでしょ。私以外の女性に魅力を感じなくなったと言ったくせして、その舌の根が乾く前に【奥さんと他の女性は別腹】って言うからだわ。夫婦生活では飽きやマンネリが生じるの。その飽きが来る前の出来事だから私の魅力を再確認してもらっただけよ。別に今でも男同士の付き合いは否定しないわよ。どんなに美味しい食事でも飽きはくるの。それは女性でも同じ。その為に他の女性を抱くのは円満な夫婦生活に欠かせないわ」
「えっとそれならばスミレも俺に飽きがこないように他の男性に抱かれるってこと?」
「そんなわけがないじゃ無い。まさかそんな事を心配してたの? 貴族には血統が重要なのよ。正室が不特定多数の男性と性的関係を持ってしまったら誰の子かわからないじゃない。私はしっかりと淑女教育を受けているわよ」
スミレと結婚して最大の衝撃を受けたよ……。これが貴族の、それも上級貴族の常識なのか。平民と全く感覚が違う。
しかし貴族の常識は男性に都合が良過ぎる。間違いなく男性主体で作られた常識だな。
「平民の夫婦生活において、他の女性と性行為を持つのは御法度なんだよ」
「それは男性の甲斐性の問題ね」
「甲斐性?」
「端的に言えば経済力よ。夫が外の女性と子供を作って捨てられたら母子は経済的に困窮してしまうわ。だからエクス帝国では平民の側室は認めてないでしょ」
「それならタイル前公爵はどうなのさ。ポーラを親に言われるがまま捨てているよ」
「あれはお金が問題じゃなく、公爵家の血統のためよ。公爵家はエクス帝国皇室の血を受け継いでいるの。下賤な平民との子供は認められないのでしょうね。ゴリゴリの生粋の血統主義の貴族なら当たり前かな。容認はしないけど理解はできるわ」
大きなため息を一つつくスミレ。
「ねぇ、ジョージ気付いてる? 街中で綺麗な女性とすれ違う時、ジョージの視線が女性の胸や太ももを追うのよ。それが健全な男性の普通な事なの。だから本当に無理しないで」
それはどうしても見てしまうなぁ……。
無理しないで自然体かぁ。
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