何故、彼は【金髪の悪魔】と呼ばれるようになったのか……
帝都に住んでいる者なら誰でも知っている。
エクス帝国の文官は実力よりも身分が大事だと。
それを知らなかったなんて、ダンにも純粋な時代があったんだなぁ……。
「子供の時から憧れていた叔父ですが、違和感はずっとあったんです。ただ私は叔父に憧れていたため、その違和感に蓋をしてしまった。私の父親は叔父の現実を知っていたのでしょう。だからこそ私がエクス帝国の文官になる事に反対した。自分の子供をわざわざ卑屈になる職業に就かせるはずがありませんから」
それなりに重い話だな……。
俺は口を挟まずダンの話を聞く事にした。
俺の意を察したのかダンの話が続く。
「出世欲はそれなりにあったと思いますが完全に気持ちが冷めましたね。それでも帝都は魅力的でした。田舎と比べれば何でもありますから。心に空いた穴を埋めるのに帝都は好都合でした。そしてすぐに切り替えましたよ。仕事はそれなりにそつなくこなす。仕事は所詮、金を稼ぐための手段。貴族との関係はつかず離れず。バランス重視です」
ダンは自嘲気味に笑う。
「そんな状態で半年過ぎた辺りでベルク宰相に呼ばれましてね。情報収集の手伝いをさせられました。ただ、その仕事もそれなりにそつなくやりましたけど。それでも事あるごとにベルク宰相から意見を求められました。聞かれたら答える。答えるから聞かれる。そんな繰り返しでしたね。数年経つと私はベルク宰相の懐刀と言われてました」
少しだけ遠い目をするダン。
「そんな時ですよ、部署の異動を命じられたのは。4月の新年度の異動のため違和感はありませんでしたがベルク宰相の意向だとすぐにわかりました。そして予想通り不正を見つけてしまう」
悲しそうな顔をするダン。
俺が女性なら抱きしめてしまうよ……。
「その結果、カイト皇太子から先程の提案をされたのです。しかしベルク宰相はこの不正がエクス帝国騎士団が絡んでいるのを知っていたのでしょう。是正はしたいが騎士団には上級貴族の御子息が多く在籍してますからね。しっかりとした証拠を掴まないと追及した側が火傷を負う事になる。それで白羽の矢が立ったのが私です。ついでに私の本気の力量を見極め、エクス帝国への忠誠心を試す算段ですね。私は人を試すのは好きですが、試されるのは大嫌いなんですよ」
さすがに穿った考えじゃないのか?
つい言葉を挟む。
「いやいや本当にそうかわからないじゃない?」
「間違い無いですね。あの古狸は私がカイト皇太子に取り込まれても二重スパイにするつもりだったと思います。二重スパイに適した人材は精神が図太く無いとダメですから。神経質な叔父には務まりません。その為わざわざ私の部署を変えたのでしょう」
ダンに言われるとそれが正解に感じてしまうな……。
「カイト皇太子とベルク宰相の権力の綱引きに少し辟易してきましてね。もうエルバト共和国に拠点を変えようかと思っていた時に、ザラス陛下がジョージ様を召喚すると耳に挟みました。それでエルバト共和国への土産の為に潜り込んだ次第です」
「なんで俺の情報を持ってエルバト共和国に行かなかったの? 俺の情報が土産にならなそうだったから?」
「あの会合の後、何度もジョージ様の会議室の様子を思い出しては1人で爆笑してました。大馬鹿がいるって。普通は誰だって長い物に巻かれるでしょう。次期皇帝陛下になるカイト皇太子の不興をわざわざ買うなんて大馬鹿だってね」
やっぱり俺を馬鹿にする話だったのか……。
エヴィーから魔法を教わってハゲの呪いをかけてやるからな。
そんな魔法があるかは知らんが。
「だけど思い出して笑うたびに、不思議と心が軽くなっていくんですよ。ジョージ様は大馬鹿かもしれないけど真の英雄なんじゃないかって次第に思うようになりましたね。そして自分が卑小な存在に感じられました。もしあの会議室のジョージ様の立場に自分が立ったらば間違いなく地下4階の調査を飲まされていたでしょう。まぁその後、何とか有耶無耶にはしますけどね」
「それなら一緒じゃん。やり方が違うだけでさ」
「自分の心に気が付きましたよ。私はジョージ様に憧れたんです。ジョージ様が私の立場ならどうするかって考えました。きっと自分の心の赴くままに行動するだろうなって。それで私もそうする事にしたのです。その結果、騎士団からは【金髪の悪魔】って言われるようになりましたけどね」
心の赴くまま行動して【金髪の悪魔】の異名をもらうなんて大概だよな。
あの泣く子も黙る騎士団のエリートであるギュンターさんがビビっていたもんな。
「叔父の現実を知って未来に希望を持つ事を止めました。エクス帝国では貴族と平民との間に超えられない壁があると思っていました。しかしジョージ様は違った。壁など全く感じさせずに簡単に飛び越えていきました。立身出世を諦め、適当に仕事をしていた私はジョージ様と出会い自分の心の赴くままに生きようと考えを改めました。そして念願叶ってジョージ様に直接雇っていただけました。今の状況でも満足なのに、まさか私がエクス帝国の伯爵になるなんて本当に笑えますよ。なりたくてもなれなかった貴族。しかし諦めたら伯爵になれるなんて意味がわかりません」
エクス帝国の文官だったら貴族じゃないと重要な職に付けないもんな。
そりゃ文官なら誰でも貴族になりたいだろう。
「まぁ既に伯爵位なんて興味は無いんですけどね。ジョージ様の部下の方が伯爵位よりも何倍も素晴らしいですから。でも本当にジョージ様と一緒にいると人生が面白くてしょうがないですね」
ダンは最高の笑顔を見せてくれた。
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