ダンの身の上話
ダンの唐突な質問だったが、さすがに覚えているよ。
「ザラス前皇帝陛下の暗殺を調べにロード王国に行った時だよね」
「それは違いますよ。もっと前に会っています。去年の4月25日ですね。ザラス前皇帝陛下からの召喚状をジョージ様の宿舎に届けたじゃないですか」
「え、あれダンだったの? うろ覚えだけど、雰囲気が違かったような……」
「あぁ、あの時は潜入する時と同じように変装しておりましたから」
「変装? なんで?」
「あの後、エクス城の会議室にジョージ様をお連れしたのですが、当時私はカイト皇太子に睨まれていましたからね。変装して私だと気づかれないようにしてました。会議室内に留まる為です。あの時、私は記録官として在席してましたよ」
それにしてもダンは潜入もできるのか……。こいつは何者だ?
「そうなんだ。でもわざわざ変装までして何で会議室に留まったの?」
「まぁ野次馬根性ですね。当時、エクス帝国政府の話題はジョージ様一色でしたよ。あの破壊の権化と称されるオーガを瞬殺し、連戦を可能としている。体内魔法の身体能力向上と体外魔法の攻撃魔法を併用し、スピード、コントロール、パワーと三拍子揃った稀有な魔導師。私の周囲では英雄誕生の兆しと言われていました。そしてその魔導師が平民出であり、吹き溜まりで有名なエクス帝国魔導団第三隊に所属しているというのだから注目されて当たり前です。どんな人物か見てみたいと思うのが自然ですよ」
「完全な珍獣扱いだな。それでどんな人物だと思ったの?」
「最初の印象は普通ですかね。まぁ魔導団第三隊の普通でしたけど」
「どういう意味だよ」
「皇帝陛下に会うのにボサボサの髪でしたからね。規律の厳しい騎士団では考えられません。やはり魔導団第三隊は規律が緩んでいるなって感じました」
「まぁ独身の魔導団第三隊の隊員はそんなもんでしょ。俺も例に漏れないよ」
当時を思い出しているのかダンの目が細くなる。
「ジョージ様はエクス城に向かう馬車の中では外をボーッと見ているし、城門を見て大きなため息もついてましたよ。英雄の匂いは欠片もしなかったですね」
「まぁ修練のダンジョンに入り始めて一ヶ月も経っていないもんね」
「私は人を見る目に自信があったのですよ。他人の凡その考えがわかります。そしてその後の発言や行動もほぼ当たります。あの時は修練のダンジョンの地下4階を調査するかどうかで話し合いが行われていました」
「あぁ、そうだったよね」
「カイト皇太子が調査をするべきと考え発言してましたよね。性格や力関係を考えて、私は地下4階の調査は確定事項と思っていたのです。それを覆したジョージ様を私はイカれていると思いました」
「それは言い過ぎじゃない?」
「次期皇帝陛下になられるカイト皇太子の意向に歯向かうんですよ。まともな神経じゃないです。それだけじゃない。カイト皇太子の面前でカイト皇太子の治世では忠誠を誓わないって宣言したのですよ。たかがエクス帝国魔導団第三隊の平隊員が次期皇帝陛下の皇太子に悪ぶれなく宣言しましたよね」
褒められている? 貶されている?
どっちかわからんわ。
「まぁ最悪魔導団を辞めるつもりだったからさ」
「それは後日サイファ魔導団長から聞きました。それでも無茶苦茶です。冷静を装っていましたけど、ベルク宰相が焦っていましたよ。あんなベルク宰相を見れるなんて笑いが止まりませんでしたよ」
その時のベルク宰相の顔を思い出したのか軽く笑うダン。
「それは気がつかなかったよ。でも何でダンはカイト皇太子に睨まれていたの?」
「ちょうど4月の配置転換で前の担当者の帳簿を確認していたんです。それで怪しい金の動きがありまして。調べようとしたらいきなりカイト皇太子から呼び出されたんですよ。まぁ世の中には知らない方が良い事や、見ないふりをする方が良い事もあるとね。前任者の仕事を引き継ぐか、見ないフリを強要されまして。そして前任者は私の父親の弟、叔父です」
うん。間違いなく面倒な事案だな。
俺は頷き、ダンの話を促す。
「片田舎で生まれ育った私に取って、平民でありながら帝都でエクス帝国の文官をしている叔父は小さい頃からの憧れでした。私も将来は叔父のように帝都で文官になろうと自然と思うようになります。しかし父親が頑として許してくれませんでした。エクス帝国高等学校に行かせてもらえませんでしたね」
「え? なんでそれでダンはエクス帝国の文官になってるの? 文官になる為にはエクス帝国高等学校を卒業してないとなれないよね?」
「通常はそうですね。父親もそう考えたのでしょう。しかし狭い道ですが文官になる方法があるのです。エクス帝国文官登用試験です。ただ合格者は全くと言って良いほどいません。試験が実施されない年がほとんどです。現在、エクス帝国文官登用試験を受ける人は皆無です。もはや廃れた制度です」
「えっとダンはその試験を受けて文官になったのか?」
「そうですね。でも文官に登用されて何故父親があんなに頑なに反対していたのかをすぐに理解してしまいましたよ」
あぁ、ダンが何を言うのかわかってしまう……。
エクス帝国軍は実力主義だが、エクス帝国の文官は違う。
「颯爽としていた叔父が、背中を丸めながら頭を下げまくる姿を嫌というほど見ました。上司だけじゃなく後輩にも頭を下げまくっていましたね。貴族と平民との間に歴然と存在する壁。現実はそんなもんでした……」
ジョージとダンが初めて会ったのは《第12話 胸に辞表があれば何でも言える》の回です。





