権威の源泉
ゆっくりとベルク宰相が語り出す。
「歴史上最強の魔導師が現れたのです。今までの常識は全て通じません。幸いにしてその魔導師はこのエクス帝国の帝都に根を張っており、愛国心がある善良な人物です。エクス帝国皇室にも敬意を払い、このエクス帝国の繁栄を願っております」
俺は何回常識が通じないと言われるんだろ? まるでお前は非常識と言われているように感じてきた。
そんな俺の気持ちを無視するようにベルク宰相の語りは続く。
「皇室の権威の源泉はいろいろとありますが突き詰めれば大きく二つになります。まずは軍事力です。身も蓋も無い話ですが腕っぷしが強くないとどうにもなりません。しかし先程説明したとおり腕っぷしではジョージ伯爵には敵わないでしょう。屈辱に感じる方も多数おられるでしょう。特に腕っぷしが重要なロード王国と隣り合っていた西の貴族はそうでしょう。しかしまずは辛いですが現実を直視する事です。現実を直視できない者に政治を語る資格は無い」
政治の世界で長い間帝国の舵取りをしていたベルク宰相の言葉は重かった。
「それでは権威の源泉である力で劣っている場合、どうやって権威を保つのか。もう一つの権威の源泉である皇統が重要になります。このエクス帝国を率いてきた長い歴史。今まで紡いできた多くの歴代皇帝の治世が権威の源泉です。これはいくらジョージ伯爵でもエクス帝国皇室には敵うはずがありません」
そりゃそうだ。俺は平民出だからな。自慢じゃ無いが育ちは悪い。
「しかしながら現在エクス帝国皇室は歴史上例の無い圧倒的な戦闘力を持つ人物と常に対峙しなくてはいけません。エクス帝国皇室の武器は皇統です。その矜持を胸に対峙していくしかないのです。気を抜けば謙りたくなるでしょう。逃げ出したくなる時もあるはずです。しかしエクス帝国皇室は決して膝を屈せず、胸を張り、大きな度量を示す。直接的な力ではなく、心の強さで対峙する。それが我々が考えるジョージ伯爵対策です」
ベルク宰相の語りに大きな声をあげるコールド・バラス。
「詭弁だ! そんな弱腰だからジョージ伯爵は増長するんだ! 聞けばジョージ伯爵はアリス陛下への忠誠を捧げる事を拒否したそうじゃないか。このような皇室を軽んずる行為は臣下にあるまじき行為だ!」
芝居がかった話し方をするコールド・バラスだったが、ここに至ってより大袈裟になってきた。
「貴公のような何の力も無い者と英雄を比べるな。大きな力を持つ者は社会に対して大きな責任を持つ。ジョージ伯爵の選択で生死が変わる者が出てくるんだ。ジョージ伯爵の選択は社会への影響が半端ではない。だからこそ慎重に慎重の上、ジョージ伯爵は決断をしているんだ。貴公の物差しで英雄を語るな」
えっ、そうだったんだ……。それは自分でもわからなかったよ……。
でも確かに俺の選択の影響は大きいだろうな。
ベルク宰相に言われた理解したよ。だから心が疲れるのか……。
そんな選択ばかりしていたら間違いなくハゲるわ。今後もダンに任せていこう。
「何を言ってもエバンビーク公爵家がグラコート伯爵家を使ってエクス帝国皇室の弱体化を狙っているようにしか思えん! 政府の中枢である宰相とアリス陛下の夫である王配がエバンビーク公爵家ではないか! アリス陛下を傀儡にするつもりだろう!」
「全く何を考えているのですか……。アリス陛下の基盤を固めないといけない時に、見当違いの権力争いをするつもりですか。ただ単に貴公がアリス陛下に選ばれなかっただけだ。自分の男性としての魅力の無さを省みなさい。逆恨みも甚だしい」
「な、」
綺麗なカウンターパンチが入ったな。コールド・バラスが言葉に詰まったよ。
それに引き換えベルク宰相の弁舌は立板に水だな。
ベルク宰相の言葉は澱まない。すぐに次の言葉が紡がれていく。
「しかしながら我が甥であるバラフィー・エバンビークが王配になると確かに権力バランスが悪いのは理解している。この後の祝宴の最後に発表をするつもりだったが大差はない。貴公を安心させるとしようか」
ベルク宰相は一旦言葉を切り、横に置いてある水を一口飲んだ。
ベルク宰相は覚悟を決めたような顔する。
そしてゆっくりと口を開いた。
「本日を持って、このベルクは宰相の職を辞する予定だ。この陞爵の儀、そしてこの後のアリス皇帝陛下戴冠の祝宴が最後の宰相としての仕事になる。今、この場に参列されている方々には長い間支えてくださり誠に感謝申し上げる。今後はアリス皇帝陛下を皆で支えていってくれ」
コールド・バラスと参列者が呆然とした顔になった。
当然、俺も唖然としてしまった。
「これで文句はあるまい。それではアリス陛下、よろしくお願いします」
ベルク宰相の声に反応するアリス陛下。
「それではジョージ・グラコートの功に対し侯爵を陞爵をする事に異議がある方は発言を許します」
今度は誰からも声は上がらなかった。
アリス陛下とベルク宰相を除く全員が、俺の陞爵の件など、もうどうでも良いほど衝撃を受けていた。
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