救いようの無い馬鹿=英雄
日が落ちて修練のダンジョンから帰還するとダンから報告があると告げられた。
ダンの真剣な顔に少し嫌な予感が走る。
俺とスミレはダンの執務室に移動し、報告を受けることにした。
「先程、コールド・バラスとフレイヤ・ノースコートの婚約の話が進んでいると私の情報網にひっかかりました。婚約の発表はザラス陛下の喪が明けた4月1日予定。アリス皇女殿下の戴冠式に合わせてやる予定と」
コールド・バラスとフレイヤ・ノースコートが婚約!?
スミレの妹であるフレイヤ・ノースコート。腐りきっている汚泥みたいな魔力が特徴的だ。
そして俺が生理的に受け付けないコールド・バラス。
「あれ? コールド・バラスはあの10歳公爵のジャイル・バラスの補佐でしょ? 当然この帝都にいないとダメだよね。でもフレイヤはエクス帝国高等学校を卒業後、侵略戦争反対派の家に嫁ぐか、ノースコート侯爵家の領地に帰るはずなんじゃなかったっけ?」
「ジョージ、違うわ。確かにあの時そんな提案もあったけど、結局フレイヤの処罰は凍結されたの。表向きは何も無かったことになっているわ。ベルク宰相がフレイヤの罪を認める書類を父から受け取ったのよね」
あぁそうだったわ。スミレとの結婚式が間近に迫っていてバタバタしていたから記憶違いをしていたか。
「それでこの件がどういう影響が生じるの?」
「タイル・バラス前公爵は侵略戦争については推進派にも反対派にも与しませんでした。上手く立ち回り金儲けだけを考えておりましたから。しかし年明けの追放劇で明確になった立ち位置があります。それが反ジョージ様です」
逆恨みだとしてもそうだよね……。
「ジョージ様は侵略戦争反対派であり、アリス皇女派でしょう。タイル前公爵としては侵略戦争推進派と元皇太子であるカイル・ハイドース侯爵に協力していくと思われます」
まぁそうだね。
「コールド・バラスはドットバン伯爵の三男でアリス皇女と結婚させる為にバラス公爵家に養子で迎え入れられました。そしてドットバン伯爵家は強烈な侵略戦争推進派ですね。この度アリス皇女とバラフィー・エバンビークとの婚約が成立しております。それによりコールド・バラスの役割りが宙に浮いておりました」
「あれ? コールドは10歳公爵の補佐になったんじゃないの?」
「あれはあくまでも表向きの形です。実権は未だにタイル前公爵が握っているでしょう」
「そうなの? それはグラコート伯爵家とバラス公爵家が結んだ協定書に反しない?」
ダンが協定書を取り出して目の前のテーブルに広げる
①タイル公爵はバラス家の当主を降りる。
②タイル公爵は領地にて蟄居する。
③タイル公爵はバラス家の事業から完全に手を引く。
④次期バラス公爵家当主はグラコート伯爵家に対して詫び状を書く。
⑤バラス公爵家からグラコート伯爵家に50億バルトの謝罪金を支払う。
⑥オリビア・バラスを早急にバラス公爵家から離籍させる。
⑦バラス公爵家は今後一切ポーラとオリビアに関与しない。
⑧次期バラス公爵当主とジョージ・グラコート伯爵が、エクス帝国政府の前で友好を確認する。
「協定書で結んだタイル前公爵についての項目は①から③です。①と②で重要な点はタイル前公爵がバラス公爵家から追放されない事なんです。そして③ではあくまで事業限定にしています。つまりタイル前公爵は当主の座を降り、バラス公爵領に居て、バラス公爵家の事業に関わらなければ何をしても問題はありません」
「それじゃタイル前公爵が現在でもバラス公爵家の実権を握って何か画策しても問題無いってこと?」
「そうですね。そして⑧の項目も次期バラス公爵家当主になっています。ジャイル・バラス公爵とジョージ様が友好を確認しただけです。タイル前公爵とは友好を確認しておりません」
「随分と穴だらけの協定だったんだね」
「あの時の状況においてはある意味しょうがありません。文面の一つ一つにベルク宰相の苦労が感じられますから。こちらとしてはポーラとオリビアの安全を第一に考えて交渉しましたからね」
「そうだったね。この協定書でポーラとオリビアがタイル前公爵から完全に解放されたんだから意味があったよ」
「話を戻しますが、タイル前公爵はさすがですね。アリス皇女の王配になれなかったコールド・バラスを最大限に利用する方法としてスミレ様の妹であるフレイヤ・ノースコートと婚姻させるとは」
「嫌な雰囲気は感じるんだ。実際にその婚姻にはどういう意味があるのかな?」
「スミレ様のご実家のノースコート侯爵家は現在侵略戦争推進派です。しかしジョージ様とスミレ様の婚姻があり、その色が少し薄まっております。スミレ様が嫁いだこのグラコート伯爵家は侵略戦争反対派ですから。しかし強烈な戦争推進派であるドットバン伯爵家の三男であったコールド・バラスとノースコート侯爵家令嬢のフレイヤが婚姻する事で、ノースコート侯爵家の立ち位置が大きく侵略戦争推進派に動く事になります」
「結局、タイル前公爵は何がしたいの?」
「ジョージ様の味方や味方になりそうな勢力の引き剥がしですね。ノースコート侯爵家は侵略戦争推進派とはいえ、スミレ様のご実家ですから。間違いなくグラコート伯爵家に近い存在です」
「ふーん。まぁ何とかなるのかな?」
「ジョージ様が本気を出せば何とでもなりますよ。ただエクス帝国の皇統は途絶える可能性が高いですけど」
「それはさすがに嫌だよ」
「まぁ出来得る限り画策してみます。ただ事は政局絡みですから平民の私にはできる事も限られてきますが」
「そうなの? ダンならそんなの関係無いと思っていたよ」
「ある程度、裏では画策はできますが、表立っての策が使えません。まぁ貴族でも上級貴族じゃなきゃあまり意味がありませんけど」
「それならダンも上級貴族になる?」
「へっ?」
ダンの驚いた顔を拝めたよ。「へっ?」だって。これは良いものを見れたな。
「もしかして……。本気ですかジョージ様?」
「本気も本気さ。俺が持っている爵位は伯爵一つと魔導爵一つ。そして今度侯爵の爵位をもらう。ちょうど上級貴族の爵位が一つ空くじゃん」
「普通は味方に取り入れたい人物や子供の為に爵位を譲るのですよ? 私は既にジョージ様の最大の味方です。どう考えても爵位の無駄遣いですよ」
「何を言っているの? どう考えてもこの選択しかないでしょ。俺はね、ダンを使い捲るつもりなの。だからダンにはその能力を最大限に発揮できるようにしないとね」
「本当にジョージ様はバカで救いようがないですね。そして本当に私に取って英雄ですよ……。ありがとうございます。そのジョージ様の期待に全身全霊で応えさせていただきます。決して爵位の無駄には致しません」
こちらの心が震えるほどのダンの決意表明だった。
これは良い判断だったな。今晩はスミレに褒めてもらわないとな。
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