変わるもの、変えなきゃいけないもの、そして変わらないもの
修練のダンジョンに向かう道中、スミレが話しかけてきた。
「素敵な演説だったわよ」
「いや、やり過ぎたような気もするけど。流石に俺の為だけに存在しろは世迷いごとでしょ。自分で自分の発言にドン引きしたよ」
「あら、そんな事ないわ。私は既にジョージの為だけに存在しているのだけど。それに皆んなはジョージの直属の親衛隊なのよ。貴方の生命を守る為なら自分の生命を惜しまない存在なの」
「そう言われればそうだけど……。途中から自分の演説に酔ってね。なんであんな発言になったんだろ?」
「地位が人を作るというけど、ジョージが少しずつ今の地位に馴染んできたんじゃないかしら」
「どういう事?」
スミレは俺の疑問に子供に諭すような優しい声で返答する。
「地位はその地位になった人の考えや行動を縛るの。ジョージはエクス帝国の伯爵、上級貴族ね。周囲はジョージに対して上級貴族の考えや行ないを求める。人は誰しも他人から嫌われたくないわ。どうしても無意識で他人の期待に応えようとするでしょ。そして自分で考えるようになるの。自分は上級貴族だ。上級貴族だったらどのように考え、どういう行動をするかってね。気がつくと地位に自分の考えや行動が縛られていくのよ。方向付けられるとも言えるわね。地位に馴染んできたっていうけど、それは考え方や行動が自然にその地位の思考や行動になったって事ね」
「それって俺が上級貴族の当主に染まってきたってこと? それなら最終的にあのタイル前公爵みたいになるってこと? それは嫌だよ」
「そうじゃないわ。変わるものもあるけど、絶対変わらないものがあるでしょ。人それぞれよ。だけど変えなきゃいけないものもあるのよ」
変えなきゃいけないものねぇ……。それはやっぱり……。
「専任侍女の話?」
「そうよ。何度も言うけどグラコート伯爵家としてジョージの性欲管理はとても重要なの。グラコート伯爵家だけじゃないわ。私とジョージとの関係でも重要なの」
「わかっているよ……。でも俺が変わる事でスミレとの関係が壊れるのが怖いんだ」
「そうね。確かに怖いわよね。でもジョージは伯爵家当主として皆んなを率いていく必要があるの。それで変わってきたのが先程の演説よ。そして変わらなきゃいけないのが専任侍女での性的な処理。数ヶ月くらいの短い期間なら我慢するのは問題ないわ。でも数年単位の長い期間だと我慢は必ず歪みが生じてしまう」
無理は続かない。確かに真理だよな。
「でもね。上級貴族の伯爵家当主としての地位でも決してジョージが変わらないものがあるの。そして私はその変わらないものに惹かれて結婚したわ。だから安心して良いのよ」
「変わらないもの?」
スミレは少し芝居がかった声色に変えた。
「貴女を好きになりました。貴女を俺が幸せにしたいです。いや、何があろうと幸せにしてみせます。オーガだろうがドラゴンだろうがサイクロプスだろうが貴女のためなら倒してみせます。どうか俺と温かい家庭を作って欲しい。そして一緒に人生を歩んで欲しい。どうかこの想いを受け止めてくれませんか」
俺のプロポーズの言葉だ。
「この言葉一句一句が私の大切な宝物。そしてジョージはこれまでこの言葉を違えた事は無いし、今後も無いと確信している。それがジョージの変わらないところよ」
スミレの言葉が俺の心に沁みていくのがわかった。専任侍女の取り扱いについて変わらなきゃいけないのは理解している。それでも変わりたく無い自分も確かに存在していた。
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