大船?or泥舟?
俺の話をダンは頷きながらゆっくりと聞いてくれた。
「なるほど、それは困りましたね」
「そうなんだよ。何で奥さんから他の女性と性的な関係を頼まれるんだよ。上級貴族の常識はどうなっているの?」
「いやいや、そうじゃないですよ。困っているのはジョージ様の考え方ですね」
「え、俺が悪いの?」
「まぁそうですよね。スミレ様はとても聡明であります。とても合理的でスマートな考え方です。そしてとてもジョージ様を愛しておられるのがわかります」
「どんな理屈やねん! どうなると俺がスミレから愛されているって話になるの!」
「前にも説明しましたが、上級貴族の専任侍女についてです。専任侍女に性的処理させる行為は普通の事なんですよ。そこに愛情があっても無くてもどうでも良い事なんです。そしてスミレ様はそれを当たり前だと思っております」
「それは前にも聞いたよ。でも俺には受け入れ難い考えなんだよね」
「ですからその考えが困り事なんですよ。スミレ様はエルフの里の遠征で我慢に我慢を重ねたジョージ様を見ております。失礼ながら性獣になったジョージ様は何をしましたか? 帝都の関所破りをしたのですよ。これは醜聞以外の何物でもありません。その後、その性欲をスミレ様は一身に受けております。時間にして3月23日の午後に帰還してから25日の朝までです。はっきり言って異常ですよ」
はっきり言い過ぎだよ……。
「そのようなジョージ様を見ていればジョージ様の性欲を自分1人で受け止めるのが無理だと思うのが普通です。スミレ様のお願いは、ポーラの身の上を考えてもおりますが、ひとえにジョージ様の性欲管理を考えた結果です」
「スミレだって喜んでくれていたよ……。俺は決して独りよがりの性行為はしてないと思うんだけど……」
「それは流石に私でもわかりませんよ。でもジョージ様はスミレ様とのお子さんを望むのですよね?」
あぁ、これはスミレにも言われたな……。
「それならやはり今のうちに慣れておく事です。まさか妊婦になったスミレさんにジョージ様の性欲の全てを受け止めさせるつもりですか? 胎児に間違いなく障りますよ」
「でも……、でもさ……」
「理解はしていても受け入れられないですか……。何かおかしいですね? 何か私に隠していませんか?」
「ポーラを専任侍女にする時に自分に誓ったんだ。例えスミレが悲しまなくてもポーラで性的処理はしないって……」
「なんでそんな考えを持ったか教えていただけます?」
「年末に男性だけで飲んだじゃん。その時の浮気の定義の話を覚えている?」
「あぁ、確かにしましたね。カタスさんが女性と2人で食事、ライバーさんが本人が浮気と思ったら、私が法律の定義で決まるって」
「それで俺はライバーさんの定義がそうなんじゃ無いかって思ったんだよ。あれは自分の心と向き合って決めるって事だよね。自分が浮気と思えば浮気、思わなければ浮気じゃない」
「なるほど、思考の流れを理解しました。その結果、専任侍女で性的な処理をする事はジョージ様の中で浮気でありスミレ様への裏切りなんですね。そしてそれをしないと自分に誓ったと」
「全く持ってその通り。そのせいで思考が雁字搦めなんだよ。それはわかっているんだけど、俺は俺に誓ったんだよね」
「これは重症ですね。グラコート伯爵家として何とかしないといけない事案です」
「流石にそこまでじゃないでしょ。ダンは大袈裟過ぎるよ」
「当主の下半身をコントロールするのは大切な事なんですよ。コントロールが不能になると悲劇が生じます。だいたいは当主があちこちに女性を作って問題になるのですが、自制して問題になるとは珍しいケースです。自分で自分を縛っているジョージさんは長い目で見れば無理が溜まります。それが精神的に悪いのですよ。スミレ様はジョージ様のありのままの状態でも心から愛してくれますよ。無理をしていてはスミレ様も悲しみます」
「そう言われてもどうしようも無いよ」
「わかりました。早急に対策を練ります。まずはリハビリですね。大丈夫です。私に任せておいてください」
いつもは大船に乗った気分になるダンの言葉が、今の俺には泥舟に乗った気になったのは気のせいなんだろうか……。
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