ダンの感情スイッチ
ジェシカが帰ったあとにダンに真意を確認する。
「どうしたのさ急に。それに本当に8月にエルバト共和国に行くの? それもドラゴンの魔石を4,000個用意してさ?」
「すいません……。あんな小娘がジョージ様を侮るのが許せなくなりました」
「あ、やっぱり侮っていたよね。ジェシカからそんな感じは受けたよ」
ダンが感情を露わにし、ジェシカの口調を真似だした。
「8,000個なんて本当に用意ができるの? 無理しているんじゃない? 時間に余裕がないでしょ? 往復で二ヶ月かかるエルバト共和国には来れないでしょ。こんな感じですね」
「結構似ているね。それにしてもなかなか煽っている内容だったんだね。まぁダンの俺に事に対する反応は理解しているから大丈夫だよ。すぐにドラゴンの魔石を用意するよ」
「すいません。問題無い数字ではありますが、ご迷惑をおかけします」
「迷惑じゃないよ。ダンは俺が馬鹿にされたり、侮られたりするのが許せないんだろ? それなら俺はその気持ちに全力で応えるよ。昨日計算したペースだとどうなるの?」
「ジョージ様……。ちょっとキザな台詞ですね。でも嬉しくて堪りません。昨日計算したペースだと1日112個です。その内9個はエクス帝国に納品しますのでエルバト共和国用は1日103個です。およそ1日100個計算ですと週2日休むと月に2,000個です。二ヶ月あれば4,000個になります」
ポンポンと計算するダンには本当に感心するよ。
「えっと、エルバト共和国には一ヶ月くらいかかるんだよね? 8月頭に着くとしたら7月の頭には出発しないとね。それなら4月から6月の三ヶ月間がドラゴンの魔石を用意する期間か。せっかくだから半量じゃなくて8,000個の全量用意しようよ。ジェシカの度肝を抜くためにはそれくらい必要でしょ?」
「三ヶ月で8,000個とすると一ヶ月当たり2666個です。週に2日休むと1日あたり133個。エクス帝国に9個納品するとなると142個必要です」
「うん、それくらい何とかなりそうだよね。スミレにも手伝ってもらえばさ。それに週に2日休む必要もないでしょ。俺はやる時はやる男だよ」
「ありがとうございます、ジョージ様……」
泣きそうになっているダン。色男はどんな顔でも様になるな。
「それよりダンは8月のエルバト共和国に行く用意をお願いね。スミレとの新婚旅行にするよ。あとダンジョンに篭るようになるから細々した案件は全て任せるよ」
「当たり前です。お任せください」
これで面倒ごとはダンに一任できたね。俺はドラゴン殺戮者になるだけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
明日からドラゴン殺戮者になる予定の為、1日早いがダンを連れてベルク宰相に先日の返事をしに行く。
ベルク宰相は4日後に迫ったアリス皇女の戴冠式の用意で忙しくしていた。
それでもすぐに時間を作ってくれる。
「お待たせしましてすいません。先日の返事ですよね」
「えっとそうですね……」
言い淀む俺にダンが助け舟を出してくれた。
「それについては私が説明させていただきます。侯爵への陞爵については謹んでお受けさせていただきます。しかしアリス皇女への忠誠については時期早々と判断いたしました。これがグラコート伯爵家の総意です」
「まぁそうでしょうね。それで問題はありません。それでは忙しいのでこれで失礼致します」
あっさりとした言葉を残して部屋を出ていくベルク宰相。
あら、素っ気ない……。
「ダン、ベルク宰相は怒っていたのかな?」
「違いますね。本当に忙しいんですよ。こちらの返事の内容は予定通りだったため、考える必要が無かったのです。あれは脳をフル活用している時のベルク宰相ですね」
「そうなの? 嫌われたのかと思ったよ」
「今の状況でベルク宰相が必要以上にグラコート伯爵家にへりぐたるようにしてはダメなんです。アリス皇女は弱腰と叩かれますよ。ベルク宰相はいろいろとやっていると思いますが、どうしても抑えきれない勢力もありますから」
「カイト元皇太子とか?」
「そうですね。まずは東と北の国々の平定がどうなるか。それによっていろいろと状況が変わりそうです」
「実際どうなるの?」
「こればかりは不確定要素が多すぎて予測不可能です。ただ、どうなろうとグラコート伯爵家は安泰ですから安心してください」
権力闘争には距離を取りたいからダンに任せよう。ベルク宰相の体調だけは気になった。
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