商取引の基本のキ
3月27日【赤の日】
今日はエルバト共和国外交使節団代表のラバル・スウィットと会う予定だ。
ラバル・スウィットさんはなかなかやり手の雰囲気があるんだよね。もうダンに任せちゃおう。
新邸宅の客室でラバル・スウィットが迎える事にした。エルバト共和国側はラバル・スウィットと若い女性を2人だった。
その若い女性2人を見た時に、「またか……」と思ってしまう。それほどまでに綺麗な美人さん2人だったから……。
「これはジョージさん、ご無沙汰しております。昨年は本当に失礼いたしました。ジョージさんから指摘されたようにエクス帝国政府よりジョージさんとの交渉の許可を得てきました。本日はよろしくお願いします」
客室に入るなり如才なく右手を差し出してくるラバルさん。俺は警戒心を解く事なくその右手を握った。
「こちらこそ本日はどうぞよろしくお願いします。家内のスミレより報告を受けております。まずは座ってから話し合いましょう」
俺はラバルさんと女性二人を来客ソファに誘導する。
真ん中にラバルさん、両脇に女性が座った。俺はラバルさんの正面に座り、右隣にダンが座った。
「それではまずは自己紹介からいきましょう。私がジョージ・グラコートです。隣に座っておる男性がグラコート伯爵家に仕えるダンと申します。ダンにはこのドラゴンの魔石に関する一切合切を任せるつもりです」
「ほほぉ……。一切合切ですか。それはなかなか剛気な判断ですな。これだけ巨額の取り引きを部下に全て任せるなんて」
「巨額だから一切合切ダンに任せるんですよ。私の判断が正しいのはすぐにわかると思いますよ」
「なるほど、それは手強そうですね……。それでは改めてこちら側の自己紹介をさせていただきます。私がエルバト共和国外交使節団代表のラバル・スウィットと申します。私の右側に座るのがミランダ・バース。我が国の最高の魔術師です。そして左側に座るのがジェシカ・バース。優秀なエルバト共和国の文官になります」
あら? どちらの女性も美人過ぎるから、エルバト共和国の【魅惑の蜜】と早合点してしまったよ……。
どちらもバース姓か。姉妹か何かなのか?
「ミランダ・バースだ。ジョージ・グラコート伯爵の噂はエルバト共和国にも流れてきている。早速手合わせをお願いする」
うん? ちょっとヤバい方なのか?
「ちょっとミランダやめなさい。これは失礼いたしました。ジェシカ・バースと申します。姉は少々おかしいところがございまして……」
「おかしくないだろ! 凄い魔術師がいるのならばその能力を実際に確かめないといかん! もう噂だけの英雄なぞ御免被る!」
よくわからんがミランダ・バースがこの会合に邪魔なのはわかった。
「どうやらドラゴンの魔石の交渉にミランダさんは興味が無いみたいですね。よろしければ別室を用意しますから、そちらでゆっくりなされた方がよろしくないでしょうか?」
俺の言葉を受けてラバルさんが頭を下げる。
「誠に申し訳ございません。ジョージさんのご厚意に甘えさせていただきます。ミランダ、この交渉が終わるまで退室してもらえますか? 終了次第お知らせしますから」
「まぁ商取引など興味が無いからそうするか。でも逃げるなよ」
俺に逃げるなと言って颯爽と客室を出て行ったミランダ。
なんなんだあの姉ちゃん?
ヤバいのだけは理解したよ……。
「誠にすいません。後ほど改めてミランダについては説明と謝罪をさせていただきます。それではよろしければ本題に入りたいのですがよろしいでしょうか?」
ラバルさんはあっさりと体勢を立て直すな。
まぁ早く終わらせるのが良いよね。
「問題ありません。時間は有限ですからね。エルバト共和国からの提案は聞いております。その提案を受けてこちら側の希望は割り合いの契約ではなく、実数での契約にして欲しいと思います」
「実数というと年間何個って感じですか……。ちなみに何個ほど売っていただけるのでしょうか?」
「年間8,000個ですね」
「はっ! 8,000個ですか? 800個じゃなく?」
おぉ! 驚いている驚いている。愉快愉快!
俺はルードさん直伝の平静の表情を装う。
「8,000個ですね。何か問題がありますか?」
「いや……、しかし……、失礼だが、本当にそれは可能なのですか?」
ラバルさんの問いに答えたのはダンだった。
「可能です。そしてこの8,000個という量が我がグラコート伯爵家のエルバト共和国への敬意です」
「そうですか……。これはちょっと参りましたね。恥ずかしい事に明らかに私の裁量枠を超えています。一度本国に持ち帰る必要があるかもしれません」
打ちひしがれているラバルさん。これは少し可哀想だな……。
「その必要はありません。ラバル、このまま取り引きを続けます。本国の了承を得るために時間を浪費すれば相手方の心変わりがあるかもしれません。千載一遇の機会を逃してどうするんですか」
横からジェシカ・バースが口を挟んできた。なんじゃこの姉ちゃんがこの交渉の本丸なのか?
俺の疑念にあっさりと解答を口にするダン。
「さすがエルバト共和国政府のジェシカ大臣ですね。本当に優秀な文官で安心いたしました。それでは交渉を続けましょう。こちらとしては年間8,000個のドラゴンの魔石を用意いたします。価格は1,200億バルト相当の金でどうでしょうか?」
ダンが1,200億バルトって言ってる……。さすがに震える金額だよ。
「その価格ですと1つ当たり1,500万バルトになります。さすがに無理筋ですね。こちらが提示した五割の時のドラゴンの魔石の単価は1つ当たり1,000万バルトです。こちらが出せる限界は800億バルトですね」
簡単に計算して冷静に返すジェシカ。本当にこの姉ちゃんがエルバト共和国の大臣なのか?
「こちらとしては年間8,000個の敬意をもう少し考えて欲しいですね。敬意には敬意を。商取引の基本ではありませんか? 敬意が払えない相手とは取り引きができませんね」
暗に俺がエルバト共和国に軸足を移すんだと誤解させる言い方だよな……。
まぁ実際に移すかもしれないけど。
おまけに敬意が感じられない場合は交渉を打ち切るって言ってるよ……。
ダンの言葉に顎に手を当て考え込むジェシカ。数十秒後、ゆっくりと口を開く。
「腹の探り合いのやり過ぎはお互いを不幸にする。これも商取引の基本です。了解いたしました。年間8,000個のドラゴンの魔石に1,000億バルト相当の金で購入させていただきます。その他にこちらの敬意としては、エルバト共和国への輸送はこちら持ちにします。またジョージ・グラコート伯爵に対してエルバト共和国の首都にこちらの邸宅と同じ広さの邸宅をご用意させていただきます。その他にはエルバト共和国の避暑地にも邸宅をご用意いたします」
邸宅!? それのどこが敬意?
「素晴らしい敬意をありがとうございます。この取り引きがエルバト共和国とグラコート伯爵家の栄光に繋がると確信いたしました。それでは別室にて細部を詰めて契約書を作成いたしましょう」
俺にはにこやかに笑うダンがやり手の詐欺師にしか見えなかった……。
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