突き詰めた先には……
3月26日【緑の日】
朝起きると既に瞑想をしているスミレ。本当に毎日毎日偉いよ。
継続は力なりか。それを目の前で見せつけられているわ。このような積み重ねが大切なんだろうな。
昨晩のスミレの魔力循環は凄かった……。
あれはエヴィーから感じる魔力より遥かに上だ。
明らかにスミレが立っているステージが上がっている。
エルフの里に行く前と比べると別人だよ。
負けてられないな。
俺は布団を蹴飛ばし、庭に飛び出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
庭に出ると茜師匠がダンとオリビアに剣術の指導をおこなっていた。
「おはよう! みんな早いね!」
俺を言葉にいち早く反応するダン。
「おはようございます、ジョージ様。今年からエクス帝国剣術大会はグラコート家誕生祭に組み込まれる事が正式に決定しました。記念すべき第一回大会になりますから是が非でもグラコート家臣団から優勝者を出さないといけません」
あ、そういえば俺の誕生日の11月26日からスミレの誕生日の12月1日までの1週間に誕生祭をやるんだったな。
「私とオリビアは優勝を目指している。どうだ? ジョージ様も剣術大会に出るか?」
茜師匠の軽く挑発する態度を俺は軽く受け流す。
「いや、俺は魔術師だから遠慮しておくよ。俺の剣術の鍛錬はスミレに勝つ事だけが目的だからね。純粋で浄らかな目的に邪念が入っちゃダメだよ」
「……それは邪念そのものじゃないか? そんなにスミレ様を裸に剥きたいのか?」
オリビアとダンが不審な顔をしている……。
これは誤魔化しきれないな。まぁ少し恥ずかしいがオリビアもダンも俺にとって身内だから良いか。
俺はスミレとおこなった脱衣模擬戦を説明した。
呆れた顔のオリビアに対して、ダンが真剣な顔で考えている。
「なるほど、ジョージ様の強さの源泉が良くわかりました。欲望に忠実、そして純粋です。英雄になる資質の一つかもしれませんね」
「さすがにそんな大層なものじゃないだろ? 頭の中がエロいだけのただの陰獣だろ」
「オリビア、まだ貴女はジョージ様の偉大さを理解できていないようですね。やはり再教育が必要ですか」
ダンの目がヤバい!
「いや、俺はキツい修練にも楽しみを取り入れたくてね。脱衣模擬戦は修練を楽しく真剣に続ける一つの方法だよ。そんなに深く考えているわけじゃないからさ」
ピリピリした空気を何とか誤魔化して俺は剣術の修練を始める。
するとすぐに茜師匠が寄ってきた。
「見違えたな、一体どうした? 身体の動きがすごく滑らかで無駄がない」
俺の形稽古を見て茜師匠が感嘆の声を上げた。
そうだろ、そうだろ、もっと褒めろ!
ヒャッハー領域で目覚めた精微な魔力循環による身体能力向上。今は完全に物にしたよ。
「どうです、茜師匠? これで俺も剣術を教えていただけるでしょうか?」
「問題ないな。これだけ体内魔法の身体能力向上を制御できているのだから。それにしても規格外の身体能力向上だな……。これで龍闘流剣術を覚えたらどこまで強くなるのか想像もできん」
ダンが茜師匠の俺の評価を聞いて鼻息を荒くしている。
さすがの美男子もそこまで鼻の穴を広げると形無しだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まずはこの足捌きを覚えようか」
茜師匠が袴をたくし上げる。
朝日を浴びた健康的な白いふくらはぎが目に入り眩しい。
普段は見えないものが見えただけで感じる幸福感。
たかがふくらはぎ、されどふくらはぎ。
今日からふくらはぎ党に鞍替えしようかな?
そんな俺の妄想をよそに足捌きを実演する茜師匠。
おぉ! なんだこの滑らかさ! あまりにも滑らか過ぎて気持ち悪く感じる。
「まぁこんな感じだな。やってみるか?」
俺は早速茜師匠の動きを真似てみるが、ぎこちない。
「始動は地面を蹴るんじゃない。脱力なんだよ。地面に倒れるような感覚だな。その後は重心の動きを意識して、継ぎ接ぎにならないように動いていく。まずは重心を意識しようか」
茜師匠は俺に近寄り臍の下辺りを人差し指で突く。
「ここが身体の重心になる。重心は身体があらゆる方向に自由に回転できる点になる。身体の中心点だ」
茜師匠の人差し指が胸の真ん中辺りに移動した。
「ここが上半身の重心だ。両腕を動かす時に意識する場所だ」
次に茜師匠の人差し指が俺の太ももの中間より少し上を触る。
「ここが下半身の重心。上半身の重心と下半身の重心の中間が身体の重心になる。重心を意識して身体を動かすんだ。重心を移動させれば他は勝手についてくる。無駄無く重心を移動させるのが龍闘流剣術の真髄だ」
そう言って茜師匠は足捌きを再開する。
水のように流れる動きは重心の動きを突き詰めた先の結果か。
なるほど、長い時をかけ突き詰めた物には何であれ美が宿る。
俺は気持ち悪く感じていた茜師匠の足捌きにいつしか見惚れていた。
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