躾の方法
転居が急ピッチで進むグラコート伯爵邸で俺はダンと先程の話の続きを始めた。
「それじゃ侯爵の陞爵は受けて良いんだね」
「これは受けてください。さすがにそれを拒否すればエクス帝国政府の面目が丸潰れになります。それはアリス皇女の戴冠式に冷水を浴びせまくる行為ですから」
うーん。アリス皇女への忠誠は保留して大丈夫だけど、侯爵の陞爵は受けないとダメなのか。
確かに絶妙な舵取りだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食を食べた後に再度ダンと自室にて話し合う。
そしてエルバト共和国の使節団の話を聞く。
さすがに唸ってしまったわ。
エルバト共和国はグラコート伯爵家と直接取り引きを希望し、エクス帝国政府はその取り引きに関知しない。
なんかベルク宰相に見捨てられたような気がしたが、ダンからそれは違うと説明された。
共和制と専制君主制ねぇ……。そんなの考えた事もないわ。
エルバト共和国使節団の代表はラバル・スウィット。去年の11月に商人と偽って俺と面会した男性か。
いくらなんでもグラコート伯爵家が入手したドラゴンの魔石の総量の五割を買いたいってのは無理だよな。
交渉事だから最初はふっかけているのか? その後、細かい数値を出してきたみたいだし。
エルバト共和国が提示した取り引き条件は総量の五割の取り引きで一つ当たり1000万バルト相当の金、四割で800万バルト、三割で600万バルト、二割で400万バルト。そして取り引き量の最低ラインは二割で、これは譲れない。
取り引き量が増えると買い取り価格が高くなるのが面白い。普通は大量購入で安くなるもんな。
ダンの説明ではエルバト共和国と取り引きをしない場合は2年以内で80%以上の確率でエルバト共和国と戦争になると言われた。
ダンにそんな事を言われたら、さすがにそれは選択できんわ。
二割の取り引き量はエクス帝国寄り、三割がエルバト共和国寄り。
この二つの割り合いを選択すればエクス帝国もエルバト共和国も少し不満を感じるが開戦する可能性は低くなると言われた。
中期的な視点ならこの割り合いの選択を勧められる。
そしてダンの本命は四割の取り引き。長期的な視点で考えるとこうなると言われた。
長い目で見ればエルバト共和国に軸足を移す方が良いのかぁ……。
でも共和制の社会がどうなのかわからんから判断がつかん。
まぁ取り敢えずエルバト共和国の使節団に会ってからだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
眠る前にスミレと少しお酒を楽しむ事にした。ゆったりとした時間が流れる至福の時間だ。
「どうする事にしたの?」
「エルバト共和国のラバル・スウィットと会ってみてだね。やはり戦争になりにくい形を取りたいよな」
「ダンが言っていた将来的にはエルバト共和国に軸足を移すって話は?」
「うーん、どうなのかなぁ。エルバト共和国がどんな国なのかわからないから判断がつかないよ。それに修練のダンジョンはここ帝都にあるしね。帝都から離れるのは現実的じゃないような気がするけど」
「ダンに確認したけど、エルバト共和国と少しずつだけど関係を強化していって影響力を強めていく方策だって。エクス帝国との関係のバランスが必要とは言われたわ」
「俺には上手く立ち回る自信がないや。まぁ俺には俺のできる事があるだろうから、それを頑張るよ。それよりエヴィーやシーファ達は随分とおとなしくしているけど……」
俺は気になっていた事をスミレに尋ねてみた。
俺が帝都に帰ってきてからエヴィーはおろかシーファ達の誰とも会っていない。アイツらがここまで俺と接触しないのを我慢できるのか? 俺は帰宅後すぐに寝室に篭った。そしてその後スミレはエルフ達と会っている。そこで何かしらの事があったのか?
「あら、だってジョージは彼女達を飼うのでしょ? だったら躾は必要よ。ジョージはペットを飼ったことがなかったわよね。私の実家では大型犬を飼っていたから躾はお手のものよ」
「し、躾って……」
「誰が主人かわからせるだけね。特にエルフは魔力第一主義だったので簡単だったわ」
その言葉が終わるとスミレの身体が強く光輝く。
濃密な魔力がスミレを包んでいる。スミレは魔力を体内循環させているが膨大な魔力量のため、魔力が身体の外に漏れ出している。
そういえば俺は魔力が見えるようになってたもんな。今は意識しないと見えにくいのに、これは意識しなくても視認できるわ。
たとえ魔力が見えなくても、誰もが本能で感じるだろうな。死の恐怖を……。
こんなの見せられたら、確かに畏怖しか感じないよ。
妖艶に笑うスミレに一気に酔いが覚めてしまった……。
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