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ジョージは魔法の使い方を間違っていた!? 〜ダンジョン調査から始まる波瀾万丈の人生〜【文庫本発売中】  作者: 葉暮銀
地位に求められるモノ

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ダンの懸念

 転居のために荷物をまとめようとしたが、スミレからエクス城に出向いてベルク宰相に挨拶に行かないとダメと言われた。

 確かにそうだよな。

 

 サイファ魔導団長にも新邸宅の建設に協力をしてくれたお礼をしに行かないと。シーファも連れて行った方が良いよな。

 今日は転居作業で忙しいだろうから魔導団本部には明日行くか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はダンを伴ってエクス城を訪れた。

 すぐにベルク宰相の執務室に案内される。


「これはこれはジョージさん、おかえりなさい。もう落ち着きましたか? 関所での話を聞いて心配していました」


 う、関所破りは俺の黒歴史の1ページになってしまうのか……。


「もう大丈夫です。迷惑をおかけしてすいませんでした」


「6日後に迫ったアリス皇女の戴冠式に間に合って本当に良かった。1月にお願いした内容を覚えてますか?」


 えっと、確か戴冠式でアリス皇女に忠誠を誓うって話だよな。

 あの時のダンの返答は後日グラコート伯爵家の総意として返事をするだったはず。

 そして絶対に公爵の陞爵は受けない。


「戴冠式にアリス皇女に忠誠を誓うって話でしたよね。えっと……」


 俺はダンに目を移す。

 俺の気持ちを感じ取り、すぐにダンが返答してくれる。


「誠に申し訳ございませんが現在こちらも立て込んでおりましてグラコート伯爵家内での意思統一が終わっておりません。3日後の3月28日にはお返事させていただきます」


 ダンの返答に鹿爪顔(しかつめがお)のベルク宰相。


「まぁジョージさんはエルフの里まで遠出してきましたからね。わかりました。3日後の返事をお待ちします。それと公爵への陞爵は断られましたがジョージさんには侯爵になっていただきたいと思っております。その件も合わせて考えてください」


 侯爵かぁ。魔導爵だった頃に侯爵家令嬢だったスミレに身分違いの壁を感じていた。

 その俺が侯爵って改めて考えると凄い出世だな。


 ベルク宰相は微笑みながら口を開く。


「それとアリス皇女の結婚相手が昨日決まりました。相手は私の甥であるエバンビーク公爵家の次男のバラフィー・エバンビークです」


 おぉ! バラフィーさんが遂にアリス皇女のハートを射止めたか!

 とても性格が良さそうな人だもんな。


「これでジョージさんも安心するでしょう。もう変な画策はいたしません」


 これでアリス皇女と結婚しなくて良くなったな。確かにこれは朗報だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 グラコート邸への帰路、ダンが難しい顔をして口を開いた。


「ジョージ様、少し危険な感じがします。今後、絶妙な舵取りが必要になるかと……」


「えっ! そうなの?」


「ベルク宰相に上手く立ち回れましたね。ベルク宰相は2日前にエンヴァディアのマルスに会っています。また魔導団のカタスや騎士団のギュンターとボードからも情報収集しているでしょうからエルフの里であった事を相当な精度で把握しております」


 ベルク宰相にエルフと混浴した事や、エルフから飼ってと頼まれている事は把握されているのか……。

 そして今、エルフ達がグラコート伯爵邸にいる事も。


「なんでそれが危険に繋がるの?」


「ベルク宰相はアリス皇女の権力基盤を固めるために早くお相手を決める必要があります。しかしアリス皇女がジョージ様をお相手に希望されていたのだと思います。それはわかっていますよね」


「まぁあからさまだったからね。でもダンがしっかりとベルク宰相に釘を刺してくれたよね」


「そうですね。これ以上画策したらジョージ様がエクス帝国を離れる可能性が高まります。ベルク宰相はこの時に諦めたと思われます。しかしアリス皇女を説得できないでいたのでしょう。この度ジョージ様がエルフの女性を数十人連れ帰ってきました。マルスとの会合を通してそのエルフ達がジョージ様に飼われる可能性が高いと判断したのでしょう。こんな好機を逃す程ベルク宰相は耄碌してません。アリス皇女を説得する手段に用いたはずです」


「説得する手段?」


「ジョージ様の奥方のスミレ様は容姿端麗で、グラコート伯爵夫妻は仲睦まじい夫婦として有名です。現時点でアリス皇女はジョージ様と婚姻を結ぶ事が大変なのは身を持って感じているはずです。しかしジョージ様に側室がいなくスミレ様一人だっため一縷の望みがありました。しかし今回ジョージ様の性的処理をする美しいエルフが数十人加わりました。このような状況でジョージ様に求婚できる女性は家に鏡が無いか、楽天家の自信家くらいです」


「いや別にエルフ達を性的処理に使わないよ……」


「現実がどうでも良いのです。アリス皇女がそう思えば良いのですから。間違いなくアリス皇女の心は折れたはずです。そしてバラフィー・エバンビークとの婚姻を決めたのでしょう」


「なら問題ないんじゃないかな。バラフィーさんはとても良い人だと思うけど」


「どうでしょうかね……。例えアリス皇女とバラフィーの夫婦生活が上手くいったとしても、アリス皇女にとってジョージ様は特別だと思います。アリス皇女はジョージ様に対して鬱屈した感情を持たれるかもしれません」


「鬱屈した感情?」


「簡単に言えば憎しみですね」


「それは考え過ぎじゃない? アリス皇女の魔力は清涼で優しい魔力だよ。そんな逆恨みみたいな真似はしないでしょ」


「清涼だからこそ簡単に濁るのです。愛する事と憎む事、どちらも相手によって自分の感情が動かされる事です。その対象に自ら介在し、反応して欲しい。それが普通の人間です」


 うん? 観念的な話になったな。わかりにくい。


 俺が理解していないのを敏感に察知したダンが丁寧に説明してくれる。


「そうですね。ジョージ様はスミレ様を愛しておられますね?」


「そりゃそうだよ」


「スミレ様を見るとどのような感情が湧きますか?」


「愛おしさかなぁ」


「スミレ様はジョージ様の感情を揺さぶる存在ですね。ジョージ様はスミレ様が喜びそうな事をしたくなりませんか?」


「そりゃスミレが喜ぶことは何でもやりたいな」


「感情が揺さぶられる相手に自分が介在して、その反応をみたいのが自然なんです。ジョージ様とスミレ様の場合は愛情で結ばれておりますから好ましい結果になります。しかしそれは憎しみでも同じ事が起こるのですよ。タイル前公爵で考えてみてください。タイル前公爵はジョージ様を見ると憎しみが湧くはずです」


 まあそうだろうけど、ダンから言われるとなんか悲しくなるわ……。


「タイル前公爵は自分が介在してジョージ様が悔しがるのを見たいはずです。男の子が好きな女の子をいじめてしまうのも同じです。感情が揺さぶられる相手に介在して反応を見たいが、子供のため介在の仕方がわからずいじめてしまう」


 男の子はそうだよな。確かに好きな女の子をいじめてしまうのは良くあることだ。


「婚姻したとしてもアリス皇女にとってジョージ様は一生感情を揺さぶられる対象だと思います。そして愛情を向けながらも憎しみも向ける可能性があります。その結果、最悪ジョージ様と敵対するかもしれません」


「考え過ぎじゃないの? そんな事になればエクス帝国から離れれば良いし」


「ジョージ様は忠誠を誓ったのに、それを簡単に反故になされるのですか? 私としてはジョージ様に不忠の誹りを受けて欲しくありません。ジョージ様の英雄譚を輝かしいものにするのが私の使命ですから」


 どんな使命や!と突っ込みたかったがダンの顔が真面目だったため控えた。藪蛇になりかねん。


「それで結局どうすれば良い?」


「なるべくアリス皇女と距離を取ったほうが良いですね。特に今のアリス皇女は感情がとても揺れ動いていると思われます。感情に流されて取り返しのつかない事をされる可能性もあります」


 アリス皇女は戴冠式を間近に控えて精神的に大変だろうな。

 そこに婚姻が追加されたんだ。確かに距離を少し置くのは良い考えだ。


「それじゃ忠誠はどうする?」


「保留でしょうね。アリス皇女の治世を確認してから決めると言えば問題ないかと」


「問題しかないんじゃない? 完全にそれは上から目線だよね? 増長していると思われるよ。それは醜聞にはならないの?」


「何を今更言っているんですか。ジョージ様がカイト皇太子に忠誠を誓わないと言っていたことは衆目の事実です。それにアリス皇女に忠誠を誓わないとは言っていません。あくまでも保留です。そして醜聞にはなりません。自分が納得しない限り決して忠誠を誓わない人物として(うやま)られます」


 (うやま)られるって、それはないんじゃないか?


  俺の怪訝そうな顔に意味深にニヤリと笑うダン。


「ジョージ様が去年、ザラス皇帝陛下に忠誠を誓ったがカイト皇太子には忠誠を違わなかった事で、巷では既にジョージ様は忠義の道理を体現していると言われていますよ」


 ダンの笑顔にゾクリとしてしまった。これってダンの情報操作じゃないのか……。

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