サラの助言【スミレの視点】
3月21日【赤の日】
昨晩遅くに帰還したギュンターさんとボードさんがグラコート伯爵邸に報告にやってきた。
しかしその報告は全く意味がわからない。
ジョージが世界樹を切り倒したら、世界樹から女神が産まれたって何?
そしてその女神がジョージを襲ってきたが、ジョージが返り討ちにして奴隷にしている!?
終いにはジョージが女性のエルフを数十人飼うようだって……。
私の認識では断じてエルフは飼うものではない。
突拍子の無い内容に頭が理解する事を拒んでいると、隣りで聞いていたダンが大笑いを始めた。
「凄い、凄すぎます! さすがジョージ様です。私の予想を軽く越えていきます。やはり英雄にかかれば私なんて凡人なんですね」
「笑っている場合じゃないでしょ」
「いやぁ、すいません。でも笑わずにはいられませんよ。世界樹の実を取りに行ったのに、その世界樹を切り倒すなんてジョージ様以外にやる人はいないですよ。女神が産まれたなんて御伽噺そのまんまじゃないですか。これはジョージ様の英雄譚に素晴らしい彩りを与えますよ。また私の想定では女性のエルフ数人がジョージ様の魅力にやられて側室になりたいと申し出があると思っていました。しかし数十人の女性のエルフを飼うって……。何をどうやったらそんな話になるんですかね。凡人である私が英雄であるジョージ様を測ってはいけない典型的な事例です」
改めて丁寧にダンから説明されると、ジョージの行いがぶっ飛び過ぎているわ……。
「ジョージ様が帰還するのは2日後の午後になりますか。各種方面に連絡を入れておきます。スミレ様はジョージ様が帰還される3月23日の午後から3月25日の朝までジョージ様をお願い致します。3月25日の午前中には今後の方針と対策をジョージ様と話し合いましょう」
お願いって……。それも2日間……。
帰還したジョージは間違いなく性獣になっているに違いない。
それはわかっているけど……。面と向かってダンからお願いされるとさすがに気恥ずかしいわ。
でもやっとジョージが私の元に帰ってくる!
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3月22日【黒の日】
明日からはジョージが帰ってきて忙しくなるだろう。一日中ゆっくりと修練できるのは今日が最後だ。
ジョージが帰ってくるまでに何とか魔力ソナーの200mの壁を破りたい。
しかし努力だけではどうにもならない事があると現実を突きつけられた。
ドラゴン討伐中は頭がお花畑だった。
愛刀の雪花を抜くと【りんりん】と柔らかい音がする。
その音に合わせて自然と鼻歌を口ずさむ。心が高揚している。完全に【ルンルン】気分だ。
【りんりんりん】【ルンルンルン】【りんりんりん】【ルンルンルン】
気が付くとドラゴンを膾斬りにしていた。
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3月23日【白の日】
今日、ジョージが帰ってくる!
考えるだけで心が高揚するし、身体が熱くなる。
こんなにドキドキワクワクしたのは子供の時の遠足以来かも。
「羨ましいなぁ」
ジョージを迎える為に身支度を整えていたが、私の髪を梳かすサラがポツリと呟く。
正面の化粧台の鏡に映るサラと目があった。
「どうしたの?」
「奥様、気が付いていますか? 今日の奥様は女性の私から見てもヤバいです」
男爵令嬢とは思えない品の無い言葉を使うサラ。
「ヤバいって?」
「色気が半端ないですよ。表向きはいつも通り知的で物静かな印象ですが……」
「きゃ!」
サラが唐突に私の首筋に指を滑らせたため、吃驚して声をあげてしまった。
「ほら、身体が相当敏感になっていますよね。こんな奥様は初めてみました。いつもの顔で澄ましていますが、旦那様に抱かれたいのが側から見て、駄々漏れですよ」
まるで全身が性感帯のように敏感になっている!?
「今日は昼過ぎから玄関ホールでジョージ様をお出迎えする予定でしたが、奥様は寝室で待機ですね」
「え、私もジョージを出迎えたいわ」
「それは同じ女性としてやめた方がよろしいかと。今の奥様をジョージ様以外の男性に見せるわけにはいかないですね。あまりにも煽情的過ぎます」
鏡に映る自分は耳が真っ赤になって、目が潤んでいた。
完全に欲情している顔だ……。
「ジョージ様が帰宅されたら、真っ直ぐ寝室に案内します。そうでもしないと玄関ホールでナニをされるかわかりませんから」
さすがにジョージでもそれは……。
確信をもって無いとは言えないわ。
ジョージだけじゃないか……。
私も自分で自分が信用できないわ。
「でも羨ましいです。ここまで一人の男性を愛せるのだから……。奥様の心は歓喜に震えています。その心に身体が反応しているんですもの。心と身体が全身全霊で旦那様に抱かれたがっている。女性冥利に尽きますね」
サラの言葉に頬まで赤くなってしまう。
結局、私はサラの助言に従い寝室でジョージを待つ事にした。





