恋焦がれる心【スミレの視点】
3月1日【青の日】
ドラゴン討伐に出かけようとしたらダンから報告があると声をかけられた。
どうやらザインが朝からいなくなったようだ。
現在、ザインはジョージより謹慎処分を受け、極力自室から出ないように言われている。あくまて極力だ。
まぁこの辺の緩さがジョージの魅力だからしょうがない。
「それで、どこに行ったかわかる?」
「そうですね。志願兵の募集がありましたからねぇ」
「志願兵?」
「カイト・ハイドース侯爵を総大将にして4月に予定されている北と東の国々の平定ですよ。帝都で大々的に募集してます」
「まさかザインが志願兵に?」
「そのように推測いたします。ここ最近は志願兵の募集要項を熱心に確認してましたから。それとアメリアともよく密会してます」
密会って!? あまりにも自由すぎる謹慎だわ……。
「アメリアってザインを【魅惑の蜜】にかけた女性よね? まだ繋がっていたの」
「アメリアは実家から縁を切られました。アメリアの実家のコール男爵家はバラス公爵家の子飼いの家です。コール男爵家はバラス公爵家から不興を買う前に処分したのでしょう。今のアメリアには頼る人がザインしかいない状態です」
随分と都合の良い話だ。騙していたザインに頼るなんて。
「それでどうするの?」
「何もしません。ジョージ様からの指示はザインには自分で考えさせるようにと言われております。私が関与するのはジョージ様の意向に逆らう事になりますから」
ダンからは何となく不満の感情を感じた。
ザインの事が少し心配だけど、結局人生は自分で考え、自分で切り拓くしかない。
できればマリウスやナタリーを泣かす事だけはこれ以上してくれるなと思った。
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3月2日【緑の日】
早朝、いつも通り一糸纏わぬ姿で座禅を組む。朝の冷たい空気が全身の肌を刺し、寝ぼけていた頭が目を覚ます。
清涼な空気をゆっくりと吸い、ゆっくりと吐く。思考が少しずつ透明になっていく。
心が揺れないように魔力を周囲に伸ばしていく。
広く、広く。薄く、薄く。
…………。
やっぱりダメね……。
200m先の魔力が感じられない。靄がどうしてもかかってしまう。
何かしらの壁を破らないとこれ以上成長できそうもない。
それから半刻ほど粘ったが、魔力ソナーの有効距離は200m弱のままだった。
諦めて瞑想を中止し、目を開ける。
そこは誰もいない寝室。
いつもは目を開けるとギラギラした眼をしたジョージが目の前にいた。
ちょっと引いていたところがあったが、あれはあれで熱烈な愛情表現なのかもしれない。
私の裸で興奮しているジョージ。
考えればそれは生命の根源の愛情表現なのかな?
つい、クスっと笑ってしまった。
私はジョージの影響をだいぶ受けているわ。
ジョージと知り合う前だったら、無理な理屈をこねて女性を裸で瞑想させ、それを鑑賞して楽しむ男性なんてドン引きだったろうな……。
ふふふ、結局惚れた男性が喜ぶ事は何でも応えたくなるのは仕方ないか。
公の場ではある程度の節度が必要だけど、夫婦二人だけの時はジョージの好きにさせておきますか。
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3月3日〜3月20日
日々鍛錬を続ける日々。
早朝の魔力ソナーの鍛錬ではジョージの魔力を感じたい一心で魔力ソナーを展開させている。
ドラゴン討伐の時はどうしてもジョージとの思い出が頭をよぎってしまう。そのため無心になるのを諦め、ジョージの事を想いながら討伐を続けていた。
そして気が付いた時には、四六時中ジョージの事だけを考えるようになってしまった。
ジョージと知り合ってからこんなに長い期間離れたのは初めてだ。
ジョージがエルフの里に出発する時、私は平静を装っていたがそれなりに不安はあった。きっと寂しくなるんだろうなって……。
そして想像通り寂しくなった。そして想像を超えて自分がジョージを求めてしまっていた。
もはや渇望といっても良いだろう。
男性を愛したのはジョージが初めてだ。私自身の恋愛経験ははっきり言って乏しい。
このような時はどうすれば良いのだろうか?
私の頭の中がジョージで埋め尽くされた頃、エクス帝国騎士団のギュンターさんとボードさんが帝都に帰還した。





