貴方の顔が浮かぶ日々【スミレの視点】
2月3日【赤の日】
ラバル・スウィットはジョージが帰還するのを帝都で待つ事になった。本格的な交渉はジョージが帰還してからだ。
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一日中、修練のダンジョンでドラゴンの討伐をして帰宅するとドラゴンが私を出迎えてくれた。
正確には精巧にできているドラゴンの彫像だ。
「奥様、おかえりなさいませ。今日、先月依頼していた三人の彫刻家によるドラゴンの像が届けられました」
ドラゴンの像は大きさは70cmくらいか、粘土で作られている。
二体で一つの作品になる為、全部で六体だ。
しかし左側二体と右側二体はその姿を表しているが、真ん中の二体には白い布が被せられている。
「どうぞ布を外してごらんになってください」
マリウスの言葉に促され、私は白い布を外した。
「こ、これは……」
言葉が出てこない。
「ドット・ベルーガ子爵の作品です。他の二人の作品も素晴らしいのですが、これは別格です。まるで生きているように感じます」
翼を広げ空に飛び立とうとしているドラゴンの像は正に空の王者を思わせる。
もう一体は鋭い爪で攻撃を仕掛けているドラゴンだ。修練のダンジョンで何度も見たドラゴンの挙動そのままだ。
二体とも今にも動き出しそうだ。
他の二人の作品と比べて迫力が違い過ぎる。これはドット・ベルーガ子爵で決まりね。
私は正式にドット・ベルーガ子爵にドラゴンの像の作成を依頼をするようにマリウスに頼んだ。
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2月4日【黒の日】
朝の魔力ソナーの鍛錬に始まり、日中は修練のダンジョンでドラゴン討伐。帰宅後はダンから借りたエルバト共和国の資料を読んでいた。
ダンはエルバト共和国の国民はエクス帝国の専制君主制の特権階級に対して忌避感が強いと言っていた。
確かにそれなら納得できることがある。エクス帝国ではエルバト共和国の人間が極端に少ない。
ダンに借りた資料によるとエルバト国民は専制君主制は劣った政治制度で馬鹿にしているそうだ。
侯爵家令嬢として育ってきた私は専制君主制が当たり前過ぎてこれには大きな衝撃を受けた。
何が優れていて、何が劣っているのか?
何が正しくて、何が間違っているのか?
何が民を幸せに導けるのか?
何がジョージを幸せにできるのか?
そして何が私の幸せなんだろう?
夜の自室で何度も自問自答しているとジョージの顔が浮かんできた。
会いたいなぁ……。
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2月5日〜2月30日
魔力ソナーの有効範囲が頭打ちになって三ヶ月以上経った。
毎朝、神経が疲れ果てるほど魔力ソナーの鍛錬を続けているが200mを超える事ができない。
200mより先は靄がかかっている感じだ。
他に選択肢が無い。心が折れそうになるが一縷の望みにかけ続けるしかない。
ドラゴン討伐は休日の【無の日】も続けている。レベルの上がり具合が悪くなってきたが、修練のダンジョンはジョージとの思い出がたくさんある為、最近は楽しくなってきている。
最近は1日1回、地下3階のオーガのモンスターハウスに寄るようにしている。ジョージのようにアイシクルアローでオーガを殲滅できるようになりたい。そしてそれは未だに成功はしていない。
ジョージはいとも簡単にオーガやドラゴンの眼球にアイシクルアローを完璧に当てる。しかしやってみるとわかる。
あれは神技だ。いやまるで神が行使する魔法、神業か……。
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気が付くと2月最後の日には私のギルドカードには250の数字が確認できた。





