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ドラゴンの魔石【スミレの視点】

2月2日【緑の日】


 私は午前中からグラコート伯爵邸の応接室にラバル・スウィットを招き入れていた。

 目の前に座っているラバル・スウィットを観察する。

 柔和な笑顔を見せているが、鋭い目付きがこちらの心の奥まで覗かれている印象を受ける。

 茶色の髪を後ろに撫でつけて、パリパリに糊の効いた白いシャツを着ていた。外交官として清潔感を大切にしているのだろう。そしてそれは概ね成功していた。


 確かに隙のない印象を受けるわ。


 互いに自己紹介が終わりラバルが話を始めた。


「今日はお時間を作っていただきありがとうございます。ジョージ伯爵が不在と聞き、とても残念に思います。この帝都に帰ってこられるのはいつ頃になるでしょうか?」


「一応予定としては3月の下旬頃になります。4月のアリス皇女の戴冠式に間に合うように帰ってきます」


 ジョージがエルフの里に向かってからまだ12日しか経っていない。まだ一ヶ月以上あるのか……。


「そうですか。それでは一度エルバト共和国に帰国する時間はないですね。さてどうしましょうか。ジョージ伯爵が不在では交渉を始めるのはやめておいた方が良いですか……」


 ジョージが帰って来るまでに私ができる事はしときたい。


「よろしければ事前に内容を教えていただけないでしょうか? 当主の判断が無くともできない事はわかりますので」


「そうですね。それではこちらの希望ですがドラゴンの魔石の買い取りです。グラコート伯爵家が入手するドラゴンの魔石の総量の五割を買い取らせていただきたい」


 総量の半分とはまた吹っ掛けてきたもんね。

 さすがにそれは無理だわ。


「誠に申し訳ございませんが、それはあり得ない要望ですね」


「そうでしょうか? これでも少なめに提案しているつもりだったのですが……。失礼ですが夫人はドラゴンの魔石の価値や影響力をまだわかっていらっしゃらないのではないでしょうか?」


 価値や影響力?


「ドラゴンの魔石は信じられない程のエネルギーの塊です。社会で一般的に使われている魔石はダンジョンの中層域の魔物の魔石です。深層域で出没するオーガの魔石は希少過ぎてもはや鑑賞品になっています」


 それくらいは知っている。魔石の質と供給量のバランスのためだ。内包するエネルギー量でいえば深層域で出没するオーガの魔石だが、いかんせん量が足りな過ぎる。


「昨年の夏あたりからエルバト共和国に冒険者ギルドからオーガの魔石が大量にもたらされました。供給源を確認するとエクス帝国の新ダンジョンでした。定期的にこれだけのオーガの魔石を得る事ができれば慢性的なエネルギー不足が解決できると我が国では沸き立ったのですが……。残念ながらすぐに供給が止まってしまいました」


 オーガ討伐からドラゴン討伐に移行したせいね。

 オーガの魔石もドラゴンの魔石も冒険者ギルドに納品している。そしてオーガの魔石は冒険者ギルドの裁量に任せているが、ドラゴンの魔石は全てエクス帝国が買い取っている。


「慌ててエクス帝国の新ダンジョンの情報を集めさせていただきました。そしてそれが昨年のジョージ伯爵との面会です。ジョージ伯爵に言われた事はエクス帝国政府に筋を通して欲しいと言われました。昨日(さくじつ)エクス帝国政府に挨拶し、グラコート伯爵家と交渉する事を伝えて参りました」


 ジョージに言われた事を随分と曲解した受け取り方ね。まぁわざとでしょうけど。


「こちらとしてはまだエルバト共和国と取り引きするかどうかも決めておりません。我がグラコート伯爵家はエクス帝国の貴族です。そしてドラゴンの魔石は貴重な資源です。貴方の希望通りにその半分を他国、それも国交の無いエルバト共和国に売却するのはあり得ない話だわ」


 ラバルの目が鋭さを増した。


「ですので先程の話になります。ドラゴンの魔石の影響力です。エルバト共和国は30年ほど前に飢饉と疫病で総人口の約三割の人が亡くなりました。(いちじる)しい人口減により国力の衰退を招いたのです。エルバト革命のすぐあと、新政府は人口増加政策を取りました。その結果、人口は増えました。しかし今は増え過ぎています。まだ大きな問題は生じていませんが、人口増加に伴い慢性的なエネルギー不足に陥っております」


 政策で人口を調整するのは難しいのは歴史が教えてくれている。

 国家に都合の良い人数だけ増えて、その後人口の増加が止まるわけがない。


「その問題を解決する可能性があるのがドラゴンの魔石です。ドラゴンの魔石は決してエクス帝国で独占して良いものではありません」


 ドラゴンの魔石の利益は国境を越えて広く人類に享受されるべきだってことね。

 ある面では正しい考え。しかし……。


「貴方の言い分はわかりました。貴方には貴方の正義があるのでしょう。そして同じようにこちらにもこちらの正義があります」


 私の言葉に慌てた様子のラバル。


「あ、気分を害されたのなら謝罪させていただきます。少し焦っていました。この件については我が国の議会が紛糾しておりまして……」


 まぁいろいろとあるんだろうなぁ。


「別に構いません。それより取り引きの条件をお聞かせくださいませんか? 当主のジョージが帰還するまで事前に検討したいですから」


 ラバルから取り引きの条件を確認したらまずは自分で考えよう。いきなりダンの意見を聞いたら解答を見ながら試験問題をやるようなものだから。

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