自然と浮かぶジョージとの思い出【スミレの視点】
1月23日〜1月29日
時間があれば修練のダンジョンに篭っている。ドラゴンの魔石を地上に運ぶのも面倒のため、放置して戦闘を続けた。
数日経つとベルク宰相から呼び出されしまった。
エクス帝国軍とロード王国軍の実力の底上げはジョージが帰還するまで中止で良いが、できればドラゴンの魔石は供給して欲しいとの事だ。
レベル上げのペースは落ちるがベルク宰相から直接頼まれたのならしょうがない。
ドラゴンを二頭討伐したら魔石を持って地上に運ぶ事にした。
このような鍛錬の日々は全く苦にならない。学生時代、そして騎士団に入団してからも続けていた。コツは何も考えない事だ。ただ感じるままに身体を動かす。
そう思っていたのだが……。
地下4階の草原に降り立つとどうしてもジョージに愛された事が脳裏をよぎる。
ドラゴンを倒した時は、ジョージと最初にドラゴン討伐に成功した時のジョージの笑顔が思い出される。
修練のダンジョンの至る所でジョージとの思い出が頭に浮かんできた。
初めは無心になろうとしていたが、どうやら無理のようだ。
諦めてジョージの事を考えながら修練をする事にした。
無邪気に笑うジョージ。
真剣な顔のジョージ。
吃驚した時のジョージ。
エッチな事を考えているジョージ。
私に優しい顔を向けてくれるジョージ。
本能に任せて私を組み伏せるジョージ。
私を抱いてくれている時のジョージの顔は大好きだ。とても幸せそうな顔をしている。
きっと私も同じ顔をしているのだろうな。
そんな事を思いながら愛刀の【雪花】を抜くと、いつもより魔力の刃の伸びが良くなっているような気がする。
ジョージが私を守ってくれているのかしら?
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1月30日【無の日】
いつものように鍛錬をして夕方に帰宅するとグラコート伯爵家臣団筆頭のダンから報告があった。
明日、エルバト共和国の外交使節団が帝都に着くそうだ。
去年の11月にはエルバト共和国は秘密裏にジョージと取り引きをしようとしてきた。
商人と偽ってジョージと接触をしたのは確かエルバト共和国の外交官のラバル・スウィットだ。
私は会っていないがジョージは隙の無い印象を受けたと言っていた。
ようやくエルバト共和国から使者が来た。グラコート伯爵家当主代理として間違った選択をしてはいけない。
気持ちを引き締める私だが、涼しげな顔のダンを見ると安心できる。
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2月1日【青の日】
今日からグラコート邸で待機する事になった。エルバト共和国との交渉で何があるか予想ができないため修練のダンジョンに潜るのはやめてほしいとエクス帝国政府から要請があったからだ。
屋敷でできる修練は魔力ソナーの修練だろう。
私は精神的に限界が来るまで魔力ソナーを展開する。
私の集中力だと1時間くらいしか持たない。休みを入れながら修練を続けていく。
夕方、私の魔力ソナーに既知の魔力を感じた。慌てて服を着て身支度を整える。
姿見で確認してから応接室に移動した。
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応接室で待っているとマリウスがベルク宰相を案内してきた。
「これはこれはスミレさん、既におられるとは思いませんでした」
私と目線が合うなり口を開くベルク宰相。
「ちょうど魔力ソナーを展開しておりまして、ベルク宰相の魔力を感じてこちらに移動致しました」
「!? もしやスミレさんも魔力ソナーで個人の識別ができるのですか? ジョージさんだけだと思っておりました」
「ジョージほどではないですけどね。それよりダンも同席してよろしいでしょうか?」
一瞬だが眉がぴくりと動くベルク宰相。
「そうですね。その方が良いかと思います。私もダンの意見を聞きたいですから」
ベルク宰相を案内してきたマリウスにダンを呼んで来るように頼もうとしたらノックの音がし、ダンが入室してきた。
「お呼びがかかると思い参上いたしました」
「相変わらずですね、ダン。機先を制して場の主導権を握るつもりですか。細かいところが変わっていないですね。小心者は大きな仕事ができませんよ」
「別にそんなつもりはありませんよ。私はただの合理主義者です。無駄な時間は省くに限るでしょう。年を取って穿った思考になりましたか?」
「口が悪いところも変わってませんね。もう少し貴方の憎まれ口を聞いていたいのですが時間は有限です。さてスミレさん、ダンも来た事だし本題に入ってよろしいですか?」
私はベルク宰相とダンの流れるような言葉の応酬に呆気に取られてしまう。
私が頷くのを確認するとベルク宰相は今日のエルバト共和国外交使節団との会合の内容を説明し始めた。





