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圧倒的な母性

3月2日【緑の日】


 この街から帝都に行く人員は一緒に来た俺とポーラと茜師匠、オリビア先輩、カタスさん。

 そして増えた人員がマルスさんとエヴィー、シーファとプリちゃんを含む元エンヴァラ親衛隊の27人。

 減ったのがライドさんになる。


 俺達の4人乗りの馬車には俺とポーラとエヴィーと茜師匠が乗り、オリビア先輩とカタスさんが交代で馭者(ぎょしゃ)を務める。

 シーファ達は街にあった馬車や馬を掻き集めてきた。4人乗りの馬車が4台と馬が20頭だ。これで全員が馬車か馬で移動が可能になった。


 俺は昨日のポーラとエヴィーの件があったので、馬車の中がどのような雰囲気になるのか心配していた。

 しかし俺の隣りには当たり前のようにポーラが座り、向かい側には茜師匠、そしてエヴィーは文句も言わずに俺の(はす)向かいにすわった。

 警護を担当する茜師匠が俺の向かい側は確定事項。だから俺の隣りの席をポーラとエヴィーが取り合いをすると思っていたが……。


 昨晩、何かしらの話し合いがあったのだろうか? まぁ揉めないならそれはそれで良い事だ。わざわざ藪を突く必要はないな。


 穏やかな空気の中、帝都に向けて出発した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 行きの行程では帝都からこの街まで馬車で22日かかった。同じ時間かかるとすると3月23日に帝都に着く計算か。


 馬車が発車して少し経つとエヴィーが首を傾げながら口を開いた。


「なんで根性魂(こんじょうだましい)を馬にかけないんじゃ?」


根性魂(こんじょうだましい)? なにそれ? 新興宗教が販売している怪しい水か何かか?」


「そんなわけないじゃろう……。根性魂(こんじょうだましい)は生命魔法の初級魔法の一つで、魂に働きかけ自分の限界を超えさせる魔法じゃ。もちろん馬にも効果がある。なるべく早く帝都に着きたいんじゃないのか?」


 根性魂……。生命魔法にはそんなものもあるのか? 縛鎖荊もそうだったが生命魔法は他人に働きかける魔法なのか?


「そんな魔法があるんだな。縛鎖荊もそうだけど、生命魔法なんて聞いた事がないんだ。確実に生命魔法は現在では失われた魔法になっているな」


「まぁ生命魔法は使い手を選ぶからのぉ。それでも初級魔法くらいはそれなりに使える奴がいたんじゃが。それよりどうする? 我が根性魂を馬にかけるか?」


 結構、ギリギリだから早く帰れるのは良い事だよな。

 でも大丈夫なのかな?


「早く帰還できるにこした事は無いんだけど、その魔法をかけられた側に何か不都合はないの?」


「そうじゃのぉ。魂に根性を刻み込み自分の限界を超える力を発揮させるから身体には相当な負担がかかる。三日程度なら然程(さほど)問題はないが一週間使い続ければ回復不可能な障害が残るのが大半じゃな。まぁ馬畜生だから問題あるまい」


 馬畜生って……。

 エヴィーは根本的に生きる物への愛情が希薄だよ。いや皆無なのかもしれない。


「馬に負担が大きいみたいだから止めておこう。馬が可哀想だし。一応予定通りでも日程には余裕があるからね」


「ぶはははっ! 馬が可哀想って! なかなか面白い冗談じゃな!」


 エヴィーが豪快に笑い出した。

 このままのエヴィーが帝都で過ごすとなるととんでもない事をしでかしそうだな。


 その後笑いが止まらなくなって苦しくなっているエヴィーを見て俺は頭が痛くなっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は外の風景を見ながら考え事をしていた。

 

 世界樹として囚われていたエヴィー。悲鳴のような魔力に俺はエヴィーを解き放った。

 しかしその選択は間違っていたのではないか?


 現在エヴィーは縛鎖荊によって俺の支配下にある。だが俺が死んだらどうなる? 俺は不老に近い存在になっているかもしれない。でも不死ではない。何かしらの事故で命を落とす可能性は否定できない。


 縛鎖荊の縛りが無くなったエヴィーは全人類にとって脅威の存在になるだろう。

 気まぐれに世界征服だってやりかねない。その場合スミレはどうなる? 俺がいないとなると個人の戦闘力で間違いなくスミレが全人類最強だろう。スミレとエヴィーが敵対したら……。


 さすがに繊細な魔力操作を必要とする縛鎖荊をスミレが使えるとは思えない。

 エヴィーとスミレが戦えば悲しい事にエヴィーが勝つだろう。

 エヴィーの性格からスミレを縛鎖荊で縛って奴隷のように扱いそうだ

 いっその事今のうちにエヴィーを殺、


「ジョージ様、とても険しい顔をなされていますよ」


 思案に耽っているとポーラが耳元で話しかけてきた。

 耳元がくすぐったい。


「ジョージ様は私の太陽です。そして多くの方の太陽でもあります。そのような顔をされないでください。貴方は皆の希望なのですから」


 ポーラは引き続き俺の耳元で囁く。同じ馬車内にいる茜師匠とエヴィーに聞こえないように配慮しているようだ。


「ジョージ様は先程のエヴィーの発言で心を悩ませているのでしょう? 是非、彼女は私に任せてください。愛情を持ってしっかりと教育させていただきますから」


 ポーラは目を見開く俺に優しく微笑んでくれる。

 あぁ素敵な女性だ。

 圧倒的な母性を感じさせる。


 俺は母親の愛情をほとんど受けていない。そして最終的には捨てられた。

 たぶん俺はスミレに愛情以外にも母性を求めているところがあると思っていた。

 それをスミレは理解していると思う。そして努力もしてくれている。

 しかし苦境の中、実際にオリビアという娘を育てあげたポーラの母性には負けるか……。


 そうだな、エヴィーについてはポーラに任せよう。


「ありがとう。ポーラの言葉に甘えさせてもらうよ。でも難しかったら言ってね。それにエヴィーって言っていて大丈夫?」


「問題ありません。オリビアちゃんの方がよっぽど聞かん坊でしたから。エヴィーは子供のように純粋ですから、言い聞かせてあげれば大丈夫です。そしてエヴィーからは愛称で呼んで良い許可を昨晩もらいましたよ。それよりも今日は私の膝枕は必要ございませんか? 半月以上ジョージ様と離れてとても寂しかったんですよ」


 ポーラは俺に告白した時のように潤んだ目をしている。

 母性を感じた後に女性を感じさせられた。

 この破壊力は凄いな。だけど昨晩のエヴィーのおかげでブレない自分がいるよ。


 俺は静かにポーラの膝に頭を乗せた。

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