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増え続ける懸念事項

2月25日【青の日】


 エルフの里の前線砦を出発し、完全にヒャッハー領域に入った。

 行きは地獄だったが、帰りはまさに天国だ。


 エンヴァラ親衛隊はやはり軍隊なんだな。三人一組でグループを作り、そのグループ数組が先行してヒャッハー連中を排除していく。


「あっちに行くのじゃ! 10人の(やから)が隠れておるわ! 我自ら切り刻んでやる!」


 そしてエヴィーが背負われながら嬉々として指揮を執っている。自分や仲間に危害が加えられそうな時だけ人を傷付けるのを許可するって俺が言ったからだな。

 堰を切ったように魔法を放ち捲っているよ……。でもわざわざ近寄る必要あるのか?


「先程の(やから)は傑作だったな! お主らも見たろ! 産まれたての子鹿のようにプルプル震えて脱糞までしおったぞ!」


 エヴィーが得意気に元エンヴァラ親衛隊に話している。


 エヴィーさん(・・・・・・)……。

 まぁ俺は何もやる必要がないので気楽なのは良い事だ。


 野営の準備も万端で至れり尽くせりだ。みるみるうちにテントが張られていく。そして俺が使うテントには組み立て式のベッドが設置されている。

 食事もきちんと用意されたものだ。やはり温かい食べ物は大事だね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


2月26日〜2月30日


 行きの修羅の道程がなんだったのかと疑問に感じながら悠々とヒャッハー領域を抜けてエクス帝国領域に入る。

 気がつくといつの間にか2月が終わっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


3月1日【青の日】


 昼過ぎにポーラとオリビア先輩と茜師匠が待機している街に着いた。

 やはりホッとした自分がいる。


「ジョージ様! お帰りなさい!」


 街の入り口のあばら屋の軒先からポーラが手を振っている。

 俺は溢れるような笑顔を見せるポーラに近寄っていく。


「ただいまポーラ。特に問題はなかったかな?」


「はい。恙無(つつがな)くジョージ様のお帰りをお待ちできました」


「茜師匠とオリビアは?」


「国境警備をしているエクス帝国軍の騎士団と鍛錬ばかりしていますね。元気が有り余っているみたいです」


 そっか、半月以上この辺鄙な街で待機していたらしょうがないわな。


 街に着くなり元エンヴァラ親衛隊のエルフ達は馬の手配に走っていった。ここまでは徒歩の移動だったが、ここからは馬と馬車での移動になる。

 俺達は馬車一台と馬三頭(二頭は馬車の牽引)で来た。必要分の馬が足りれば良いけれど。


 ギュンターさんとボードさんは馬を走らせて先に帝都に帰還するそうだ。

 カタスさんは今回エクス帝国政府の使者のため、エンヴァディアの代表のマルスを連れ立って帰還しないといけない。その為俺達と一緒に行く事になる。


「エルフの方は本当に綺麗ですねぇ。それにしてもどうしてこんな大人数になったのですか?」


 ポーラからもっともな疑問が投げかけられた。濃厚な体験だったから説明にも時間がかかるよな。


「取り敢えずご飯でも食べようか。食べながら説明させてもらうよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あらあらあら、さすがジョージ様です。まぁ未婚の女性ならジョージ様に魅かれてしまうのはしょうがないですね」


 俺の正面の席に座り食事をするポーラ。俺の隣りに座ったエンヴィーはなぜかポーラを睨んでいる。


「お主は何者じゃ! 我のご主人様に馴れ馴れしいぞ!」


 喧嘩腰のエヴィーの言葉に慈愛の顔を見せるポーラ。


「これは失礼いたしました。私はジョージ・グラコート伯爵様の専属侍女をしておりますポーラと申します。私も貴女をエヴィーとお呼びしてよろしいですか?」


「断る! 我を愛称で呼べるのは未来永劫ご主人様であるジョージ様だけじゃ! もう一度言う! お主は馴れ馴れしいんじゃ!」


「あらあら嫌われてしまったかしら? 貴女はジョージ様の筆頭下婢とおっしゃっていましたね。ジョージ様の専属侍女である私としては貴女と意思疎通をしっかりしてジョージ様をお支えしなければならないと思ったのですが……。貴女はジョージ様をお支えしないのですか?」


「別にお主がいなくても問題あるまい。我一人で充分じゃ」


「そうですか。まぁおいおい考えていきましょう。後ほどジョージ様抜きでゆっくりと話し合いましょうね」


 なんか二人の間に激しく火花が散っていないか?


「あのぉ、できれば仲良くしてほしいんですが……」


「これは失礼いたしました。ジョージ様の前でやる事ではありませんでしたね。お目を汚させて申し訳ございませんでした。さぁジョージ様は腹ごしらえをして疲れをお取りください」


 芯の強さを感じられる声だ。そしてポーラは俺に柔和な笑顔を見せる。しかし俺の背中には冷たいものが走った。


 【女性同士の争いには関与しない】が座右の銘の俺は食事をかっ込んで消える事にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 街にある最高級の宿屋の最高級の部屋でくつろいでいると茜師匠とオリビア先輩がやってきた。


「二人とも問題は無かったかな?」


 俺の言葉に茜師匠が返事をする。


「時間がたっぷりあったからオリビアやここの騎士団と模擬戦ばかりしていたよ。それにしてもジョージ様が無事に帰ってきてくれて良かった。目的の世界樹の実は手に入れる事ができたのかな?」


 あぁそうか、茜師匠から俺の子種が欲しいって言われていたな……。

 さてどうするか。本当の事を言うしかないな。


「世界樹の実は手に入れる事ができなかったよ。世界樹は俺がぶっ壊してきたから」


「は? 世界樹をぶっ壊した!? 何を言ってる!?」


 俺の言葉に変人を見るような目を向ける茜師匠。


 あらそんな目で見られると何かに目覚めそう……。


 横のオリビア先輩は笑い出した。


「ハハハ! ジョージ様は豪快だな。何をするのか全く理解できないぞ。これが英雄の資質なのか? 凡人の私が英雄のジョージ様を理解しようとしても無駄だな」


 まぁ豪快と言われれば豪快だったのかな? 否定はしないけどね。


 俺は今までの経緯を2人に説明した。


「それであんなにエルフがやってきたんだな。でも世界樹の実が得られなかったんならこの遠征は失敗だったか……」


 落胆した顔を見せる茜師匠。


「いや世界樹に囚われていたエヴィーがいる。エヴィーが使う生命魔法の一つに受精の確率を劇的に上昇させる魔法があるんだ。太古の昔、エヴィーが世界樹に囚われる前までは、その魔法でエルフは受胎をしていたそうだよ。これは大森林で会ったエヴィーの精神体から聞いた」


 茜師匠は俺の話を聞いて目付きが変わる。

 そして独り言のように呟く。


「私も覚悟を決めるしかないな」


 あまり突っ込んで聞くのをやめよう。あまりにもいろんな事があり過ぎたし、懸念事項がたくさんあり過ぎる。

 帝都に戻ってダンに整理してもらわないと……。

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