金髪の悪魔
帝都に向かうメンバーは俺とエクス帝国騎士団のギュンターさんとボードさん、魔導団のカタスさんとエルフの先遣隊のマルスさん。
この5人が男性だ。
そしてシーファとエンヴィー、プリちゃんを含む元親衛隊の26人。女性が28人になっている。
バランスが悪すぎるわ。
ライドさんはアマル姫に捕まり集落で待機になっている。ご愁傷様です。
元親衛隊の統括はシーファにお願いした。先日まで前線の砦で統括していたから大丈夫だろ。
大森林はエルフが知り尽くしているから先導は元親衛隊だ。
またエヴィーが歩きたくないとごねたため、元親衛隊の人達が交代でおんぶする事になった。
やっぱり元王様は凄いな。
俺の周囲はギュンターさん、ボードさん、カタスさん、マルスさんの男性だけになっている。
「それにしてもジョージ様には感服致しました」
隣りを歩くギュンターさんが俺に話しかけてきた。
「感服って何が?」
「そりゃこの前を歩くエルフの集団ですよ。エクス帝国魔導団のサイファ団長は容姿端麗で騎士団でも絶大な人気があります。その双子であるシルファさんを何故か従えていますし、元親衛隊のエルフ達もジョージ様に飼われるんですよね」
かわれる? もしや飼われるって言ったのか? 確かにシーファとプリちゃんには飼ってくれと言われているけど、普通はそんな概念はないぞ。
「何を言っているのか良くわからないんだけど」
「今朝、エルフの人達に囲まれまして。あんな美人連中に囲まれて久々にドギマギしてしまいましたよ。皆んなジョージ様の話を聞きたがっていました。まぁ市井で知られている内容を話したのですが、その話の中でジョージ様に飼われるためにはどうすれば良いのかって皆に言われましてね」
エルフの考えが俺にとってはぶっ飛んでいるわ……。
「飼う気は全く無いんだけど……」
「え、そうなんですか? それは本気で言っているのですかね? 同じ男として理解ができないです。勿体ないですよ。それにあのエルフ達と混浴を楽しんでいたって聞きましたよ。囲まれただけで男として幸せな気分になるのに、全裸で囲まれたんですよね。そんなの桃源郷じゃないですか」
そういえばエルフ達と混浴をしていた時にギュンターさんは軟禁されていたな。少し言葉に棘を感じる……。
「あれは騙されたんだよ。混浴がエルフの文化だってね。他意はないよ」
ギュンターさんは疑いの視線を全く隠そうとしない。
「……本当ですか? あとはしつこくジョージ様が猫好きなのか聞かれましたよ。こちらが理由を聞いても意味あり気な顔をされてしまいましたけど。心当たりはありませんか?」
心当たりしか無いわ! まさか猫耳裸土下座がここまで尾を引くとは……。
「さぁ、何故だろうね……。とんと心当たりが無いなぁ」
誤魔化せてないな。微妙な空気になってしまった。
「まぁ良いですけどね。それより本当にどうするんですか?」
「何が?」
「飼う飼われるは別にして、このエルフ達は結構な戦闘力を有していますよ。皆、ジョージ様の管理下に入るんですよね。クーデターでも起こすつもりですか?」
「そんなつもりは毛頭ないよ」
「でも邪推する人達もいますからね」
まぁそんな邪推にも慣れたよ。
「そうだね。本当、どうするんだろ?」
「何、他人事みたいに話しているんですか?」
「こういう頭脳担当はダンの仕事だからさ」
「ダンって、あのベルク宰相の懐刀と言われている文官ですか? いくらなんでもエクス帝国の文官に頼む用件じゃないと思いますが」
あ、ギュンターさんとボードさんがエルフの里に出発したのは去年の12月頭だったな。ダンを直接雇用したのが12月末だったわ。
「現在、ダンは俺が直接雇用しているんですよ。グラコート伯爵家臣団の団長になるのかな?」
「本当ですか!? あの【金髪の悪魔】を雇っているんですか!」
「どの【金髪の悪魔】は知らないけど、ダンは金髪の長髪を無造作に後ろで結んでいる、頭が恐ろしいほど切れる眉目秀麗な男性かな」
ゴクリと唾を飲み込むギュンターさん。
「それじゃ間違いないです……。ジョージ様は本当にエクス帝国を乗っ取るつもりが無いんですか? 側から見ると乗っ取る以外に考えられませんが……」
「なんでわざわざ仕事を増やすような事をしないといけないの? 悪いけど俺は基本的に働きたくない人だからね。国なんか乗っ取ったら激務になる事がわかりきっているでしょ」
ギュンターさんは俺の言葉に納得がいかない顔をする。
「政治は誰かに任せれば良いじゃないですか。ジョージ様は最高戦力として悠々自適、のんべんだらりと過ごせば良いんですよ」
「統治者になればそういうわけにはいかないだろ。他の人に政治をやらせたとしても責任までは無くならない。それが労力なんだよ。俺はスミレを愛する事に忙しいの。スミレを全力で愛した後の余力で何かするのは良いけどね。責任を持つのはグラコート伯爵家に関わる人だけで良いよ」
スミレを愛する事に全精力を傾けたいよね。あ、精力も直接注ぐけど……。
「案外まともな意見ですね。少し驚きましたよ。ジョージ様の考えはわかりました。まぁ金髪の悪魔だったらなんとかバランスを取りますか」
「その金髪の悪魔ってなんなの?」
「恥ずかしながら前任の騎士団長時代に予算の不正流用がありまして……。それを発見し、証拠集めをしたのがダンです。その裏取りは非の打ち所がないもので、不正をおこなった者達は全く言い逃れができませんでした。エクス帝国の醜聞になる為、内々に処理されましたが苛烈に不正を追及するダンに高位貴族出身の団員ですら震えておりました」
そんな事があったんだ。知らなかったなぁ。
「でもそれは不正をした人達が悪いでしょ。不正を追及したダンを悪魔呼ばわりはちょっと無いんじゃない?」
「ダンの裏取りの仕方が恐ろしかったのですよ。その人の弱点を完璧に付くんです。弱味を握って脅したりすかしたりするんですから……。あんな事をされたら誰でも白状しますよ」
容易に想像ができてしまうところにダンの凄みがあるな……。
今後もダンの敵にはならないようにしようっと。





