愛玩エルフ
さて大広間を出てきてしまったが出発までの時間をどうやって過ごそうか。
「ジョージ様!」
世界樹が無くなり、エルフのほとんどがエクス帝国の帝都に移住するとなると、この集落のエンヴァラは消失する運命だな……。
「ジョージ様! 待ってください!」
せっかくだからこのエンヴァラの街をぶらついてみるか。
「もう! 止まってください!」
歩いていた俺の前に駆け足で回り混んできたのはプリちゃんだ。
聞こえないフリをしていたが、やっぱり無駄な抵抗だよな……。
できれば痛い娘の相手はしたくないがしょうがないか。
「あぁ、ごめん。考え事をしていたからね。それで何か用?」
「喜んでください! お母さんの許しをもらいました! これでずっとジョージ様と一緒にいられます」
満面の笑みで迷惑でしかない情報を伝えるプリちゃん……。
頭が痛い娘に俺の言葉が通じるとは思えないが、それでも話すしかないか。
「あのね、プリちゃん。何度でも言うけど俺は君とは結婚する気がないの? 俺には既に最愛の女性がいるから間に合っているの? 理解した?」
「大丈夫です。問題ありません。その件はお母さんに相談して解決策を教えてもらいました」
変わらず満面の笑みを浮かべるプリちゃん……。嫌な予感がして背筋に冷たいものが走る。
「お母さんからは奥さんが駄目なら愛玩エルフになりなさいって言われました!」
「あ、愛玩エルフって何? 昨日、エンヴィーも言っていたけど……」
「愛玩エルフはその名のとおり、特定の人間に可愛がられるエルフです。エルフは容姿が整っていますし、妊娠もしにくく、長生きのため長い間愛でることが可能です。そして愛玩エルフはご主人様との性的関係を伴う事が多いです」
「それってエルフ狩りをされて性奴隷にされたエルフじゃないの?」
「それも愛玩エルフの一種ですね。ただ愛玩エルフに自ら進んでなる場合もあります」
「自ら進んで?」
「はい。貞操観念の強い未婚のエルフはあり得ませんが、旦那様に死なれて未亡人になったエルフが苦渋の選択をして愛玩エルフになるんです。資産家の人間と20〜30年程の契約を結ぶんですよ。御勤めをこなせば相当なお金が稼げますから」
あら、専属契約娼婦になるって事か。
「あと例え人間とエルフが愛し合ったとしても、人間とエルフとの結婚にはいろいろな障害が発生しやすいんです。どうしても生きる時間が違い過ぎますから」
「障害?」
「一番多いのが資産の相続ですね。資産をたくさん持っている方のご家族はエルフとの結婚は認めたがらないです」
なるほど。どうしても先に死ぬのが人間になる。そうすると配偶者のエルフが多くの資産を受け継ぐ事になるのか。
「そのような面倒事を忌避するために資産家の方との結婚は選択しないで愛玩エルフになるんです。それなら相続問題が生じませんから。ジョージ様はエクス帝国の伯爵様です。当然資産家でありますし、奥様もおられます。私が愛玩エルフになるのが一番しっくりときますね」
なるほどねぇ。歴史の知恵なんだろうなぁ。
でも奥さんもお断りだけど愛玩エルフもお断りだよな……。
「愛玩エルフの意味は理解したよ。でも悪いけど愛玩エルフも間に合っているんだよね」
目を見開くプリちゃん。
「ジョージ様、正気ですか? 王侯貴族であろうと愛玩エルフを所有する事は難しいんですよ。こんな僥倖を自ら捨てるなんて信じられないです」
おぉー! プリちゃんも若いながらもエルフやな。
相当自分の容姿に自信がある言葉だ。
シーファにも言ったが、上には上がいる事を理解してもらわないとな。
「プリちゃん、君が自分の女性の魅力に相当自信があるのがわかったよ。どうせ断っても帝都まで付いてくるんだろ? いいよ、付いてきな。そして自分の目で確かめるんだな。俺が当たり前の選択をしているだけだと」
俺の返答に面食らっているプリちゃん。しかしすぐに体勢を整える。
「了解致しました。それでは喜んで帝都までジョージ様に付き添います。どんな事があろうともジョージ様の愛玩エルフになってみせますから」
透き通る青空の下、高らかに俺に宣言するプリちゃんだった。





