野外でテントを張るジョージ
【疾走する颯、無慈悲に斬り裂く刃となれ、ストームブレード!】
風の刃に切り落とされる世界樹の枝。
【苛烈なる炎、遍く全てを灰塵とするため踊り狂え、フレイムダンス!】
炎に包まれる切り落とされた世界樹の枝の山。
もう何回見た光景だよ……。
さすがにウンザリしてくるわ。
努力の甲斐あって、世界樹は最初より目に見えて小さくなっている。そうじゃなけきゃこんな作業は続けられないよな。
ギュンターさんとボードさんは飽きてきたのか対人訓練を始めてしまった。軟禁生活で運動不足なのかな。それともただの脳筋か? 訓練のために剣を渡したわけじゃないんだけど……。
魔力が厳しくなったシーファは休憩中だ。しかしずっと俺を凝視し、右手で左胸を捏ねくり回して股をモジモジさせている……。
うん、変態確定だな!
ロックウォールで身体を固められているアマル姫は世界樹の枝を切り落とされる度に泣いていた。
さすがに泣き疲れたのか今は呆然としている。焦点が合ってないような……。
エンヴァラの民に取って世界樹は信仰の対象だもんな。それにウィンミル家は代々世界樹に魔力を注ぎ込んできた家だし。
なんか混沌としてきたよ……。
気にしたら負けだよな。
俺はひたすらに魔法の詠唱を続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
や、やっとここまで来たぞ。
既に呪文の詠唱のしすぎで喉がガラガラだ。それでも俺の魔力が尽きる気配が無い。まだまだいくらでも魔法がつかえそうだ。喉がもたないけどね。まさか魔力量よりも先に喉に限界がくるとは……。
ちょっと小休止だ。
世界樹はいまや普通の木の大きさになっている。ドラゴンを軽く超える魔力反応もオーガ並みになった。断末魔の叫びのような魔力はほとんど感じられない。歪過ぎる魔力は影を潜め、神々しさを感じる。
小鳥の囀りが聞こえきた。周囲を見るといつの間にか小鳥が集まって来ている。
お前らも姫のお目覚めを待ち望んでいるのか。もう少しだから待ってろよ。
俺は小鳥の応援を背に呪文の詠唱を再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
空耳? これは歌っている!?
断末魔の叫びを発しているようだった世界樹の魔力が小鳥の囀りに合わせて旋律を奏でていた。
魔力が喜んでいるよ……。
不思議と頭と身体の疲れが抜けていく。この歌が原因?
よくわからんが、体力気力が漲ってくる。
ついでに精力も漲ってきた……。
ギンギンで痛いよ。これは外から見ても俺の暴れん坊が確認できてしまうな。
こういう時は堂々とするに限る。知らんぷりだ。
俺は膨らんだズボンの前を隠しもせず詠唱を再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
世界樹の歌?のおかげか、ガラガラだった声も治っていた。
世界樹を見ると最終段階に入った事がわかる。
遂に世界樹を閉じ込めている魔法の本体が姿を現した。
世界樹は禍々しい黒色の魔力で出来た蔓で雁字搦めになっている。蔓には小さな棘が飛び出しており、世界樹の幹に傷を付けていた。
これで最後だな。
蔓のみに命中させないと世界樹の本体に傷を付けてしまう。そして魔法の威力が弱いと鎖を断ち切れない。
最高峰の精度と威力を備えた魔法が必要だ。
俺は一切迷わずに呪文の詠唱を始めた。
【静謐なる氷、悠久の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】
パリン! パリン! パリン!
魔力でできた蔓の断ち切り音はガラスを割るような音だった。これは世界樹を縛り付けていた魔法を破る音なのか。
世界樹の魔力の神々しさが増していく。
気が遠くなる程の長い期間、縛り付けられていた世界樹。その呪縛を解き放った今、存分に魔力を周囲に発している……。
これは凄いな……。
軽くドラゴンの魔力量を超えているよ。たぶん俺には劣るけど、スミレと良い勝負かも。
ただ、魔力の高貴さは比べる者がいないな。圧倒的な高貴さ。これは俺には一生出せんよ。
世界樹が金色に光っていく。それに伴い樹木の形をした世界樹が薄くなる。その中心に人型が実体化していく。
光がその中心の人型に収束して、光るのが収まった。
人型は先程出会った恐怖を覚えるくらいの美人さん。しかし何故か魔力で見た時と比べて若い?
人間の28歳前後に見えていたが、今は16歳前後に見える。なんで若返るの?
16歳くらいのあどけなさを感じるため、恐怖を覚える容姿が少しだけ和らいでいる。それでも怖いくらい美人だけど……。





