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眠れる森

「シーファ、エンヴァラに着いたら君の試験をやるよ。グラコート伯爵家の家臣団に入団できるかどうかの試験だ。俺が認めたならダンの説得を責任を持ってやるから安心してくれ。合格基準は俺の命令を忠実にこなせ。そして俺を絶対的に信頼するだけだ」


 急な俺の真面目な会話に自分の左胸に右手を添えるシーファ。


「了解致しました。よろしくお願い致します。でもそんな簡単な事でよろしいのですか?」


「簡単かどうかは俺にはわからないよ。でもシーファには難しいと思うけどね」


 シーファは左胸に添えた右手で強く胸を握り締める。


「この刻印に誓って私はジョージ様を絶対的に信頼しております。もしこの言葉が(たが)えたなら、自害してお詫びさせていただきます」


 あれれ? 軽い余興でやるつもりだったのに……。

 真剣過ぎるぞ、シーファニャン……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 木々の隙間から前方の巨大な樹が目に入ってくるようになった。

 そして空が茜色に染まる頃、目の前の景色が急に開けてくる。

 エンヴァラの集落が見えてきた。魔力ソナーの反応は500人前後か。


 エンヴァラに続く道は綺麗に舗装され、そのまま街を囲む外壁にぶち当たる。目の前の正門は綺麗に完全に開放されている。

 不用心だよな? ここは一応ヒャッハー!領域だよ?

 もしやこれはライドの檄文にあった金色(こんじき)の儀? 確か金色の儀はエルヴァラの四方向の門を開放し、掃き清め救世主をお迎えする儀式だったよな?

 昨日のマルスの対応から、こんな事はしないと思っていたんだけど……。


 どうやらマルスが昨晩遅くに帰還させた数名の報告で対応を変えてきたな。

 軽く敵対された方がやりやすかったんだけどなぁ。昨日の俺の忠告を受けてこれだけ早く対応するなんてマルスってできる男なんだな。


 先頭のクロル・ウィンミル元帥とマルス・ウィンミル親衛隊長が正門脇に立っているエルフの集団に向かって走り出した。

 その後にエンヴァラ軍と親衛隊が続く。

 残されたのは俺とシーファの二人。


 少し経つとエンヴァラ軍と親衛隊が二つに割れ、その間から二人の男女が歩いてきた。その後ろにはクロルとマルスが付き従っている。

 先頭の男女は俺の前に立ち頭を下げる。

 

「私は母なる世界樹の護り人をしているガイダス・ウィンミルです。隣りにいるのが妻のランです。ジョージ伯爵様、エンヴァラへようこそお越しくださいました。エンヴァラを挙げて歓待させていただきます」


 世界樹の護り人(・・・)って言葉にキレそうになるが気持ちを落ち着かせた。俺の頭の中では世界樹の断末魔のような叫びが鳴り響いている。

 世界樹の精はここまで付いてきていない。あれは世界樹から分離した第二の精神体と自分で言っていた。世界樹に近づくと苦しみを感じてしまうため、近寄らないそうだ。


「初めまして、エクス帝国ジョージ・グラコート伯爵です。歓待していただけるとは驚きですね。今までのそちらの対応から考えると想像できませんでした。それに歓待を受ける前にやらなければならない事がありましてね」


「不幸な行き違いがあった事は残念です。しかしその複雑に絡み合った困難な状況を修正はできると考えております」


 うわっ……。残念って、ただの貴方の感情じゃん。なんとなく謝った雰囲気を出しながら、その実、謝罪が全くないわ……。


「別に俺には関係の無い事です。ただ、やらなければならない事がありますので、粛々と実行するだけですね。まずはそちらで軟禁されているギュンター・カスケード、ボード・サバット、カタス・ドラムバード三名の早急な解放を要求する。この要求をエンヴァラが受け入れ無い場合はこちらに敵対したと見做し攻撃を開始する」


 俺の要求にチラッとマルスに目線を送るガイダス。


「そ、それは無茶です! エンヴァラは決してジョージ様に敵対するつも」【静謐(せいひつ)なる氷、悠久(ゆうきゅう)の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 36本の氷の矢が左右の森に放たれる。


「がっ!」「げっ!」「きゃっ!」「うおっ!」


 そして12人の悲鳴が上がった。


 こいつら馬鹿なの? 魔力ソナーで両脇の森にエルフが潜んでいるのがバレバレなのに? 砦の情報を知らないわけではないだろうに。


「ば、馬鹿な……。眠れる森の精鋭を感知しているのか!?」


 うん? ガイダスが知らん単語言っとるなぁ。


「眠れる森って何?」


「は、はい! ウィンミル家を裏から支える部隊です。諜報や暗殺に特化しています。特に森の中での戦闘には絶対的な力を有しております」


 シーファの説明にエンヴァラが敵対する気満々と理解したよ。


「どれ、まずは軽い力試しが終了しましたね。そろそろ本格的にやりましょうか?」


 マルスが俺の言葉に慌てて声を張り上げる。


「待て! いや、待ってください! 急いで軟禁されている三人を連れてきます!」


「初めからそうすれば良いんだよ。血を流さないとわからないのだから本当に始末に終えない。あ、それと魔力ソナーで三人の居場所は把握している。無駄な時間稼ぎは通じないからね」


 俺の言葉に渋い顔をするマルス。

 男がどんな顔しても気にしないけどね。

 取り敢えず三人が来るまで待つか。当たり前だが、少し雰囲気が悪くなったな。


 俺とシーファはエルフの集団から声の届かない場所まで移動した。


「ジョージ様! 凄いです。凄すぎますね。眠れる森の部隊を感知できるなんて……。神業です!」


「ガイダスも驚いていたけど、眠れる森って部隊はそんなに凄いの? 別に普通だったよ」


「今まで眠れる森の隊員を感知できた人はほとんどいません。ましてや森の中に潜まれたら不可能と思われていました。全エルフばかりか、東の国々の人にも恐れられていますよ。眠れる森に狙われたら人生の終焉だって。この地域の恐怖の象徴が眠れる森です」


 恐怖の象徴ねぇ。きっとこれからは俺がそうなるのかな……。

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