俺の心に届く謝罪方法
ここからは俺の番だな。スミレ! 俺、頑張ってみるよ……。
「シルファさん、貴女の言い分はわかりました」
俺の言葉に顔が綻ぶシルファさん。
「そうですか、わかってくれましたか。それではプリアに何をしたか教えていただけるのですね」
「勘違いされては困ります。貴女の言い分は理解したと言っただけです。断じて貴女のお願いを叶えるとは言っておりません」
息を飲むシルファさん。取り敢えずお前は黙ってろ!
「随分と好き勝手に言ってましたね。一つ一つ説明してあげますよ。僻地の山里の山猿にも理解できるようにね。まず、不作法をしたのはシルファさん個人と言ってましたが、そんな言い分が通るわけがないですよね。例えば俺はグラコート伯爵家の当主です。またエクス帝国の伯爵です。ジョージという個人にグラコート伯爵家の当主という属性とエクス帝国の伯爵という属性が足されて、現在の俺になっているんですよ。その属性を都合の良い時だけ付けたり外したりなんかはできないし、社会的に認められない。あくまでも俺に不作法したのはエンヴァラ親衛隊副隊長のシルファだ。これは当たり前のことです。よって貴女が個人の立場で謝罪をしたって意味が無い。この件はエクス帝国グラコート伯爵家当主ジョージ・グラコート伯爵として正式にエンヴァラの長老に抗議をさせていただく。おわかりいただけたか?」
「……了解致しました。でも、」
「取り敢えずお前は黙ってろ。反論があるのならあとから聞いてやる」
口を噤むシルファさん。美人をやり込めていくのは興奮するなぁ。尚且つシルファさんはサイファ魔導団長に瓜二つ。まるでサイファ魔導団長を虐めている感覚になるよ。堪らんわこりゃ。
いかんいかん。今やる事はグラコート伯爵家の矜持を示す事だ。
「次に3日の猶予の件だが、俺がエンヴァラの長老や民と衝突したり摩擦が生じたとしても俺は何の痛痒も感じない。俺の敵になるなら排除するだけだからな。お前は根本的な認識が間違っている。3日の猶予を与える事を約束したのは、俺の気まぐれな優しさだ。しかし気まぐれなんで、気が変わる事もあるのを理解しろ。何が俺のためにもなるだ。笑いを通り越して呆れるわ。今後一切履き違えるな。お前みたいな馬鹿が上司だからプリちゃんがあんな風になるのも当たり前なんだよ」
シルファさんが凄い目つきで俺を睨みだした。ギリギリと奥歯を噛み締めている音が聞こえる。とても良い兆候だ。
「あとはプリちゃんの事か。お前らが俺に【魅惑の蜜】を仕掛けてきたのはわかっている。あぁ、別にお前は認めなくても良い。しかし俺の中ではそう認識した。その時点でお前らはグラコート伯爵家の敵になったんだよ。俺はプリちゃんに何もしていないが、たとえ何かしていたとしても何で敵にそれを教える必要がある? 教えてもらえると考えているお前は頭がイカれてないか?」
完全に怒っとるなぁ。しかしこれからが本番なんだよ。
「交渉事には力が無いとダメだ。交渉相手との力のバランスをお互いに考えて妥協点を探していく。これが基本なんだよ。しかし俺とエンヴァラとでは交渉事になり得ない。力の差があり過ぎるからだ。結局、エンヴァラの未来は俺の気分次第なんだよ。そしてお前らが仕掛けた【魅惑の蜜】で俺は相当気分を害している。ここまでは理解したか?」
微動だにせず俺を睨み続けるシルファさん。怒りが頂点を超えた感じかな?
黙ってろって言ったのに口を開くシルファさん。
「それは脅しか? 確かに私はエンヴァラの滅亡は避けたいが、それでも矜持は持ち合わせている。理不尽な要求は受け入れるつもりは毛頭無い」
「理不尽な要求? 俺は誰が見ても紳士的に振る舞ってきたつもりだが? 理不尽な要求や理不尽な事をしているのはお前らだろ」
さて、そろそろ本題に移るか。
「お前は何回か俺に謝罪の言葉を口にしている。これは正しい選択だ。俺は今、気分を害しているからな。しかし上っ面の言葉じゃ状況が悪化するだけだ。謝罪は謝罪する心が相手に伝わって初めて意味を持つ」
「私の謝罪を再度求めているのか? 先程は私が個人の立場で謝罪をしたって意味が無いって言ってたじゃないか」
「シルファさん。貴女は心の機微がわかっていない。謝罪を受ける側が意味が無いと言ってたからといって諦めてどうする。本当に許してもらいたいなら、もっと必死にならないと」
俺はゆっくりとシルファさんの胸に視線を移す。
その視線を敏感に察知して、無言で俯くシルファさん。
俺の意図を察したな。
「俺は自分で言うのもなんですが、結構紳士なんですよ。女性が困っていると助けたくなってしまいます。今回は特別に俺の心に届く謝罪方法を教えてあげましょう」
恐々と俺を見るシルファさん。そんなにビビらんでも大丈夫だから、たぶん……。
「以前、夜の大人のお店に行った時にそこの女の子に悪さをしでかした奴がいましてね。そいつはお店の関係者にボコボコにされて裸に剥かれて正座させられていましたよ。全裸で正座をして謝り続ける男性。まさに最上級の謝罪の姿。これぞ真の謝罪。俺にとっては衝撃的な出来事でした」
肩を竦めるシルファさん。残念ながら全裸謝罪だけじゃ無いんだよ。オプションも付けてあげるからね。
「話は変わりますが、サイファ魔導団長はエクス帝国軍の憧れの存在です。俺自身も独身時代にはいろいろとお世話になりました。サイファ魔導団長って気品がありますよね。俺の中では猫のイメージなんです。そのサイファ魔導団長が両拳を猫耳に見立てて頭に添えながら謝罪されたら、大概な事は許してしまいますね。あれ? シルファさんってそういえばサイファ魔導団長と双子でしたね」
どれ、ここまで言えはわかるだろ。あとはシルファさんの覚悟が決まるのを待つだけだ。





