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檄文!?

 カタスさんの毒味が終わるのを今か今かと待つ。裸のスミレを前にお預けされた夜を思い出す。

 焦燥感にも似た衝動が起きた時、カタスさんからOKが出た。


「先程は恥ずかしいところをお見せして申し訳ありませんでした」


 俺は何か(・・)の肉の塊を頬張っていた。独特の癖がある肉だが、野生化している俺には関係が無い。

 シルファさんの言葉は聞こえるが返事をする暇があったら俺は肉を頬張る!


「凄いですね。イノダンの肉は初めて食されるのですよね? 独特な癖のある味のため、苦手な方が多いんですよ」


 これがイノダンの肉か。確か東のどっかの国の名産だったな。

 まずはこの肉を片付ける事が何より優先!

 相槌を打つことすらせず、俺は肉を頬張る。


「お話は食事の後にしましょうか。まずはお食事をご堪能してください」


 それじゃシルファさんの言葉に甘えて目の前の肉との格闘に集中させていただくか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「改めて自己紹介をさせていただきます。エンヴァラ親衛隊副隊長シルファと申します。先程はそこの愚兄のせいでジョージ様へ大変失礼な事をしてしまい申し訳ありませんでした。ジョージ様に攻撃するつもりが無かった事をご理解していただきたい」


「愚兄って……。それは無いんじゃないかシルファ。さっきも腐れ外道って言うしさ」


 口を挟んだライドさんをキッと睨みつけるシルファ。


「悪いがお前は黙っていてくれないか? 私はジョージ様と話しているのだから」


「わかった、わかった。もう何も言わない。好きにしてくれれば良いさ」


 ライドさんはそう言ってお茶を飲み始めた。

 シルファさんは溜め息を一つついて俺に向き直す。


「こちらの状況をジョージ様に説明させていただきます。このライドはエンヴァラの長老の娘であるアマル姫と結婚する予定でした。しかしこともあろうにアマル姫との結婚式の当日に行方をくらませたのです。当然ながらエンヴァラは上を下への大騒ぎになりました。我々はライドの行方を追いましたが、消息が全くつかめませんでした。諦めかけていた矢先、エクス帝国騎士団を名乗るギュンター・カスケードとボード・サバットがライドの手紙とペンダントを持ってエンヴァラを訪れました」


 あ、そういえばギュンターさんとボードさんは無事なのか?


「すいません。ギュンターさんとボードさんはまだエルフの里にいるんですか?」


「誠に申し訳ないのですが、お二人は軟禁させてもらってます。しかし健康には充分注意を払っております」


「軟禁? どのような理由で? 二人は何か悪い事をしましたか?」


「ジョージ様のお怒りは良く理解できます。しかしこちらの立場も理解していただきたいのです。(よう)として行方の知れないライドの手紙とペンダントを持参した屈強な男性2名。その男性2名は強大な国家であるエクス帝国の騎士団と名乗る。そして手紙の内容が荒唐無稽な内容、意味不明です」


「意味不明って?」


 シルファさんは手紙を胸元から取り出した。

 封筒から便箋を取り出し、演技がかった口調で大袈裟に読み上げる。


「聞け! エンヴァラの民達よ! 母なる世界樹の危機に我等が待ち望んでいた救世主が現れた! 伝説は繰り返される! 今冬、救世主様がエンヴァラを訪ねていただける運びになった。我々は奇跡を目撃する歴史の証人になるであろう。エンヴァラの民は金色(こんじき)の儀をもって救世主様を出迎えるように」


 げ、檄文(げきぶん)やん!?


「これって……」


「そうです。この手紙はギュンターから渡されたものです。エンヴァラに伝わる伝説の魔導師の再来。そんなのは誰も信じられませんでした。800年前の話ですよ。子供を寝かせ付ける時に聞かせる御伽噺なんです。どうやったら信じられるか教えて欲しいくらいです。私たちはギュンター達が何か良からぬ事を計画していると判断致しました」


 ありゃ、これはライドさんの手紙の内容がダメなんじゃない?

 それでも軟禁するのはどうなんだろう?


「この手紙が罠であると確信した決定的な文面が金色の儀を持って救世主を出迎えるという箇所です。金色の儀とはエルヴァラの四方向の門を開放し、掃き清め救世主をお迎えする儀式です。800年前に伝説の魔導師はエンヴァラをすぐに旅立たれました。それを悔やんだエンヴァラの民は伝説の魔導師の再訪を願いました。そして金色の儀は世界樹を救ってくれた伝説の魔導師をお出迎えする最高の礼として制定されます。当たり前ですが、エルヴァラで金色の儀など今までやった事もありません」


 金色の儀は制定されたが、実施された事の無い幻の儀式なのね。なるほど、何かカッコ良いな。グラコート伯爵家でも何か儀式を制定するか。帝都に戻ったらダンに相談してみよう。


「金色の儀で問題なのが四方向の門を開放するところです。これは伝説の魔導師が何処から来られても不都合の無く出迎えができるよう、そのようになっておりますが、今の周囲の国々の状況で四方向の門を開放するなんて危険しかございません。エルヴァラの民が蹂躙されてしまいます」


 周囲はヒャハッー!の世界だもんな。エルフは性的な対象として人気があるみたいだし……。


「手紙の内容からライドが関わっているのは確実です。金色の儀なんてエルヴァラの民しか知りませんから。エルヴァラを出たライドがギュンター達に捕まり、脅されているのではないか? もしくは進んで協力している可能性もあるかもと思っていました」


「進んで協力なんてあるわけがない! 僕が同族を売るような真似をすると思ったのか! 失礼じゃないか!」


 ライドさんに軽蔑の眼差しを向けるシルファさん。オプションサービスがまだ続いているようだ。


「お前が今までやってきた事を思い返せ。お前は研究のためならエンヴァラを売る事すら辞さない。ましてや結婚式当日にいなくなった奴の思考など普通の物差しで計ってはダメに決まっているだろ。お前は異常者なんだ。そろそろ自覚しろ」


 あら、結構辛辣な御言葉。今まで何をやってきたんだライドさん……。

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